【読書メモ】発達障害グレーゾーン|姫野桂 著
福祉の網の目から漏れがちな発達障害グレーゾーンをあえて取り上げた一冊として気になっていたので読了。
以下、感想をまとめます。
どんな本?
新書サイズで読みやすいページ数。
メインはだいたい以下のような内容です。
・発達障害グレーゾーンとは何か?
・当事者の事例紹介
・何に困っているのか?
・支援者側から見た発達障害グレーゾーン
帯文からも察せられますが、どちらかというと困りごとを抱えた当事者向けというより、「発達障害グレーゾーンってよく聞くけど何?」という非当事者向けの色が濃かったです。
家族や、支援者向けの本なのかもしれません。
発達障害グレーゾーンが潰れてしまわないために持つべき「3つの意識」
第四章でインタビューに応じている医師の西脇俊二氏の言葉に、以下のような内容がありました。
ーーたしかに、グレーゾーンの人は働けている人が多いですが、それでも「何をどうしたら良いのか」がわからず、常にギリギリの状態で疲弊している印象です。
そのような方に言いたいのは、次の3点です。
「自分に期待しない」
「他人に期待しない」
「自分は努力する」
(P106)
これは非常に重要で、私自身、この本を読む前から意識的に実践していました。
言い方はアレですが、自分の「できるかもしれない」に期待せず、できるときにやっておく。他人は基本変わりたくないものなので、相手のツボをみつけてそこに配慮して接しているとコミュニケーションが成り立ちやすい。(=嫌われにくい)…というふうに対人関係をシステマチックに覚えて訓練しています。
期待してイライラする、がかなりの割合で起きているようで、しかも我々はこういった訓練をしても他者視点をもともと持ちにくい脳の仕組みをしているためか、そこに自覚を持ちづらい。
ですので、折に触れて意識したほうがいいということを医師という立場から伝えてくれたのは大きいと思います。
ちなみに、これらの思考は2週間から1ヶ月くらい意識するようにすると、ある程度定着してくるようです。
Todoリストのタスクが無限に増えるADHDの人向け対策
同じく第四章では、Todoリストをつくって優先順位を整理しようとしても、無限にやることがふえてしまい、結局消化しきれないというADHD傾向の強い人向けの対策もまとめてありました。
タスクの数を5つまでに絞り、タイムライン式の記述にすることで優先順位とタスクをひと目で分かるようにすると効果があるそうです。
医師からの目線では、診断が降りるか否かというよりは、「困りごとをどう解消するか」がとにかく大事であり、それを教えてくれる人(医師など)をどう見つけるか、または自分でどう解消していくか、その能力こそが発達障害グレーゾーンが生きていくために必要であるとのまとめがなされていました。
これは本当にその通りだと思います。
実際に自分が今なやんでいるのもそのあたりで、もっとステレオタイプな人以外が生きやすい柔軟な生き方が多様性として広がっていけば、手帳がなくてもなんとかやっていける道がひらけやすくなるのでは?と感じているところです。
(自分がLGBTとのダブルマイノリティだからこそより強く思うのかもしれませんが)
当事者インタビューは豊富だが比較的成功者の話が多い
当事者インタビューもとても豊富でした。
グレーゾーンの人特有の、「あなたは発達障害じゃないよ」とか「手帳は出ないよ/診断を出すほどじゃないよ」という事例の掲載もあり、心が痛みます。
グレーゾーンの当事者会である「ぐれ会!」の様子なども記述があり、同じ悩みを抱えている人は他にもいるんだと、少し元気をもらえました。
ただし、すでにアルバイトや正社員として就職したことのある人の話が多く、就活の段階で躓いていたり、その他の障害やLGBT・外国人など、ダブルマイノリティかつグレーゾーンである人のサンプルはあまりないように感じられます。
発達障害の中でもグラデーションがあり、格差があることに触れた本書ですが、同じようにグレーゾーンの中にさえも格差はあるのだという点も書いておいて欲しかったですね。
語りたりなさ感がある
新書である都合上しかたないのかもしれないのですが、全体的に薄味で語り足りない感じがあります。
当事者の体験談や困りごと、解決策の点についてはもっと読みたかったです。
当事者からすると一番知りたい情報は、「困りごとに対する解決策」と「どういう支援が受けられるか」なので。
解決策については上で挙げたものが非常に使い勝手の良さそうな汎用対策であるなと感じましたが、個々の体験談の中や長文インタビューにとっ散らかってしまっていたのでやや一覧性に欠けます。
また、とくに行政から受けられる支援のすくない発達障害グレーゾーン当事者の話をするのであれば、当事者の読者向けに「今の行政であってもどういう支援なら受けられるか」のリストは欲しかったですし、行政にこれから何が求められるか、何が不足しているのかの課題提起くらいはしてもよかったのでは?と思いました。
(一応、どういう支援が受けられるかについて、支援者側へのインタビューのなかで触れられている箇所があるが、文量としては少なめ)
とはいえ新書サイズで手に取りやすいので、発達障害グレーゾーンとして悩みをお持ちの当事者の方は一度読んでみるのをおすすめします。
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