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『ぼっち・ざ・ろっく!』から入るVOCAROCK入門

『ぼっち・ざ・ろっく!』、面白かったですね。マジで面白くて存在しないライブ感想を捏造したりしたくらいなんですけど、周りのロック有識者がこぞって結束バンドの元ネタを解説しまくってる状況はマジで面白くない。俺もしたり顔でロック雑語りして承認欲求を満たしたい。けど残念なことに邦ロックの知識は全然ない。何しろインターネットは20年前から知識マウントを取り合う場なので、あの頃からリアタイでライブを経験している奴らには逆立ちしても勝てない。だったらどうする? そもそもぼざろの何が俺に刺さったのか? そうだ、インターネットだ。俺にとっての青春はライブハウスではない。インターネットだったのだ。つまり、VOCAROCKだ。

VOCAROCKとは

 VOCAROCKとはVOCALOIDを用いたロック楽曲である。十把一絡げにVOCAROCKと言ってもその内容は「ギター掻き鳴らしてたらロックっしょ!」ぐらいの大雑把なくくりで、マジモンのバンドがスタジオで収録してる曲もあれば、ぼっちでギターを宅録してドラムやベースは打込みで済ませている曲もあるくらいに幅が広い。しかもリスナーは耳の育っていないインターネット現実逃避ティーンばかり。そんなやつらがロックの歴史やジャンルの違いなんて分かる筈もなく、流行り廃りもメジャーもインディーズも右も左も全部ひっくるめて、VOCAROCK含めVOCALOIDオリジナル曲が怒涛の勢いで毎日毎日投稿され続けるという異常な状況が続いたのが2009年~2012年の頃。後年になると流石にボカロ界隈内でメジャー曲や流行が勃興して落ち着いてくるんだけど、投稿曲の多様性とリスナーの熱気、そして続々とボカロPがメジャー進出していきインターネット上で未来への期待感が膨らんでいった時代だった。

 そんなこんなで世間のロックはよく知らなかったけど、あの頃はVOCAROCKを浴びるほど聴いていた。今振り返るとVOCAROCKもまたぼざろ同様にガッツリ邦楽ロックの系譜を踏んでて、華やかさの欠片もなく、陰キャで、卑屈で、内省的で、諦念に囚われてて、ただ初期衝動だけが空回りしている曲がゴロゴロあったし、それがロックだと思っていた。振り返るとVOCALOIDがどんどん認知されていったのも、応援していたバンドがメジャーデビューして有名になっていく過程に似ていたかもしれない。そもそもボカロはぼっちでも曲が作れることが売りの一つでもあるから、そういう意味では『ぼっち・ざ・ろっく!』だし、ボカロ活動がきっかけでバンドを始める人もいたことも含めて『ぼっち・ざ・ろっく!』なんだよね。何言ってんだこいつ。

 前置きが長くなったけど、ようやくここから本題に入ります。ちなみに記事タイトルにはVOCAROCK入門とあるけど、その実俺の独断と趣味で選んだVOCAROCKを好きに語るだけです。タイトルに惹かれてクリックしたやつら残念だったなァ~~~ゲハハハハ!!


フラッシュバックサウンド / クワガタP

 人類は初めて聴いたロックを親だと思い込む習性があるけれど、俺の場合はクワガタPです。出だしからバァァァンと弾けるギターを聴いて! そしてそこからグッと下がって淡々とミクが歌い始めるAメロを聴いて! ボカロとロックって相性悪いと思い込んでたんだけど、その固定観念を吹き飛ばされたのがこの曲だった。やっぱボカロって今でも声に馴染めないという人が少なくなくて、もちろんシャウトやデスボイスは専門外だし(と言いつつやってる人いるが……!)ロック曲だとどうしてもボーカルに生っぽさが求められてしまうから「ボカロでロックってどうなの?」と思うところもあった。
 で、これは別にボカロを人間に近づけなきゃいけないという話ではなく(と言いつつやってる人いるが……!)そのバンドのサウンドに合致したボーカルかどうかが重要であって。何が言いたいかというとVOCALOIDの淡々とした声とバンドの荒削りな衝動感が、結束バンドのアニソン(声優)でロックというアンビバレンツさに似ているんですよね。


アルビノ / buzzG

「かぁ~っこいい~~~♡」マジでカッコいい。これまでの人生でV系のような華々しいロックを通過してこなかったせいか、ロックってカッコいいものではないという認識があって。芋臭い格好のバンドがジメジメした歌詞の歌をボソボソ歌うみたいなのがロックのスタンダードだと思っていたのです。
 だのに、この曲のイタさとかダサさとか厨二臭さとかそういうものを青臭いとバカにする自分をブン殴るような刺々しいギター、ベース、ドラム! 暗くて陰い歌詞! イタくてダサくて厨二臭くて何が悪い! カッコいいものをカッコいいと呼べなくてどうする! というギラギラした熱量! そんなパッションに満ちた最高にクールな曲。


タワー / KEI

 この人はインディーズバンドとボカロPを兼任しているマジのバンドマンで、派手さはないけど滲み出る根暗さと疾走感が本当に良い。バンドサウンドの泥臭さはKEIの曲で学んだ。初っ端の歪んだギターがね、良いんですよ……。
 なんでもバンドのボツ曲をボカロ曲として作り直したのがきっかけだそうだけど、これが本当に地に足が付いている感があって定期的に聴きに戻っては新鮮な発見がある。カッコいいけどカッコよくない。俺だけがこのバンドをカッコいいと思えればいいみたいな謎の優越感に浸れる。良くない趣味。


Pierrot / ジミーサムP

 VOCAROCKを語る上ではジミーサムPは外せない。その中でもこの曲はドラムがすごい。テクニカルなドラム捌きから始まり、ミクのボソボソした歌唱からサビへ向けて爆発的に高まっていく各パートの流れがあまりに開放感に満ち溢れている。こんなポップス一歩手前まで来てる曲なのに歌詞はめちゃくちゃ個人的かつ抽象的で、メジャーで言うところの「売れる売れない」を全然考えてないのがあの頃のボカロって感じだ。


グリグリメガネと月光蟲 / 古川本舗

「オルタナとかシューゲイザーとかよく分からんけどどうやらバンドってのはギターをジャキジャキ掻き鳴らすだけのものではないらしい」と知ったのは古川本舗から。思えば初ライブも古川本舗だった。田舎からひとり夜行バスに揺られて東京を彷徨い歩き、辿り着いた会場はプロレスリング。プロレス会場でライブを……?とビビったものだ。
 この人もボカロからバンド活動に移行した人で、初期はエレクトロニカというか、電子音楽をメインにしていたのだが、ロックやらジャズやらクラブミュージックやら芸の幅がめちゃくちゃに広く、ジャンルを問わず音楽を貪れるようになったのは古川本舗の影響がデカい。最近活動を再開してプロセカに楽曲提供したらしい。おめでとうございます。


わすれんぼう / アゴアニキ

 ダサいんですよ。アゴアニキの曲は。マジでダサい。ダサいけどパワーがある。そんな褒めてんのかけなしてんのか分からん感じなのは、いつまで経っても心の中であぐらをかいて居座ってるから。アゴアニキもバンドをやってるボカロPだけど、こっちは泥臭さを通り越して土足でズカズカ入り込んでくる図々しさがあり、それでも憎めないんだな。ダブラリも良いんだけど個人的にはリンちゃんの声の方が通りが良くて好きなのでこっちの曲をセレクト。


カナシキヒステリックガール / ナノウ

「ナノウとは何者か?」と今問われたら「結束バンドに出会わずインターネットでカリスマ的存在になった超絶ド陰キャ鬱歌詞が名物のウルトラハードモード後藤ひとり」と答えるだろう。ヒステリックに泣き叫ぶギター、上ずった声でカウントを始めるミク、どこまでも沈み込んでいきそうな”重い”音楽と感情は、きらら漫画とギャグ描写というオブラートを無様に引き剥がされた、真の“ぼっち”のためのものだ。
 この当時のどのボカロPのインタビューを読んでも「ボカロは“ぼっち”な人間の味方」みたいな言葉が出てくる。世間一般の知名度は上がりつつあるものの、結局はイロモノというレッテルを貼られ続け、作り手側も聴き手側も世を忍ぶように気持ちを押し殺してきた、そんな“ぼっち”のための音楽だった。健全かどうかと言われると間違いなく不健全なんだけど、現状の嘆きを音楽にしてくれていることで救われる人間もいる訳で、俺もまた例にもれず延々とリピートしていた。気に入ったならナノウは今はLyu:Lyuを経てCIVILIANというバンドをやっているのでオススメです。


アストロノーツ / 椎名もた

 椎名もたはティーンエイジャーが持ちうる全ての不安、恐れ、孤独、虚無、ありとあらゆる感情を抱えたまま、その若さが永遠になってしまったアーティストだった。アストロノーツはそんな彼の初のバンド曲。若干16歳。死にたいほどダウナーなミクの歌声と、めちゃくちゃに掻き鳴らされるギター、残響。もたくんにぼざろ観てほしかったなあ。


ティーンエイジ・ネクラポップ / 石風呂

 ティーンエイジ・ネクラポップ。もう一回言いますよ。ティーンエイジ・ネクラポップ。まずね、タイトルがめちゃくちゃ良いんだわ。だって「ティーンエイジ」と「ポップ」の間に「ネクラ」ですよ。マジで良い。俺の青春はこの一曲で集約されます。知らない人はこれがアルバムの表題曲でトラックの最後に入ってるヤバさを想像してほしい。
 石風呂(朝日)はボカロからバンドへ移行して開花したアーティストのひとりであり、ネクライトーキーは関西版結束バンドだと全俺の中で話題になってるくらい結束バンドにハマった人間はネクライトーキーもイケると思う。バンドはライブで育つ。


ローリンガール / wowaka

 ローリンガール、転がるぼっち。はっきり言って俺は結束バンドをヒトリエに重ねて見ている部分がある。『ギターと孤独と蒼い惑星』はwowakaの『ローリンガール』で、ヒトリエの『センスレス・ワンダー』だった。あの先行きの見えない焦燥と余裕の無さ、バンドを組むことによって何かが変わるような期待。そんながむしゃらな衝動感がwowakaとヒトリエにはあった。
『ギターと孤独と蒼い惑星』も『ローリンガール』も『センスレス・ワンダー』もダッセえんですよ、聴いてるこっちが恥ずかしくなるくらいに。でも何十何百と再生して何度もライブで聴いたらもう体に染みついて離れなくなっちゃって。でもそんなダッセえ曲を10年もやってるバンドはマジでカッコいいんだわ。結束バンドも10年続けたら最高のバンドになるのは間違いなく、その時には『蒼い惑星』はセトリ一発目でも中盤でも大トリでもアンコールでもブッ放せるキラーチューンになるんだわ。俺はマジで見てきたので分かる。

 どうかニコ動に投稿された音源と1stアルバムに収録された音源とヒトリエのライブバージョンの『ローリンガール』を聴き比べてほしい。アーティスト、そしてバンドの変遷がここに詰まっている。


(終わりです)

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