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左義長(ドンド)

1月7日、瀬戸市幡山町(愛知県)で左義長が行われた。新型コロナのせいで、4年振りの開催となる。これまでニュースなどで全国の左義長の話題を目にすることはあったが、実際に見るのは初めてだ。
『瀬戸市史(民俗編)』によると、かつては市の各地区で行われていたそうで「この行事を市域ではドンド、ドンドコ・ドンド焼きといい、幡山・今村地区ではサギチョウ・サギッチョ(左義長)ともいった」とある。(以下も引用は全て『瀬戸市史(民俗編)』による)
「小正月の前日にあたる正月一四日か一五日の夕方には、残しておいた煤払い竹、門松、オカガミ用のウラジロ、古いお札などを持ち寄り、これを積み上げて燃やした」という。お正月に飾ったものは、燃えるごみで出すのがはばかられる気持ちがあったので、今年は燃やしていだこうと持参した。

朝8時20分頃、矢田川河川敷(菱野ふれあい広場)に行くと、もう神事が始まっていた。寒いのではと心配したが、風はあるもののそれほど気温は下がらず、背中に朝日がさしていたのでそれほどではなかった。祭壇が設けられ、山口神社の神主さんが祝詞を上げている。マイクが風の音を拾う。火床は、四方に青々と葉のついた竹を立て、紙垂をつけた縄で囲んである。中には枯れ枝などが高く盛り上げられ、門松やお正月飾り、もち花なども周りに置かれている。神主さんは火床に近寄ると、四辺で祝詞を上げ紙吹雪や塩などを撒いた。続いて玉串奉奠。

川本市長による玉串奉奠

いよいよ点火。竹の先に火をつけて、4、5人で着火すると、あっという間に燃え上がる。離れていても火力が伝わり熱かった。炎が高く上がり、燃えた葉などが空へ舞い上がる。突然、門松の竹が弾ける音が響く。「ドンドの火は古い神札などが燃えたものなので、御利益があるとされ、煤払い竹や門松の竹がぱんぱんはぜるほど景気がよいとされていた」。「煤払い竹」とは年末の大掃除で使うそうだ。「家で使う燃料が薪の時代には、土間も居間も灰や煤がこびりついていた。煤払いは、家の主人が竹竿に笹竹を付けた『煤払い竹』で、主に座敷の天井から始め、各部屋や軒周りの煤を払った。家族が手分けして、拭き掃除をした。家内外の清めに用いられた煤払い竹は粗末にできず、軒先などにしまっておいて、左義長の折にドンドの火で燃やした」ということである。

点火

川本市長がいらしていて、挨拶のあと書き初めを披露。どんど焼きといえば書き初めだ。かつては「子どもたちは書き初めの半紙を竹の先に挟み、火の中央にかざすと、紙が燃えて竹から離れ、舞い上がる。高く上がると習字の手が上達するといわれていた」という。時間が早いためか、子供たちはまだいなかったが、本部には書き初めコーナーがあった。子どもたちはお菓子やおもちゃがいただけるそうだ。本部では豚汁の接待があり、大人には干支のタオルがいただけた。煙を閉じ込めたテントの「煙体験コーナー」も設置されていた。

市長の書き初め

今回はそれぞれ持ち寄った正月飾りなどを火に入れるくらいだが、昔は書き初めやお餅を焼いたりして、大人も子供も火を存分に楽しんだようだ。「餅をこの火で焼いて食べると病気に罹らないとか、夏病みしないといわれていた」。地域によっては、「焼いた餅を取っておいて、雷が鳴ったときに食べると雷がおちないといわれていた」
「元旦を年初とする正月を一般に大正月というのに対し、一五日に始まる正月を小正月といった」太陰暦では、一日(ついたち)は新月つまり闇夜である。そこから月が満ちていき15日に満月となる。小正月は元来は新年最初の満月を祝うものだろう。「ドンドは浄火によって元旦に迎えた正月神を送る大きな折り目となる行事であった」。正月が終わり、また日常が始まる前に、区切りとして大きな焚火を囲む。高く燃える炎、風に舞う灰。火の熱さと煙の匂い。パチパチと燃える音に混じる、竹の爆ぜる音。原初的なパワーに触れ、エネルギーをもらったような気持ちが、数日経った今でも残っている。かつては「燃え残りの松や竹を家に持ち帰り仏壇に供えるか、母屋の屋根に上げた。魔除け、病気除けになる」とのことだ。
『瀬戸市史(民俗編)』は、この地域の昔の生活や風俗が記録されている。凡例によると「主に大正から昭和初期生まれの話者(伝承者)からの聞き書きをもとに、主として大きな変革期を迎える昭和三〇年代半ば以前の瀬戸市域の民俗事象を記述することに努めた」という。今も存在する行事や建物もあるし、もう失われてしまっているものもある。体験したことがあったり良くわかる話もあれば、聞いたこともない慣習があったりもする。今回の左義長もそうだが、現在と過去が二重映しに感じられる。まるで古老に話を聞いているようで、ついつい読みふけってしまう。                             

                        上杉あずき@STEP

 参考文献
瀬戸市史(民俗編)平成18年 瀬戸市史編纂委員会 愛知県瀬戸市発行  

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