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【雑記】夜、幽霊、音楽:2021/1/8

Ayaseの『幽霊東京』を聴いている。

久々に購入したボカロCDで、手に取ったのはもちろんYOASOBIの流行がきっかけだ。インターネット発のアーティストが世間に注目されればその出自を知りたくなるのは人間の性というもので、この1st E.Pにたどり着いた。

この『幽霊東京』、なんといっても聴きやすい。VOCALOID特有の電子的な高音ボイスが浮いておらず、お洒落で耳馴染みが良い。聴いていて「安心する」楽曲が揃っている。8曲という収録曲数も手軽に聞ける塩梅だし、出だしからキャッチ―なメロディが飛び出してくるのも近年のトレンドらしい。「時代がボカロに追いついた」という意見も見たけど「時代が求めるものに近いものがボカロだった」となんとなく思う。サブスクでよく見かけるオリジナルプレイリスト作成も、「大量の楽曲をザッピングしながら好きな曲でマイリスをつくる」ことは10年も昔にニコ動で既にやられていたことでもある。

漫画でも小説でも音楽でも、シリーズ連載やバンド活動が長期化すればファンも年を取ってくるわけで、ファン人口の先細りを防ぐために新しい人の流入は常に歓迎するべきだ、というのが一般論である。実感としては5年でファンが世代交代するサイクルがあれば理想的で、これは自分がボカロにハマってから徐々に離れていった期間にも相当する。別にそのことを念頭に置いていたわけではなく、自分が離れていったのは単純に社会人になって生活習慣が変わり、音楽を聴く機会そのものが減ったことが大きい。

それから自分が求めていたことは「全く知らない世界からやって来た人の未知の楽曲を聴きたい/知りたい」であって、「見知った人から影響を受けてつくられた楽曲を聴きたい/知りたい」でないという超自分勝手な事情も理由のひとつだ。自分が聴いていた頃から作り手側も何度か世代交代をしているし、今じゃ大なり小なりこれまでのボカロに影響を受けている人間が大多数なはずだ。全く知らない人間、全く知らない分野が続々とVOCALOIDという混沌の坩堝に参入してきたあの時代はもう二度と来ないと薄々感づいてきた辺りから、興味が薄れていった自分というのは、確かに存在する。一方で、自分より若い世代にとっては今が「全く知らない人の未知の楽曲」なのは間違いない。なので単純に自分が歳と経験を積んだということだし、そもそも「見知った人から影響を受けてつくられた楽曲」だって100%既知なわけがないので本当に自分がわがままなだけだ。なんだか書いていて自分にげんなりしてきたな。

『幽霊東京』は素敵なCDだが、体に電流が走り頭をかきむしりたくなるような、刺激に満ちた音楽ではない。むしろ既知のフレーズやメロディで構成された「安心する」音楽だった。とはいえ、あくまでこれは世間の流行であって、現場の最先端はまた違った楽曲がヒットしているだろう。かつては時代の最先端を走っていると確信していたのに、今じゃすっかり周回遅れの身になっているのはなかなか面白い状況である。

Vtuberにあまり興味が出ないのもきっと「全く知らない世界からやって来た人」ではないのが理由かもしれない。実際触れてみれば全然違った印象があるのだろうけど何しろ時間がない。余裕がなければカルチャーを咀嚼する猶予もないし、時代に流されないために有識者の記事や意見に目を通すことはできても、それは実体験ではないのは重々承知している。とにもかくにも、この世のコンテンツは両手で抱えるにはあまりにも多すぎる。

今現在のライブ感を重視する体験でなく、日々新しいものが生み出される中、バーチャルアイドルの皮を被った正体不明な存在がどこまでも膨らんでゆき、これから先どんな未来が待っているのか想像もつかないという「未知」が、一番VOCALOIDに引き寄せられた理由であっただろう。

だいぶ懐古的な話になってしまったが、YOASOBIのおかげでこうやってボカロに再び触れる機会が得られたのは純粋に喜ばしい。問題は先日サプライズリリースされた『MIKUNOYOASOBI』が店頭でもオンラインでも全く手に入らないことだ。発売日当日で既に購入不可になるのはどう考えてもファンの数を甘く見積もりすぎだし、メルカリには既に転売が溢れている。2021年にもなってアナログCDのみのリリースも時代に逆行してるし、こんな未来は望んでいないというのが正直なところである。


(終わりです)

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