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ドイツで迎えるコロナ危機

7ヶ月にもドイツ・インタグレーションコースが3月初めに終わるので、私は3月の半ばから3週間、仕事を兼ねて東京に帰省を計画し、1月初めに航空券等の手配を済ませていた。

しかし、1月の終わりからCOVID19への感染が日本でも明らかになり、日本行きを再検討し始めた。結果、だいぶ早く2月10日くらいに日本行きをキャンセルすることとした。当時渡航中止を決意したのは、当時欧州でもアジア人が差別されるというニュースを耳にし、東アジア人である自分が、アジアから欧州に万が一ウィルスを持って帰って来たら、吊るし上げられ、もうドイツに住めなくなる…という最悪の事態に陥るリスクを取れなかったからだ。…当時はまさか欧州がこれほどまでにCOVID19によってここまで深刻な状況に陥るとは思っていなかった。

私が日本行きを諦めた2週間後の2月22−23日の週末には、イタリアでの感染拡大が明らかになり、ヴェネチアのカーニバルも途中で中止となった。

一方、ドイツでは、近隣のイタリアに危機が訪れても、まだ危機感に欠き、2月末のカーニバルは予定通り各地で盛大に実施された。 しかし、その直後の2月25日、オランダ国境近くの街Heinsburgで重症となった患者が確認され、その患者は、その町のカーニバルに参加していたことが明らかになり、その地域では数百人にも渡る集団感染が起きた。(そこでは高齢者の死者も続出し、まだその地域での混乱は収まっておらず、Heinsburgの病院では医療物資が逼迫しているというニュースをよく目にする) それから急速にCOVID 19の患者はドイツ 、欧州内で広まっていき、3月に入るとあっという間に150人、そこから1ヶ月経った4月3日現在、ドイツの患者数は8万人を超えた。

(個人的には、イタリアでの感染が明らかになった時点で、ドイツでもカーニバルを中止したほうがいいのではないかと感じていた。悪天候と重なっていくつか大きな物が中止になって良かった…と感じていた)

北イタリアでの感染拡大が明らかになったタイミングで欧州中の多くの人たちが、アルプスにスキーに行っていたと言われる。そこから戻った人を中心に一気に欧州内での感染蔓延が加速したともいわれるが、(ドイツはスキー客が感染したため、初めの感染者の平均年齢が40代と比較的若い)この感染の広まり方は、いかに欧州内の人の動きが頻繁に大量に起きているかということを物語っていると思う。各国があれよあれよという間に国境封鎖という対応を取り、EUの移動の自由は失われた。この劇的な展開には非常に驚かされた。おそらくそれを当然のように受けていたEU市民にとっては、もっとずっと大きな悲しみを持って受け取られたのではないかと思う。

私の住むNordrhein Westfahlen州はドイツ最大の人口を擁する州であるが、2月後半に前述の流れで初めに患者が増え始め、1ヶ月後の今となっては患者数がすでに2万人近くとなった。同時に感染患者がいることが明らかになった、南ドイツの2州でも感染拡大が深刻で、東部に位置するうちの州よりも勢いよく患者数が伸びて、同程度の患者数がいる。

ドイツでは死亡率が低いと言われる。これは週16万件のテストをするキャパシティがすでにあり(週50万件までもうすぐ伸びるらしい)、軽微な症状の感染者が多くカウントされていること。母体が大きいので重症者の割合、死者の割合が小さく見える。さらに、ドイツは欧州の中でも医療が手厚く、今回のコロナ危機に際しても一気にICUの病床数を増やしたらしく、重症者が手厚い対応を受けられていることが想像できる。一方、死者数はここ1週間で一気に伸びている印象で、それまで持ちこたえていた患者さんが、助からなかったという悲しい事情があるのかもしれないし、高齢者施設や医療施設での大量感染というのが毎日ニュースになっている。うちから徒歩600mのところにある老人ホームでも、残念ながら大量感染が見つかったらしく、ドイツ全土で大型の病院の医療スタッフ2000人以上が感染したと報道されている。

3月16日から、全国の多くの州で保育園から全学校が閉鎖され、NRW州でも食品や医薬関係、車両関係など必要最低限とされる店舗以外は全てクローズされた。その成果か、私の住む州では感染者の伸び率が減少している(と言っても感染拡大が1日千人前後で安定しているというレベル)

3月23日からは、全国で同居家族等以外の他人との接触が実質禁止され、公共空間において,他人との距離を必ず最低1.5m、できれば2m以上開けることが求められるようになった。なお、家族以外の人1人と会うのは許されるが、2人以上の他者と会ってはいけないと言うのは、一時的に法律となっていて、違反すると罰金が取られる。家などで集まっていてもいけない。週末などは特に警察が回っている。NRW州では外出すること自体は禁止されず、家族で外出する分には他者との距離を開けている限りにおいては咎められないので、私たちは、天気がいい日には緑の中を散歩したり、自転車で出かけるようにしている。もしかすると普段よりも動いているかもしれない。

スーパーや病院など開いている店は不特定多数の人たちと接するのに当たって、レジや受付などにはプラスチックなどのシールドが設置され、あちこちに1.5m開けるようにと張り紙やテープが貼ってある。銀行や薬局などでも、顧客間の距離を確実に開けられるよう、入店制限が課されている。病院でも直接顔を見ないで別の方向を向いて対応する。マスクをしている人も少しずつ目にするようになってきたし、街に出るとどことなく緊張感がある気がする。

スーパーも小麦粉やトイレットペーパーなどは品薄になっているが、品薄のものは購入の個数制限が設置され、物流は全く止まっていないので、品切れになっているものはほとんどない。小都市に住んでいるからこそ物が豊かなのかと思っていたが、大都市に住む友人に聞いてもそれほど様子はかわらなそうだ。スーパーに行っても普段よりずっと中で買い物をしている人は少なく、人がいかに家にとどまっているかが伝わってくる。


このような状況で、ドイツ政府は今回のCOVID19に関する危機に対して、3月25日に、7500億ユーロに上る大規模な予算パッケージを決議し、ヘルスケア関連予算に65億ユーロ、中小企業・フリーランサー支援の500億ユーロを始め、その他大企業を守るための予算や、貸付用の4000億など、アーティストの支援費用が含まれているらしい。

中小企業・フリーランサー支援に関しては、私の住むNRW州では、3月27日(金)にオンラインで申請できることとなり、1週間ですでに32万件の申請が出され、30万件がすでに許可されたそうだ。収入がなければ賃料・家賃を払えない、生活ができないという人たちが続出する。だからこそこのスピード感が必須だし、それを政府が理解しているからこそ、(残業はしないドイツ人のはずなのに)多くの職員は休日返上で申請に目を通し、手続きを行っていたのだとニュースで聞いた。

とにかく動きが早い。安心感がある。


一方で、より状況の悪化しているイタリアやスペインではもっと混乱が大きそうで、本当に心配である。

スペイン首相は、EUからの支援が全く十分でないと批判していたが、実際今回は各国とも危機に陥っているために十分な支援が出来ないのではないかと思う。余裕の多少ある国から、イタリアやスペインのような危機にある国にマスクや防護服などの医療物資が送られたり対しているし、まだICUのベッドに余裕のあるドイツなどにはイタリアやフランスなどから順次患者が運美こまれている。EUでは人工呼吸器等の必要な医療機器をEUがまとめて購入して加盟国に分配する仕組みが立ち上げられたものの、どの程度速やかにイタリアやスペインの病院にそれが届くのかはわからない(ちなみにEUを1月末で脱退したイギリスは、この枠組みに加わることもできたのに、断ったらしい…。医療財源を削り続けてきたイギリスは、死亡者数が勢いよく伸びているので非常に心配である)

いずれにせよ各国ともやれることをやっても、とにかく危機的な状況に陥っている。

人の移動の自由を大切にしてきたEUも、このコロナ危機に際して国境を封鎖しており、それがいつ解除されるのか見通しが立たない。EUとしての経済対策も、南北で意見が割れて、まだ協議中だ。イギリス脱退で(というか元々東西の差などで大きな揺らぎがあった)揺らぐ、EUが今後無事に存続していけるのか、誰もなんとも言い難いタイミングだと思う。


とはいえ、外国人でドイツ語も十分に話せず、医療スタッフでもない私には何か人の役に立つことはあまりできない。取り急ぎ近所の貧しい高齢者の支援団体に募金して、潰れて欲しくないお店のバウチャーを買ったり、寄付をしている。人の助けになっていると思えることをすると、気持ちが楽になると思う。

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