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幽霊ホテルの支援

もう時効だと思うほど昔の話なので、実際にあった怖い話を。宿が特定されないよう、宿の描写は若干実物と変えてある。

その宿はひっそりと、森の中に建っていた。
趣がある、明治時代から建つという古い宿。
入口を入ると、目の前に木製の階段があり、その奥が宿の応接リビングだった。私はリビングに通され、勧められたソファに座ると、壁一面に麗子像のような、全部同じ女性の絵が壁面びっしり飾られているのに気づいた。

「写真は撮らないでくださいねぇ~この絵は全部生きていますから。」

と薄暗い扉から、宿の主人が出てきて、絵のある壁を背にして座る。冗談のつもりなのか、暗い表情のまま、にやっと笑った。

私はいつものように、宿の主人に対するヒアリング調査を始めた。 本業はIT&経営コンサルなので、もちろん経営についてのヒアリングだ。

なんか、全部の絵と目が合う!

すると、何やらしゃべり声が聞こえてくる。目の前の絵の女性たちがしゃべっているのだ!口々に何か話をしている。「繫盛してるね」「たくさんいる」「水辺も近いし」みたいな感じだ。 窓の前にはうっそうと木が茂っていたが、池か川があるのかな?と思い、「窓の外には水がありますか?」と聞くと、「川が流れています」とのこと。
そんな中、ふっと隣の席をみると、知らない女性が座っていた。うっすら透けて見えるため、この女性はきっとこの世の人ではないだろうなと思い、その席を避けるようにして、私は一つあけて座り、ヒアリングを続ける。

この人だれーー!?

そこへ遅れてきた、同席予定の銀行員さんが到着して、なんと、その女性が座ってる席に着席したのだ。 女性と重なってる状態の銀行員さん。
寒さに震えながら私のヒアリングに参加している。 幽霊の近くにいるととても寒いのが特徴だ。そこまで重なると、そりゃ寒いと思う。
私はそのままヒアリングを続ける。「昨年の決算を見せていただけますか?」と昨年の決算書を見ながら、今年のものと比較し分析をおこなう。
また、ホームページからの集客状況、各ネットエージェントの売上・アクセスを確認し始める。「このままだと4か月後に資金が足りなくなりますね。」といったとたん、私の数珠腕輪がパチンと切れ散らばる珠・・・ これも幽霊が近いときによくある現象のひとつである。

幽霊が近いと寒い


あまりに寒そうなので、「こっちの席のほうが暖かいですよ?」と反対側の席を進めると、銀行員さんは慌てて移動した。一通りヒアリングが終わったので、部屋を見せてもらえますか?と宿の主人に依頼し、部屋を見せてもらうことに。二階建ての木造建築。趣のある階段をあがると二階の木製廊下が続いている。階段に何やら黒い感じの人が座っていたたため、そーっと隣をすり抜け、上がった所に扉があった。と思いきや、壁。ん?何?扉に見えたけど壁? 宿の主人によると、昔はそこに扉があったが、今は塞いでいるとのこと。「先生なんでここに扉があるとわかったんですか?」といわれたが、私には逆に扉が見えて、塞いでるほうの壁がわからなかった。

塞いだ扉の奥には洋間がひろがる

塞いだ扉の奥には、洋間があったのだそうな。宿の主人は、「ちょっと事情がありまして塞ぎました。」と、理由を明確に言わない。すると階段に座っていた影が、その扉に消えていった。霊たちは自由に行き来できるのだな。この塞がれた洋間で誰か亡くなってるな。とふっと思った。
黒い影さんはきっと被害者なのだろう。今もこの宿にとどまっているようだ。この扉の前は冷気がすごくて、めちゃくちゃ寒かった。先ほどの銀行員さんは、普通にこの扉は気にせず別の部屋に入っていく。先ほどのリビングにいた女性の幽霊は、上には上がってこない。リビング前廊下で立ち止まっている。まるでそこに壁があるみたいだ。この幽霊女性は1階専用なのかな?

二階には、美術館のように美術品が並べられており、その中に、創業時のこの宿の写真があった。古い白黒写真をよーくみたら、先ほどのリビングにいた幽霊女性が写っていた。1階の女性幽霊はこの宿の初代女将だったのだな。と理解。創業当時は2階はなかったのだろう。二階の幽霊たちとはまた別の時代なのかな。

どっちかというと、二階幽霊のほうが激しかった。
扉をスッスッと出入りしたり、私の前を走っていったり。きっとある時代までは、この宿はとても繁盛していたんだと思う。いまは幽霊たちでとても賑やかだった。
部屋の稼働率は2割ほどとのことなので、この部屋のほとんどは、人間ではなく幽霊が使っていることになる。
美術品のほうも騒がしかった。古い刀が床の間に飾られており、近くへいくと、「わ~っ!わ~っ!」って大勢の掛け声みたいな声が聞こえた。
宿の主人は、「骨董品の収集が趣味でしてね。この刀なんかも、私のコレクションなんです。」という。宿の主人は、骨董品をたくさん集めて宿の2階に展示したようだ。

大勢の掛け声がする床の間の刀

ここまで、様々な幽霊がいる支援現場は珍しい。


居ないことのほうが多いし、居ても1~2体程度。それに対して、この宿は各所に幽霊がいる。

ここまでくると、普通の人間が宿泊できるのだろうか?

私だと確実に無理だ。でも、宿の主人に、「おたくは幽霊いっぱいだから人間のお客はきませんよ?」とは言えない。
ネット集客方法と、資金繰りについてのアドバイスを行い、私の支援は終了した。

私自身もあまりに寒かったため、帰りに近くの足湯に立ち寄ったほどだ。家に幽霊を持ち帰るのを避けるため、帰りに神社にお参りした。

4か月後・・・

この支援の事はすっかり忘れていて、私は普通に毎日企業支援に入っていた。とある宴席に招待され、この宿とは全く違う地域の料亭に行った。
私の前に座ったのは、知り合いの会計士先生。会計士先生は、「昨日は会社分割の仕事で大変でした~」と私に話をした。

ふっと見ると、その先生の肩のところに、見覚えのある女性がいたのだ。
あっ!あの女性は、宿の1階の幽霊さん。創業女将さんだ。

私@「そこってもしかして、●●という宿ですか?」
会計士さん@「え?なんでわかるの?気持ち悪っ」

会計士先生With1階の幽霊さん

会計士先生がこの後どうなったかは知らない。
宿にはあれ以来行っていない。

私が幽霊を見ることは公然の秘密だ。
普段は変な人と思われたくない為、積極的に誰にもいわない。
でも、私と同様に、様々な企業に支援に入る専門家は、定期的に神社やお寺にお参りしたほうが良いと思うのは私だけだろうか。

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