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コーヒーとドーナツをひとつ

よく晴れた土曜日の昼間、一緒に用事を済ませた父と十数年ぶりにドーナツ屋さんへ寄った。
父はコーヒーにきなこドーナツ。
わたしはロイヤルミルクティーに黒糖ドーナツ。
甘いドーナツでも気持ちだけ健康志向な
きなこと黒糖のドーナツを選んだあたりが私たち父娘らしい。ふたりとも飲み物はおかわりして2杯ずつ。
ふと、裏側のドアが開き春の匂いがする風が通った。父が目をやる。そして目を細めてヘルメットをかぶった小さな子供が入ってくるのを見つめている。
還暦を過ぎたら父もこんな顔をして子供をみるのだなぁと思っていたら、 父がサイクリストだ、とぽつりとつぶやいた。
それでか、と私も心の中でつぶやく。

わたしがそれこそいい大人になった頃
父から聞いたことがある。
「わしは、天気のいい日は家族で自転車に乗ってでかけるのが夢だった。」
当たり前に起こりそうな日常の風景だけれど
私たち家族にはそれがなかなか叶わない家族のかたちだったから、父の本音を聞いたとき
胸にずんとひびくものがあった。
もし叶うのなら、桜の花びらが舞う春には父に孫を自転車に乗せて走らせてあげたいと思った。
それまで元気でいてよね、お父さん。
きなこドーナツとコーヒー。
コーヒーはおかわりして2杯ずつ。
甘く切ない春がやってくる。

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