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『回想のシャーロック・ホームズ』~ホームズなんて足湯小説だ、なんて言ってごめん⑥~

阿部さん訳は私のツボではなかった。妙に上から目線のホームズが鼻につき、えばっているようでイヤだったのだ。フォローで明朗で軽快な味わいがあると言ったこともあるが……そんなことはなかったorz

※大昔ホームズを読み進めていた頃の記録メモの⑥です。

ここでは、阿部版について印象を改めた事と、
延原版との比較について述べたい。

阿部さん訳は私のツボではなかった。
妙に上から目線のホームズが鼻につき、
えばっているようでイヤだったのだ。
フォローで、明朗で軽快な味わいがあると言ったこともあるが、
よくよく見てみると、けしてそんなことはなかった(謝)。
基本的には、きどりすました淡白なキャラだった。

絶対的客観性というものは存在しないので、
私が抜粋したところを読み、
むしろ延原訳のホームズの方が冷たい、
と思う方もおられるかもしれないが、
独断と偏見をお許し頂きたい。

ではお二方の「緋色の研究」にて比較し、
気にとめた箇所を見ていく。

・例えば、ワトスンがホームズの観察と推理の理論の記事を、
彼の記事だと知らずなじったあと、
どうして観察と推理が実用的なのかを、
ホームズが自ら探偵と明かすことで悟らせるシーン。

<阿部版>
「まあ、これは、世界じゅうにおそらくぼく一人でしょう。
君にはわかるかどうか知りませんが、
ぼくはいま顧問探偵をしているわけです。
このロンドンには国家の刑事や私立探偵がたくさんいます。
この連中が失敗すると、ぼくのところへ相談にくるから、
彼らを正しい方向に向けてやるのです」

↑私はここに、つんとすましたような上から目線を感じ、
それが鼻について癪だった。

<延原版>
「この職業をもっているのは、おそらく世界中で僕ひとりだろうが、
じつは諮問探偵なんだ。といっても君にはわかるかどうか。
いまこのロンドンには国家の探偵や私立探偵がたくさんいる。
これらの連中が失敗すると、みんな僕のところへやってくるので、
僕はどうにかして、ほんとの手掛りを得させてやるのだ」

↑フランクな感じになってるせいか、サラっと鼻につかずにいれた。

・例えば、ホームズの部屋に報告にきた、乞食少年探偵たちの扱いは?

<阿部版>
「いいか、これからはウィギンズ一人だけが報告に上がってきて、
あとは道で待っているんだぞ。ウィギンズ、見つかったか」
「まだだよ、旦那」少年のひとりが答えた。
「あまり当てにもしておらなかった。
見つけるまで、ねばるんだぞ。さあ、日当だ」
一シリングずつ渡してやった。
「さあ、もう帰るんだ。このつぎは、もっとましな報告を持ってこい」

↑淡白なせいか、冷たく感じる。

<延原版>
「これからはウィギンズひとりを報告によこすのだ。
ほかのものはここへ上ってくるんじゃない。
そのあいだそとで待っている。ところでウィギンズ、めっかったか?」
「いいや、まだだよ」少年のひとりが答えた。
「どうせそんなことだと思っていた。
めっけるまでやってなきゃだめだよ、さあ、お駄賃をやる」
とホームズは少年たちに一シリングずつ渡してやり、
「では、もう帰ってよろしい。こんどはもっといい報告を持ってくるのだよ」

↑あったかい! 大人が子供を扱っているには違いないんだが、
表向き“上下関係”に見えても、その実、
“仲間関係”で結ばれてるような空気がある。
「お父ちゃんの入れ歯めっかった?」
(とは言ってないが(笑)的なフレーズや
「お駄賃」という言葉を選んでるセンスで、
牧歌的な味わいが出て、風通しが抜群!

・例えば、①ホームズの偏った知識(太陽系の知識がない!)に
ワトスンがショックを受けるが、それを受けてのリアクションと、
②そのワトソンが「しかし太陽系くらい・・・」と抗議したあとのシーン――

<阿部版>
①「君、おどろいたようですね」彼は私のあきれた顔を見て、
微笑しながら言った。
(中略)
②「ぼくにとって、そんなものがいったいなんの役に立つかな!」
ホームズはじれったそうに私をさえぎった。
「君の話では、われわれは太陽のまわりをうごいているそうですが、
かりに月のまわりをうごいているとしたところで、
ぼくの生活や仕事はいっこうに変化しないでしょう」

↑微妙だが、丁寧なだけに上目線のとりすました嫌味を感じてしまう。

<延原版>
①「ふふふ、驚いてら」彼は私の驚いたのを見て微笑しながら云々
(中略)
②「そんなものがなんになるものか!」
彼はせきこんで私の言葉をおさえた。
「君は地球が太陽の周囲を回っているというが、
よしんば地球が月の周囲を回転しているとしても、
そんなことは僕や僕のやっていることに対して、
なんらの相違もおこさせはしないんだからね」

↑ワトスンの言葉をおさえ、ズケズケ言ってるのに気にならない。
釣りバカ日誌のハマ&スーみたい。(というか、~じゃないんだからね!><というツンデレの原型はホームズなんじゃまいか?)
彼らは上下目線でなく、対等に言い合える仲間として結ばれている。
※また「驚いてら」が効いている!

“人間”という字は、人と人との間と書く。
延原版の温かい味わいは、ホームズ一人でかもしだしているわけではない。
ホームズと、それにからむ人物たちが織り成したものだ。

人と人との間に、人間の温もりがほっくり満ちている。
延原ホームズに触れるものは、知らず人間に触れているのだ。
延原謙という人間に。

※以上はほんの一部。他色々あるが省略!

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水もしたたる真っ白い豆腐がひどく焦った様子で煙草屋の角を曲がっていくのが見えた。醤油か猫にでも追いかけられているのだろう。今日はいい日になりそうだ。 ありがとうございます。貴方のサポートでなけなしの脳が新たな世界を紡いでくれることでしょう。恩に着ます。より刺激的な日々を貴方に。