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コロナ禍に造血幹細胞提供(骨髄提供)をしてきました・完

※この記事は、最後まで無料で読めます。

ということで、前回からの続きです。予告した通り、今回は退院後の話をしていきたいと思います。


3回目の適合通知

適合通知を受け取った当日~適合通知から75日目(最終同意面談) ⇨ _③_
適合通知から78日目(ドナー手帳交付)~同110日目(PCR検査) ⇨ _④_ へ
適合通知から112日目(入院)~同115日目(退院) ⇨ _⑤_ へ



創部が治っていく経過

適合通知から116日目(退院翌日)

昨日一昨日まで、喉は"痛い"という感じでしたが、この頃から"痒い"という感じが出てきました。その痒みが刺激されて、ちょっとしたことで咳き込むのがなかなかに大変です。

お風呂に入る前にガーゼを剥がして確認したところ、左の創部にはやや出血があり、右は黄色い透明な浸出液がにじむ状態でした。湯船に浸かるのは見送ってシャワーだけにして、創部の周りについては清潔さを保つ程度に軽く洗いました。

交換用に用意した絆創膏はパッドサイズが45mm×35mmの物。創部に対してパッドがギリギリの大きさで、鏡を見ながら自分の手で貼るのは難しかった為、家族に手伝ってもらいました。家族の手は借りましたが、手術を心配していた家族に創部が治っていくのを見せられたのは、これはこれで良かった気もします。

一人でケアをする場合には、超大判サイズの絆創膏や創部全体を一枚で覆うことができるガーゼを用意すると良いと思います。私は採取跡が 4カ所でしたが、パッドサイズが65mm×70mmの物だと上下左右に余裕ができて、一人でも何とか貼れるという使用感でした。

創部に対して45mm×35mmはギリギリ。一人で貼る際は上下左右に余裕が欲しい

浸出液のにじみが気になる間は、座椅子などに座る時、背中と背もたれとの間に丸めたバスタオルを挟んで創部を圧迫するようにしていました。



適合通知から117日目

喉は、痛みよりも痒みの方を強く感じるようになってきました。痛いのは痛いので不快でしたが、痒いと発声や喉のちょっとした乾きで咳が出るところが面倒です。

この日の絆創膏の貼り替えでは、出血は無くなっていたものの、浸出液はまだ出てきていました。



適合通知から118日目

喉の痛みはほぼ引いており、咳が若干残る程度。昨日一昨日と比べると、喉の状態はかなり良くなったと思います。

絆創膏の貼り替え時に確認してみたところ、浸出液の染みは 1 - 2mm くらいの小さいものが有っただけでした。絆創膏は、この日に貼った物で最後にしても問題無さそうです。



適合通知から119日目(絆創膏終了)

まだ咳が出ることはあるものの、喉の痒みは余り気にならなくなりました。

この日、絆創膏を剥がすと浸出液の染みは全く付いておらず、新しく絆創膏を貼ることもしませんでした。手術の翌日以降のお風呂はシャワーで汗を流すだけでしたが、傷に浸みてくることも無いと考えて、湯船に浸かる入浴も始めました。

しかし、創部を塞いだ新しい皮膚がまだ柔らかいのか、創部が肌着と触れるとピリピリと痛む感覚がありました。程度としては、痛み止めが要るような痛いというものでは無く、仰向けに寝たりするとピリピリと来るのが鬱陶しいという感じです。生活する上では特に支障はありませんでしたが、就寝時はピリピリする痛みを避けて横向きに寝ていました。



適合通知から120日目

喉の痛みは、すっかり無くなりました。一方で、創部がピリピリとする感覚はまだ続いていました。



適合通知から121日目(退院後の定期連絡①)

担当コーディネーターから、退院後の定期連絡で電話がありました。創部はふさがったこと、喉の痛みは引いたこと、長い立ち仕事は疲れることがあるといった体調について伝えました。

座っての作業には特に問題を感じない程度に回復していましたが、30分ほど立ちっぱなしになると強い疲労感を感じて、一旦座って休みを入れることがありました。移植に提供したことで造血幹細胞が減った分、疲れ易くなっているようでした。全血 400mlの献血をした時は翌日には普通に生活できてきましたが、骨髄提供後の疲れ易さは退院から一週間ほど続きました。



術後検診

適合通知から124日目

担当コーディネーターから、適合通知から 138日目の夕方に術後診断を行いたいと電話がありました。私の都合はその日で問題なかったため、そのまま話を進めてもらいました。

この頃には、創部がピリピリと痛むことも無くなっており、ベッドで仰向けになって寝られるようになっていました。



適合通知から127日目(退院後の定期連絡②)

担当コーディネーターから、退院後の定期連絡で電話がありました。創部の痛みや疲れ易さといった体調面の問題はすっかり無くなっており、元気にしていると伝えました。



適合通知から132日目(造血幹細胞提供証明書)

骨髄バンクから、『造血幹細胞提供証明書』と確認検査から骨髄採取に伴う入院までの日時が書き込まれた『証明書』が郵送されてきました。いずれも自治体によるドナー支援事業への申請に使う証明書です。

自治体によるドナー支援事業は多くの自治体が横並びで、支援対象の要件が「造血幹細胞の提供が完了した」となっており、支援を受けられる日数上限も「7日間」と決められています。

骨髄採取の場合では、確認検査、最終同意面談、健康診断、自己血採血そして 3泊 4日の入院で日数上限を超えます。そのため、骨髄バンクによる証明書の郵送もこのタイミングになっているようです。

全国の自治体を調べている訳ではないため「私が知る限り」という但し書きは付きますが、自治体によって助成金交付の対象に関して違いがあります。助成金を、ドナー本人だけでなく当該ドナーを雇用している事業所にも出す自治体が有る一方で、ドナー本人にだけ出している自治体も有ります。ご自身の住んでいる自治体でどういう対応になっているかは、自治体のHP等で確認をしてください。



適合通知から137日目

担当コーディネーターから、術後検診前の前日確認で電話がありました。

当日は院内コーディネーターが対応するという話で、健康診断や自己血採血で使った処置室で待ち合わせとなることを告げられました。



適合通知から138日目(術後検診)

術後検診は夕方からで時間に余裕があったため、地元駅近くのいつもの理髪店で散髪を済ませた後、電車に乗って病院へ向かいました。病院にも程よい時間に到着し、前日に確認した処置室へと直行しました。


処置室内のソファーに通されて、院内コーディネーターと合流。採取医を待っている間に、体重や血圧を測りました。

院内コーディネーターから退院後の体調などを聞かれたため、拍子抜けするほど痛みらしい痛みも無く、手術をして骨髄提供をしたという実感がイマイチ薄いことなどを話してみました。

確かに採取した跡は触ったりぶつけたりすると痛い傷ではあったものの、触ったりぶつけたりしないよう注意さえしていれば良く。私の場合は、何の支障も無く傷も治りました。

自分から採血した血が運ばれていくのを見られる献血とは違って、骨髄提供では自分から採取した骨髄を自分の目で見ていません。骨髄を患者さんの元へ運ぶ側のスケジュールなど事情は分かるものの、骨髄採取は、ドナーとして貢献できた実感を得るポイントが少ないと感じていました。

そう話す私に対し、院内コーディネーターは、私から骨髄をたくさん採って送られていくところを院内コーディネーターが見届けていることを話してくれました。私にとって、院内コーディネーターは今回関わった人たちの中でも信用度順位が高い方であったため、「コーディネーターさんが見届けてくれていたなら、それでいいか」と思い始めました。


検診の予定時刻の少し前、採取医が処置室に来ました。採取医は明らかに忙しそうな様子で、創部の状態を確認した後は、書面に沿った各項目の確認が淡々と進行。血液検査をするとのことで、看護師が来て採血管 2本分の血を採りました。

採血後に圧迫止血をしている時に、術後に痛みがほとんど無かったことについて、「先生方が上手なのか、痛み止めのおかげなのか、腸骨の上の肉が薄いせいなのか」と採取医に話を聞いてみました。採取医からは、痛み止めも特別な処方は無くいつも通りであり、痛みについては個人差がある話という返事が返ってきただけでした。

他のドナーの方々でも同様に小さい痛みで済ませられるといった再現性の有るものではなく、ただの個人差ということなら、そうなのだと思います。

しかし考えてみるに、骨髄を採取した穴が腸骨に何十カ所と空いていても腸骨に痛点は無く、主に痛みが出るのは腸骨へ穴を空けるために皮膚にできた採取傷のはずです。径の細い穿刺針を使っていて採取傷が小さく済んでいたり、採取傷をずらしながら腸骨に穴を空けて骨髄液を吸引していく過程で傷を拡げ過ぎていなかったりと採取傷がきれいだったこと。再現性のある採取医の手術技術が巧みだったからこそ、私の術後のダメージは小さくて済んだのだと思います。


ドナーに対するカウンセリングは採取医の仕事ではないのでしょうけど、もう少しゆっくり話をできる日に組んで欲しかったと思いつつ、思ったよりも早く術後検診は終わりました。

夕飯を食べに行くには空腹感もなく時間帯も早過ぎるため、帰りの電車は途中下車。自己血採血をした日に、自分の手術の無事と患者さんの回復をお願いした神社へ寄ることにしました。神社に着くとお賽銭を入れて、自分の手術が無事に終わったことの報告と感謝を伝え、まだ闘病が続くと思われる患者さんの回復をお願いしてきました。

途中下車した駅まで戻ると、そのまま地元駅へ。駅前で良さそうな店を見つけたので、そこで夕飯を済ませました。コロナ禍ということもあって他の客はひと組しか居らず、とても空いていました。



適合通知から142日目(コーディネート終了)

骨髄提供について一連の手続きはすべて終わったため、担当コーディネーターからコーディネート終了の電話が来ました。術後検診の際に採った血液検査は、特に問題は無かったとのこと。また、 3カ月後に厚生労働省から感謝状が、骨髄バンクから3カ月アンケートが届くという話でした。



コーディネート終了後

適合通知から210日目(3カ月アンケート)

骨髄バンクから、『採取後・3カ月アンケート』が郵送されてきました。

提出前にスキャンしたアンケート。識別コード等はモザイク済み


骨髄バンク宛てのアンケートであるため、私が書いた内容を特に公開はしませんが、3カ月アンケートで聞かれた項目は以下の通りでした。

1. 骨髄提供者になろうと思った動機について(自由記述)
2. 骨髄採取前
 (1) 確認検査について
  ①検査についての説明は
  ②採血時・担当医師の態度は
  ③その他(自由記述)
 (2) 骨髄提供に同意して頂いた時
  ①骨髄提供について、家族は
  ②骨髄提供についての不安は
  ③最終同意説明会を行った際に指定された場所の雰囲気は
  ④骨髄提供・骨髄移植についての説明は
  ⑤コーディネーターの態度は
  ⑥あなたのコーディネーターにご意見(自由記述)
3. 骨髄提供の時
 (1) 入院に関して
  ①病院の雰囲気は
  ②骨髄採取の医師・スタッフの態度は
  ③入院期間は
  ④病室の種類は
  ⑤入院生活中の感想(自由記述)
 (2) 麻酔に関して
  ①麻酔に関する説明は
  ②麻酔に関する不安は
  ③麻酔の苦痛は
    ▼具体的に(自由記述)
 (3) 骨髄提供後の身体の状態
  ①採取部位の痛みの度合いは
  ②採取場所の痛みの持続は __日間
  ③提供前の日常生活が可能な状態に戻ったのは 提供後__日後
  ④ご自身が耐え難い「痛み・苦痛」を"10"とした場合、
   提供後の痛みの度合いは __
  ⑤提供後に不安は
    ▼具体的に(自由記述)
4. 現在の状況について
  骨髄採取後__カ月__日
 (1) 具体的に
  ①採取した後の痛みは
  ②採取した後の針の跡は
  ③その他(自由記述)
 (2) 精神的に
  ①骨髄を提供したことに
  ②家族の方は  
  ③他のドナー、または一般の人に骨髄提供を薦めたいと思いますか
  ④もう一度、提供を依頼されるとしたら
  ⑤患者さんの移植後の状況について知りたいか(今後の参考)
  ⑥その他(自由記述)
5. その他、ご意見・ご希望(自由記述)

痛みの程度などは選択肢での回答になりますが、自由記述回答もあるため、選択肢だけでは答えるのが難しいこともきちんと吸い上げるアンケートになっていると思います。私自身、次のドナーに役立つものと考えて、一連の手続き中に思ったこと・考えたことを可能な限り書き込んで返信しました。



適合通知から255日目(厚生労働大臣感謝状)

簡易書留で、厚生労働大臣からの感謝状が届きました。

例えば日本赤十字社に一定額の寄付をすると厚生労働大臣感謝状が贈呈される訳で、社会のしくみとして、功績が上の方までちゃんと伝わっているということは大切なことだと思います。

とはいえ、私が骨髄提供をしたのは私の骨髄が必要と言っている患者さんが居たからで、私対患者さんという、あくまで個人対個人の関係で考えた結果です。そのため、「その崇高なお心は社会の模範となる」と称えられることには違和感がありました。

届いた感謝状は大事に保管していますが、自分で自分がどう考えていたのかを再確認できたのは良い機会だったと思います。



あとがき

私は、 1人でも多くの患者さんに、骨髄提供・末梢血幹細胞提供に協力してくれるドナーが見つかって欲しいと思っています。しかし、3カ月アンケートにある「他のドナー、または一般の人に骨髄提供を薦めたいと思いますか?」という設問に、私は「思わない」と回答しました。

私自身は、術後のダメージも小さくて済み、骨髄採取に伴う 3泊 4日の入院と術後検診を含む 6回の通院も都合を付けることができ、骨髄提供について家族に同意をして貰うこともできました。

しかし、過去には健康被害が出たドナーの方々も居られますし、通院のスケジュールに対応しきれない方も居られるでしょうし、家族に反対される方も居られるでしょう。そうした事情を踏まえると、リスクを理解した上で諸々に都合を付けることを私は難しい事だと考えています。よって、私は他人に骨髄提供を薦めることはしません。


ドナー登録や適合通知に応諾する際にイメージして貰いたいのは、手術当日のことです。私が_序__⑤_で自分の体験した骨髄採取手術について可能な限り詳しく書いたのも、その参考になると考えたからです。

ドナーは、病室から手術室まで何十mという距離を歩いて移動します。自分で覚悟を決めるにせよ、医師・医療スタッフを信頼するにせよ、手術室でベッドに上がるまではドナー自身の足で歩いてもらわないと困る訳です。そこで、途中で「やっぱり怖い」と座り込んでしまうイメージが出てくるのであれば、最初から骨髄提供には関わらない方が良いように思います。


最後に、_①_でも書きましたが、私は、骨髄提供において重要なことは「人助けで始めたことが最後まで人助けとして終われる行動選択」だと考えています。

これからドナー登録を考えておられる方々には、採取手術までのことを事前にひと通り考えた上で、「登録をする/しない」を判断して貰いたいです。そして、既にドナー登録をしている方々には、事ある毎に適合通知へ応諾できる状況にあるかどうかを判断し、応諾が難しい状況であるなら事前に骨髄バンク(正確には造血幹細胞移植情報サービス)で保留等へ登録変更をして欲しいと思っています。(了)



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