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クラクションと罵声と

週に2回から3回くらい、車を運転する機会があります。運転していると、「あ……危なかった」と思うことが度々あります。いわゆる「ヒヤリハット」と呼ばれるもので、ハインリッヒの法則に基づくと、そろそろ重大事故にあってもおかしくないのかもしれません。

ハインリッヒの法則

「ハインリッヒの法則」とは、労働災害の分析から導き出された経験則です。1件の重大事故の裏には、29件の軽微な事故と、300件の「ヒヤリハット」、つまり事故には至らなかったけれど認知されたトラブルがある、というものです。なお、これは今回の記事にはまったく関係のない知識です。

クラクションと急ブレーキ

自動車を運転する際のヒヤリハットでは、クラクションを鳴らしたり急ブレーキを踏んだりすることで事故になるのを防ぐことができます。先日、事故回避のためではないクラクションと急ブレーキとを経験して、とても複雑な気持ちになりました。

信号とスマホ

ある日の夕方、自宅に向かって車を走らせていると、赤信号の交差点に差し掛かったので、車を停めました。前には青の軽自動車が一台、背後には黒のミニバンが一台停まっていました。

軽自動車のドライバーは、停車するとすぐにスマホを触り始めました。あらあら、スマホ中毒なのかしら、と思って見ていると、まもなく信号が青に変わりました。

案の定、軽自動車のドライバーはスマホに集中しており、発進しませんでした。そして、信号が青に変わってからはそれほど時間は経っていないはずなのですが、黒のミニバンが「パァァァン!」と高らかにクラクションを鳴らしたのです。軽自動車はクラクションを鳴らされたことに動揺しながらも、慌てて発進しました。

怒りのドライビング

その直後。軽自動車のドライバーがバックミラーで私の車を認知すると、動揺が怒りに変わっていったのです。そして、急ブレーキと急加速で私の車をゆるやかにあおってきました。なぜ自分がクラクションを鳴らされなくてはいけないのか。そんな気持ちがひしひしと伝わってくる運転でした。

クラクションを鳴らした当人である黒のミニバンは、次の交差点で右折してどこかにいってしまいました。こうなると、弁解の余地がありません。なんとか離れようと、軽自動車が先行車に引っかかった隙きを突いて追い越しましたが、次の信号では追いつかれてしまい、ぎりぎりまで車間を詰められました。そして、その次の信号では急加速して私を追い抜いて去っていきました。

似たような出来事があった

その時に覚えた感情は、説明するのがなかなか難しい複雑なものでした。ただ、以前にも似たような出来事があり、同じ気持ちになった記憶がありました。数年前、電車から降りて、駅構内のエスカレーターに乗ったときのことです。

当時はまだ「エスカレーターは立ち止まって乗りましょう」というマナーが広くは知られておらず、片側を空けてエスカレーターに乗る人がたくさんいました。私は普段、立ち止まって乗るのですが、混雑するホームの人の流れに身を任せていると、歩いて進む方のレーンに入ってしまいました。しかたなく、エスカレーターをゆっくりと上がっていたのですが、私の前に小さな老婦人が立ち止まっていたのです。

老婦人は大きめの荷物を持っていたため、エスカレーターの全幅を埋める形で乗っている状態になっていました。無理をすれば荷物を跨いで通り抜けることもできましたが、危険も伴いますので、そこで立ち止まることにしました。

すると後ろから、「おい!立ち止まるな!早く行きなさい!」をかなり汚くした罵声を投げかけられたのです。おそらく、後ろに並んでいる人達からは老婦人も、彼女の荷物も見えないはずです。ですので仕方がないといえば仕方がないのですが、ちょっと理不尽に思ったので「理由があって進めないのだからそんな言い方をしなくてもいいのではないか?」というようなことをできる限り優しい言い方で伝えました。

誤解が原因?

その時も、今回も、「あおり運転をしてきた軽自動車のドライバーも、エスカレーターで罵声を浴びせかけてきた人も、正確な状況がきちんとみえない状態だったから仕方がないよね」と思い、納得してやり過ごそうとしていました。しかし、時間をおいてから考えなおすと、たとえどんな状況であっても、見知らぬ人にあおり運転をしたり罵声を浴びたりはしないほうが良いのでは、という思いのほうが強くなりました。

この話を人にしたところ、道路などであおる人やエスカレーターで急かす人に気分を害した時は、「おそらくあの人は漏れそうだったのだ」と認定すればよい、というライフハックを教わりました。クラクションを鳴らしたミニバンのドライバーも、エスカレーターで罵声を浴びせかけてきた人も、もうギリギリだったのでしょう。もしかしたら何かが「こんにちは!」状態だったのかもしれません。そうであれば許せます。許しました。

人を責めるときは、きちんと裏を取ってから。逃げられないよう、理路整然と詰めていきたいものですね。それができないのであれば、人を責めたりしてはいけないのでしょう。

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