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2022年ベスト映画10選

 新しい年を迎え、今年も新しい映画が公開され始めました。今年も素晴らしい作品と出会いたいものです。

 昨年、映画館で観た映画は120本でした。仕事の忙しさと何だかんだが合致した結果、例年よりは少なめで観たかったけど観られなかった作品も多々あります。とは言え、振り返れば2022年も色々と面白い映画と巡り会えたものです。

 そんなこんなで2022年映画ベスト10です。このベスト10決めは毎年やっている映画娯楽のひとつで、楽しいから皆やるといいんですよ。10本選ぶのが悩ましいので脳トレになります。すでに配信が始まっている作品もたくさんありますからね。


①スパイダーマン:ノー・ウェイ・ホーム

 2022年に最初に観た映画にして最高の映画。『アベンジャーズ』などでおなじみのMCU(マーベル・シネマティック・ユニバース)27作目であり、MCU版スパイダーマンの第3作。
 前作で難敵ミステリオとの戦いに勝利するも、ミステリオの最期の策略でヒーロー殺しの悪党として濡れ衣を着せられた上で全世界にスパイダーマンの正体を晒されてしまったピーター・パーカー。怒り狂ったニューヨーク市民の非難を家族や友人、恋人も受け、さらにそれが原因で大学進学も拒否されてしまいます。困り果てたピーターは何でもできる便利な魔法使いドクター・ストえもんの魔法の力で皆からピーター・パーカー=スパイダーマンの記憶を消してもらおうとするのですが、何だかんだで魔法は失敗。逆にマルチバース(並行宇宙)からピーターの正体を知るスーパーヴィラン達が集結してしまうのでした。

 もう今さらこのネタバレはしても問題ないだろうと思うのですが、今作に登場するスパイダーマンの正体を知るヴィランはソニーの『スパイダーマン』『アメイジング・スパイダーマン』シリーズに登場したヴィラン達。会社や作品世界の垣根を超え、過去の映画シリーズのキャラクターがオリジナルキャストで集結するのです!
 スパイダーマンはソニーが映画の権利を持ってるので、MCU版も配給はソニーがやってるんですね。そういう繋がりもあるからこそのモノとは言え、とにかくとんでもないことをやった映画なんですよ。

 そしてこれこそが劇場公開中の一番のアツアツネタバレポイントですが、今作にはトビー・マグワイアとアンドリュー・ガーフィールドくん、過去シリーズのスパイダーマンそのものも参戦! クライマックスはトリプルスパイダーマンで並び立って戦うのです!!!
 これはもうファンからすればシンプルにメチャヤバにエモい! しかしそんなお祭り映画以上の意味があって、実はスパイダーマンの映画シリーズは人気がある一方でこれまで全部中途半端に終わっているんですね。アメスパなんかは明確に打ち切りです。なかったはずの「続き」なんですよ。
 さらにスパイダーマンの敵はそのほとんどが力を得たことで狂ってしまった善良な人々で、力を得てスーパーヒーローになったピーターの合わせ鏡のような存在。スパイダーマンは彼らを救うために戦いますが、いずれも失敗して死なせてしまいます。そして、犠牲になってきたのは悪役のみではありません……。
 スパイダーマンは基本的には重苦しく陰鬱なところのある、救えなかった物語です。今作はそんな過去のスパイダーマン映画そのものの救済であり、それぞれのスパイディが胸の奥に抱えてきた傷を癒す物語なのです。

 僕はとりわけ『アメイジング・スパイダーマン』シリーズが大好きなので……。もう本当に、本当に嬉しかったんですね。2回観て、2回同じところで号泣してました。トリプルピーターも、そして彼らを愛した僕達も救われる作品なんです。

②RRR

 インドからとんでもねー男達がやってきた! 『バーフバリ』のS・S・ラージャマウリ監督が送る最高純度のインド式英雄アクション超大作だ!!

 いやもう説明不要というか。「観ろ」しかない映画なんですが。
 大英帝国の植民地時代のインドで、ラーマとビーム、2人の男が悪逆非道を尽くす大英帝国をぶちのめします。超カッコいいの。予告を観てもらえば分かるんですが、とにかく一つひとつのカットが決まり過ぎてる。インド映画は元々カッコ良い撮影にかけては世界一ですが、それにしてもメチャクチャカッコ良い。しかも実際に映画を観てみると、ほぼ全てのカットがカッコ良すぎるんですね。全編こういう予告のテンションでやっていくんですよ。ヤバすぎ。
 もう本当に見所しかないような映画で、今年のアカデミー賞もノミネートが期待されています。そしてそんな中であえて一つ挙げるなら、やはり「ナートゥ」でしょう。"ナートゥ"をご存じか?

 今年のアカデミー賞歌曲賞でもわりと本命視できる「ナートゥ・ナートゥ」。どういう動きをしてるのかさっぱり分からない、魅惑のブチアゲダンスナンバーです。とにかくエネルギッシュでめーっちゃカッコ良い。ここから無限ナートゥ大会が始まり、パーティーの出席者全員で踊れなくなったら脱落のダンスバトルに突入します。
 このシーンは撮影をウクライナのキーウにある大統領公邸・マリア宮殿でされています。開戦の数ヶ月前だったか、パンデミックで撮影場所に苦労する中で偶然ここで撮影されました。実際にマリア宮殿でナートゥ大会が出来るようになって欲しいですね。

③メタモルフォーゼの縁側

 今年は邦画にも良い作品がたくさんありました。17歳の女子高生と75歳の老婦人の友情を描く青春コメディドラマ『メタモルフォーゼの縁側』。これももう、笑って泣いてとポカポカした気持ちで過ごせる素敵な映画だったんですね。
 原作は鶴谷香央理さんの漫画。旦那さんにも先立たれて独り身の老婦人・雪さんはある日、本屋さんで絵柄がキレイな漫画が目に入り、久し振りに漫画を読んでみようかしらと店員に驚かれながら買って帰ります。そして家で読んでみると、そこには2人のイケメン男子がキスを交わす刺激的なシーンが描かれていて……! 続きが気になって仕方ない雪さんは急いで本屋さんに向かい、BLに詳しい女子高生店員うららと仲良くなってどっぷりハマっていきます。BL好きな趣味が恥ずかしくて周りにも隠しているうららもBLを話せる相手が出来たことが嬉しく、BLを通じて年の差の友情が育まれていくのでした。

 女子高生うらら役に芦田愛菜。老婦人・雪役には宮本信子。もう、とにかくBLに夢中な2人が可愛くて仕方ないんですね……! 僕は芦田愛菜は本当に天才の類だと思っていて大好きな女優さんですが、芦田愛菜以上に魅力的で可愛らしいのが宮本信子。「あらあらあらあら!」なんて言いながら、男子2人の恋愛にキュンキュンします。好きなものは好きだからしょうがないんですよ。そして大好きなことにのめりこんでいる人がいかにキラキラしてて魅力的かって話なんですよね!
 若いうららは周りの目も気になって理解されにくい趣味に引け目を感じて生きていますが、雪さんはそんなの気にしません。おどおどしたうららが好きなものは好き! と前向きな雪さんの気持ちに引っ張られ、次第に世界の広さに目を向けていきます。人の出会いの大切さと、進むべき時に前に進むことの大切さ。そんなことも感じながら、とにかくBLに夢中な2人を微笑ましく見つめる作品です。

④さかなのこ

 公開当時、ギョギョっと話題になっていたのがさかなクンさんの自伝を原作としたさかなクンの自伝的映画『さかなのこ』。子ども時代、高校時代、社会人時代の3つの時間でさかなクンをモデルにした主人公ミー坊の半生を描きます。
 ミー坊を演じているのはのんさん。性別なんて関係ないんですね。のんさん自身の「ギョギョッ!」を操り、一切の違和感なくハコフグ帽を装着しています。僕はのんさんも天才の類だと思っていますからね、大好きな女優さんです。

 今作もとにかく「好き」であることの強さを描く作品。これを観るとさかなクンがいかにただ「おさかなが好きなだけ」の人間かが分かります。と言うか、今作のミー坊はおさかなが好きな以外は基本的にクズです。おさかなのことになると夢中になり過ぎて、仕事も勉強も全く出来ません。出来ませんと言うか、おさかなが絡むとそもそもやりもしません。人の話も全然聞かないし、ただやりたいことだけをやるので学生時代もヤンキーにすら正論で道徳観を説かれる有様です。しかし「おさかなが好きなだけ」のミー坊に人々は惹きつけられ、多くの人の生き方にも影響を与えていきます。

 スゴイのはさかなクン自身がミー坊の子ども時代に近所に住む有名な不審者ギョギョおじさんの役で出演していることです。いつもの恰好で土手に仁王立ちして、子どもを見ると「一緒におさかなの話をしましょうよ~」と追い掛けて来るおじさん……。不審者が過ぎる。本人なのに。
 ミー坊は同じおさかな好きとしてギョギョおじさんの家に遊びに行きますが、時間を忘れて楽しんでいたら児童誘拐の疑いでギョギョおじさんは警察に連れて行かれてしまいます……。
 自分の伝記映画で逮捕される本人いる!?
 このギョギョおじさん、アナザーさかなクンなんですね。「さかなクンとして有名になれなかったさかなクンはこうなってた」という恐ろしく自虐的なキャラクターなんですよ。すごいぜ。

 そんなヤベーキャラクター達のヤベーギャグをふんだんに散りばめながら進む青春人情絵巻です。なぜか気持ちが温かくなる名作ですよ。

⑤コーダ あいのうた

 そして2022年、まさかまさかのアカデミー作品賞受賞を果たした『コーダ あいのうた』! これはやっぱり面白かったですね!

 フランス映画『エール!』のリメイク作品。舞台をアメリカに移し、家業の設定を酪農家から漁師に変えてより設定が活きるストーリーに変わりました。
 マサチューセッツ州の港町に住む女子高生ルビーは、四人家族の中で唯一の健聴者である「CODA」。耳が聴こえることを活かして家業の漁を手伝っていましたが、学校の合唱クラブでルビーに歌の才能があることが分かります。都会の名門音楽大学の受験を薦められるルビー。しかしルビーが家を離れてしまうと漁の仕事にも影響が出るため、家族は猛反対します。家族と自分の夢とでもがくルビーの出した答えは。

 これも笑って泣いて、のコメディドラマ。かなり幅広い人の心に響く万人受けするタイプの作品だと思います。学校の授業で使ってもいいくらい。
 これはオリジナル版との違いとしてキャスティングでもルビーの家族をルビー以外全員ろうのキャストにしているんですね。かつて史上最年少でアカデミー主演女優賞を獲得したマーリー・マトリン、今回助演男優賞を取ったトロイ・コッツァー、テレビドラマや舞台でも活躍するダニエル・デュラント。主演のエミリア・ジョーンズも含めて魅力的な演技を見せ、全米映画俳優組合賞では最高賞のアンサンブル賞も獲得しました。結構な下ネタもぶち込んでくるとことか大好きです。

 愛するからこそ衝突する家族。こういう家族の在り方はとても素敵ですね。ろうの父親が娘に歌を聴かせてもらうシーンとか、スゴく良いところがいっぱいあるのです。

⑥私ときどきレッサーパンダ

 2022年のピクサーアニメ。劇場公開予定がコロナ禍の影響で結局Disney+の配信映画になってしまいました。これでピクサー作品は3作連続で配信送り。しかしピクサーの映画はやっぱりスゴく良いんです!!

 これはカナダで暮らす中国系の中学生の女の子が、感情が高ぶるとレッサーパンダに変身する身体になってしまうドタバタ青春コメディ映画。画期的だったのが、これは女の子の思春期の変化を描く作品なんですね。だからディズニー・ピクサー史上初めて生理用ナプキンが描かれたりするんですよ。
 思春期に入り迎える身体の変化をレッサーパンダになることで表現しているんです。身体は丸みを帯び、毛深くなり、体臭も変化し……。情緒も子どもの頃とはまた違う意味で安定しなくなります。でもそれって素敵なことなんだよ! という作品です。

 アニメーションの優秀さも今さらですが、今作はこれまでのピクサーにない表現でオーバーに顔面を動かしたりしています。良いも悪いも、とにかく思春期を描くための作品ですので。特有のキラキラ感とかまっすぐな感じが溢れてて眩しさもイタさもあります。それがいいんですよ。アイドルに本気で恋して、結婚して子供を産む妄想までしてるとか……。僕は女子ではないですけどやっぱりこの年代のイタさには身に覚えのある面もあって、心臓に悪いシーンもあります。
 それで最終的には怪獣映画ですからね! きちんとやりたいことが詰め込まれた楽しい映画です。こういうことをテーマにした気楽に子どもが観られる作品って世界でも少ないと思うので、必要な時に必要な子に観せてあげたいですね。

⑦貞子DX

 そして、貞子! いや今回良かったですよ!
『貞子DXディーエックス』とか正気のタイトルか? とか、IQ200の天才女子大生とかバカ設定の極みだろ! とか、観る前は好き勝手考えてましたが……。観てる間もボロクソに考えてましたが……。

 観れば24時間で死に至ると言われる都市伝説「呪いのビデオ」。IQ200の天才大学院生・一条文華はひょんなことから手に入れた呪いのビデオを妹が観てしまい、タイムリミットまでに呪いのビデオの謎の解明に挑むこととなる。呪いは、科学で解明できるのか……。

 まあ、完全にオモチャになってる今の貞子に今さら怖さなんて微塵も期待してないわけですが、今作のスゴかったところはまさしく制作サイドも全く貞子に恐怖を期待してないとこなんですよ! この映画は「ギャグ映画」として作られているんです。それも『貞子3D』シリーズなどの「真面目にやってたら何故かツッコミどころを乱立させちゃったぜ☆」みたいなうっかりギャグにしちゃいました系ではなく、最初から完全に文字通り正しくギャグ映画として作っているんです。これはほぼ全編が、特に笑えるってほどでもない微妙なギャグシーンで構成された映画なんですよーーーーーー!!!!!!

 まず恐怖演出をやる気がないか素質がないかなのはオープニングですぐ分かります。それ以降は全てを諦めたかのように中途半端なギャグのオンパレード。「一休さんよろしく耳をモニュモニュすることで閃きを得る天才のポーズ」やら「ピーマンたっぷりナポリタンをピーマン抜きで」やら「女性はとにかく名前で呼ぶ主義の占い王子が初対面からずっと名前で呼んでくるからヤバいシーンでもいちいちそれにツッコむ」やら、何かそんな感じです。
 しかし恐ろしいことに、これ段々と慣れて面白くなってくるんですよ……! 何だろう、空気感? 続けられることでなぜか笑ってしまう感じ? これが一番怖いんですけどね、とにかくいつの間にか楽しくなって来ちゃうんです、この感じが! 常に微妙なギャグで構成された空間が! むしろ居心地が良いまである!!

 ちなみに監督は木村ひさしさんなので、まあ何と言うかそういうスタイルの人です。僕は『屍人荘の殺人』も……好きだったので……。

 特にヤバいのが今回は貞子に呪われると最終的に「前転して死ぬ」んですよ。何かに引っ張られるようなパントマイムをひとしきりやってから、急に「エイヤッ!」とばかりにその場で前回りして死にます。これもうずっと光景が謎で、「???????」ってなってたんですがどんどん前転して死ぬからやっぱり楽しくなっちゃって。クライマックスは主人公一行が揃って貞子の呪いでやられそうになるから横並びになって皆で回らないように頑張ってるんですよ。それを見守る呪われてない仲間が「みんなー!回っちゃダメだー!」とか声援を送ってるんですよ。ヤバいですよ。もうこの頃になると「うははははは!」って普通に笑ってますから。
 で、この前転は実は貞子ビジョンに引きずり込まれて貞子世界の中で井戸に飛び込まされて死ぬってことなんですね。だから主人公視点では井戸を挟んで貞子と取っ組み合って回らないように踏ん張ってるんですよ。ヤベー構図ですよ。それで何とかタイムアップで呪いを乗り切ったらね、潔く貞子が前転して井戸に飛び込んで帰るんですよ……!! 「お前が前転するのかよ!!!!」って、もう我慢できなかったので。言いました。映画館で。できるだけ小声で。はい。

 そんな謎の楽しさがある作品なんですが、まあそんなことは本質的にはどうでも良くて。僕がこの映画をすげー! と思ったのはもうエンディングですよ。そこまでは「今年ワーストかな……」と思っていたので。
 何だかんだで世界は貞子と共存する道を選ぶんですよ。貞子の呪いは『リング』の頃からウイルスによるものなんですが、貞子ウイルスを消し去るのではなく、適切に共存していく。今作のエピローグは新しい「with貞子」の時代が描かれるんです!
 これがもう、何か良くてね……。バラバラになりかけてた家族も前よりも仲良く、引きこもりだった男性は少しずつ外との接点を取り戻し始めて、色んなところで貞子禍を乗り越えて生まれた絆があるんですね。ラーメン啜りながら呪いの動画を観てたら隣席でも観てて、「やぁ、おたくも呪われてるんですか。どーもどーも」みたいな……。
 貞子が世界を繋いでいくんですよ。かつては平穏なようで目に見えないギスギスがあった。そういうモノが貞子を通して絆に変わっていく。世界の新しい可能性を貞子が提示します。貞子にこんな描き方がまだあるんだ! とここには普通に衝撃を受けまして、何だかんだでベスト10に選んだ次第。

 だからまあ、基本的にはしょーもないんですけど。不思議な温かみのある良い映画になりましたね。シリーズでも1作目の『リング』に次ぐ出来栄えと言って良いんじゃないですか?

⑧ザ・メニュー

 予告を観て「面白そうだな~」と思ってたら思ってた以上に面白くて嬉しくなっちゃったサスペンスコメディ。だってこれ、プロデューサーがアダム・マッケイとかウィル・フェレルとか大好きな人でね、キャストもレイフ・ファインズとかアニャ・テイラー=ジョイとか大好きな人でね、もう大好きに決まってるだろ!!! って映画ですよ。

 孤島にあるハイコンセプトな超高級レストランに招かれた12名のお金持ち達。そこでは客も巻き込み、シェフこだわりの一世一代の壮大なメニューが展開されます。

 シェフのレイフ・ファインズの大ファンで彼を崇拝してる彼氏にくっついてきたマーゴが主人公。マーゴは普通の庶民感覚の人なんですが、他の客層は映画スターとか美食評論家とかのセレブばっかりなんですね。ここで出されるコース料理は1食でウン十万円するようなバカたけえーもの。それで「何が出るんだろう?」と思ってたら、「パンは歴史的に庶民の食べ物だから、あなた方セレブは食べてはいけません!」というパンのないパン皿。皿の周りにパンにつけるソースだけが数種類あって、それだけを舐めろというもの。「バカにしてんのか?」ってものが出て来るんですが、大ファンの彼氏はそういうハイコンセプト料理を大喜びして泣きながら食べるんですね。他のセレブも戸惑いつつも「コンセプトが素晴らしい」「とてもユニークだわ」とか肯定的にソースを舐めたりします。
 これは、バカ高いハイコンセプトな料理とかそれをありがたがるセレブとかを風刺するブラック・コメディなんですね。金を払ってステータスを得ることが目的で、料理にも料理人の努力にも敬意がない。だから食べたものの味も分からないし、食べた料理も覚えてない。特に縁もないのでそれが悪いかどうか分かりませんが、バカみたいに描いてるから本当にバカみたいで。
 そして次第に「あれ? そもそも何か変だぞ?」と段々空気が変わっていく。客の悪事がレーザーで焼き付けられたトルティーヤが出されたり、副料理長が拳銃自殺する料理なんてものも出始めるんですね。これは趣味の悪い演出なのか? マジなヤツなのか? そんなことに戸惑いながら、それでもコースは進んでいくのです。

 料理自体はだいたい美味しそうなんですが、終盤で出て来る別格に描かれてる料理が特に見事なんですよね。美味しい香りまで感じられそうで。人を幸せに出来る料理っていいな、て思います。
 アニャの美しい眼力も冴え渡る魅力的な作品です。

⑨すずめの戸締まり

 新海誠監督の最新作。個人的にはこれだけ毎作騒がれてくると反骨精神みたいなのも出て来まして、ちょっとこう、ボロクソにけなしてみたいぜ! みたいなしょうもない気持ちもあるんですけど。残念ながら特にけなすところもない、と言うかむしろエンタメ性とテーマ性の両立が作品毎に進化してる気までしてメチャ良かったです。

 九州の田舎町で暮らす女子高生・鈴芽が災いを起こす扉「後ろ戸」を閉めて回っている閉じ師の青年・草太と出会い、謎の猫に椅子に変えられてしまった草太とともに日本全国の戸締りをする旅に出るロードムービー。

 とにかく今回は、まずは廃墟とそこにまつわる人々の想いを描く映画なんですよ。かつては人の想いが溢れていた場所。今は忘れ去られた場所。そういうところに扉が存在するから、その土地に存在していた想いとともに扉を閉め、災いを鎮める。
 そして女子高生と椅子のロードムービーになりますので、旅の中で鈴芽は色んな人との出会いで世界を知っていきます。田舎の女子高生をやってるだけでは分からなかった社会を知り、大人になっていく成長物語なのです。鈴芽はかつて親を亡くし、故郷を離れて叔母さんと2人暮らし。反発し、すれ違う気持ちに想いを巡らせ、心を寄せていきます。
 そうした旅の中で鈴芽達が戦う相手は地震なんですね。扉から災いが漏れ出てしまうと地震が起きる。だから鈴芽が旅をする場所はかつて大地震が起きた土地だったりもして。最終的には鈴芽のルーツでもある東北でクライマックスを迎えます。

『君の名は。』も『天気の子』も災害を描く話でした。だからワンパターンと言えばそうかもしれないんですが、今作は彗星でもなく、大雨でもなく、真正直に実際にあった東日本大震災を盛り込んできました。
 東日本大震災を描いた作品はまあ、わりとあるのはあります。しかし、こういう多くの人が観るアニメ作品でエンタメと絡めながらそれを描きにいけるのはとても大事なことだと思うのです。

⑩犬王

 最後は湯浅政明監督の『犬王いぬおう』。ゴールデングローブ賞にもノミネートしてまして、今年は日本からはこの作品が海外賞レースでもノミネートしていくでしょう。とにかく、僕は湯浅監督のアニメ作品は大好きなのです。

 犬王は室町時代に実在した猿楽師(能楽師)。社会の授業で観阿弥・世阿弥は聞き覚えもあると思うのですが、同年代に活躍して負けず劣らずの人気があったとも言われる人物です。

 その犬王が琵琶法師の友魚ともなと出会ってのし上がっていくサクセスストーリー。発想が自由過ぎると言うか、『ボヘミアン・ラプソディー』や『グレイテスト・ショーマン』のような海外の音楽映画のような楽しさのあるミュージカル作品になっています。
 生まれついての異形の犬王と、呪いで盲目となった友魚のバディは平家の怨霊の声を聴くことで誰も知らない物語をこの世に唄い、これまでにない奇抜なやり方で人々の支持を集めます。異形の犬王は健常者に出来ない動きで舞い、盲目の友魚は女性のような化粧を施して着物をはだけ、琵琶からエレキギターの音をかき鳴らしながら演奏する。彼らのライブでは謎の照明効果もついて、原理は分からんがとにかくスゴいロックになるんですよ!

 まさしく室町版ロックスター映画でして、音楽シーンは非常に心が揺さぶられます。そして当然のように新しい音楽を危険視する伝統勢力が邪魔をしてきたりとかするロックスター映画の流れ!
 脚本を担当された野木亜紀子さんはドラマ『逃げるは恥だが役に立つ』や映画『罪の声』などを書かれた方で、アニメ作品は初となります。キャラクター原案として自由なキャラクターを創造されたのは漫画家の松本大洋さん。『ピンポン』で湯浅監督とは組んでいます。

 映像と音を軸に攻め込んでくる独創的な和ロック映画。映画賞レースでも活躍して欲しいですね。




 2022年のベスト映画10選でした。他にも『トップガン マーヴェリック』や『ゴーストバスターズ/アフターライフ』『THE BATMAN』『アバター:ウェイ・オブ・ウォーター』などメジャーどころだけでも良かった作品はたくさんあります。マイナーどころでも『地下室のヘンな穴』とか……。『ピノッキオ』もいいですね、デル・トロの。

 自分が観られなかった映画で配信が始まっているものもあるので、そういうものを拾いつつ今年も楽しい映画と出会いたいですね。何か良い作品があれば皆さんもぜひ教えてください。

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