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ドイツに住む外国人の私も選挙ができるー体験談

先日、私の住むドイツのノルドライン・ウェストファーレン州で、市町村レベルの選挙が行われた。そこで、ドイツ人の知り合いに外国人の私も聞かれた。

「昨日選挙に行った?」

なんと、ドイツにおいては、地方選挙で、外国人も一部投票することができる。選挙の投票用紙が、EU市民でもない我が家に届いた時には、我が目を疑った。非EU市民には選挙権はないと聞いていたから。(ドイツ在住のEU市民は、ドイツにおいてEU議会の議員の選挙に投票することができる)

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と言っても、外国人住民に、いわゆる国民の代表者となる、議長や議員等の選出に対して一票が与えられているわけではない。しかし、外国人住民は、居住する地方自治体に属する、外国人評議会の外国人メンバーを選ぶための選挙において、一票を投じることができる。

この外国人評議会は、移民や外国人の問題とその待遇、統合等について、実際の政治に関わる議会の代表者と外国人メンバーで定期的に議論する。間接民主制をさらに間接的にしたような、外国人評議会のメンバーが外国人住民の私たちの代表となる。

民主主義国家として、もはや人口の4分の1から5分の1くらいを占める外国人住民の声は無視できないということから、その外国人住民の声を間接的に入れるという仕組みだ。5年に1度の地方自治体の選挙のタイミングで、外国人もこの外国人評議会に投票できるようになっている。

ドイツに来てたった1年、まだ十分にドイツ語も話せないし、それほど社会に溶け込めていないような、私のような外国人でも、非常に間接的に意見を示すことができる仕組みがきちんと整っていることに驚くばかりである。



…そのように高度そうな制度が整い、外国人に寛容そうなドイツも、70年代までは「移民国」ではないと言い切っていて、外国人の長期滞在等についてはそれほど寛容ではなかったらしい。しかし、法治国家・福祉国家として、裁判所が外国人の権利の拡大を求める判決を出し続け、なし崩し的に外国人が永住をしていくような移民国家に徐々になって行ったらしい。

そんな中、民主主義国として、80年代後半から90年代にかけて、外国人へに参政権を与えるかどうかという議論があちこちで大きく起こった。州レベルで外国人に地方参政権を与える法案を可決したところもあったものの、その後さらなる大議論が起き、結果裁判所が違憲とし、外国人の実際の参政権は認められなかったそうだ。

それでも増え続ける外国人市民の声を政治に取り入れるのが民主主義だとして、妥協の末に、外国人が地方自治体における外国人の代表を選べるという権利が与えられたのだと思う。外国人でもドイツ国籍を取得すれば、選挙権を得られるようになるのだけれど。

なお、私たち外国人住民が直接投票できる、市町村レベルの外国人評議会の上位機関として、州レベルの組織があり、その代表が定期的にミーティングを行っている。そして、そのさらに上位の連邦レベルには、1998年に設立された連邦移民·統合協議会というのがあるらしい。地方レベルならばともかく、連邦レベルにまで行くとどこまで影響力があるのかは想像できないけれど、外国人の意見を吸い上げる仕組みがきちんと制度化され、運用されているというところに感心するばかりである。




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それにしても、今回の選挙、コロナのせいで人数制限が厳しく、長蛇の列が続き、待ち時間はトータル1時間。誰か見張っているわけでもないのに、投票所の前では、みんな几帳面に1.5m間隔を開けて、長時間並んでいるという真面目っぷり。並ぶスペースが全て屋外だったから不安はなかったけれど、評判はかなり悪そうだった。あまりの列の長さに驚き、引き返している人たちも目にした。投票率は50%を下回ったようだ。と行ってもドイツでも投票率の低下が悩みのようで、前回の選挙時も投票率は50%以下。事前に投票する制度も設けられていたが、コロナだとか列が長いという理由で特に投票率が下がったということはなかったようだ。 

なお、外国人による外国人評議会に対する選挙の投票率はたったの15%…。勿体無い。というのも、投票する側としてのオペレーションミスが非常に多かったと思う。投票先がどこなのか行くまでわからなかったり、選挙通知も用紙もドイツ語表記しかないし、詳細の説明もないし、コミュニティに属さない私達は、一体誰に投票すればいいのか全くわからなかった。きちんと自分で調べるということをしない限りはよくわからないまま通り過ぎてしまうかもしれない(このオペレーションミスはうちの自治体に限ったものであれば良いのだが…)

結局、選挙に行ってみたら、複数存在する移民の組織(主に民族系)もしくは立候補する個人に比例投票制のように投票する形式になっていた。結果的には、トルコ系のグループが最大の得票を得たようだ。たったの15%の投票しかなく、トルコ系ばかりが投票に行かなかったのではないかと思う。。。(制度は整っていて、運用されていてもうまく有権者と繋がっていないような、そんな印象)


なお、この外国人評議会は、各地でトルコなど外国の政治問題に影響を多く受けているようで、問題視もされている。リベラル国家のドイツにおいて、極右的な思想を持つ外国人住民が一定以上いると、その住民が支持する極右系の代表者が選出されうる。

トルコは、強権的な極右政権が、政権に批判的な勢力やクルド人を徹底的に迫害しており、迫害された人たちがドイツに難民として逃げてきていることが少なくない。一方で、ドイツに長年住むトルコ系住民は、民主主義国家に住むにも関わらず保守的で、その極右政権を支持する傾向にあり、評議会で代表に立つ代表者は極右政権を支持する側にいることがある。 クルド人はクルド人の組織を作って立候補しているし、ドイツ内で保守的トルコの組織と対立することになる。外国人評議会でも全く方向性が異なる人たちが存在するというわけだ。

実際うちの自治体のトルコ人の代表は、極右政権を支持するような発言を立て続けにしており、かつてスキャンダルとなっていた。が、そのスキャンダルもわずかに地方紙に報道されるだけで、知る人もほとんどいないだろう。正直、リベラルな国家に好んで住んでいる私自身、極右政権の支持者に外国人を代表して欲しくない。でも、今回の選挙で票を伸ばしてしまったので、今後どうなるのだろうか。


リベラルに外国人にも選挙権を与えるというのは簡単だが、現状を見ていると、それをいわゆる民主主義的に行使されるように整えるのは、簡単ではないのかもしれないと思う。私自身、リベラルだと思うけれど、外国人に選挙権を与える可能性については躊躇してしまう。

。。。一方、この国では外国人も非常に高額の税金を負担しているので、外国人として声を上げる場があるべきだと思う。やっぱり間接的に外国人に投票するのではなく、いつか可能ならば政党くらいには投票できるようになりたい…。せめて永住権を持っている人くらいは。 外国人が外国人を選ぶというと、より利害が大きく絡みそうだし、その方がシンプルなのではないだろうか。全く簡単ではないけれど

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