5人乗りのヤンキー母さん
この前イオンモールに買い物に出かけましたら帰り道で自転車を5人乗りしている女の人を見かけました。
本当に5人で乗っていました。
乗車率500%
野良のシルク・ド・ソレイユを見たわけではないです。
余談ですが、それとは別で小学生と思しき少年が「論破ぁーーー!」と言いながら走り去っていくのを見ました。
アレは野良のひろゆきだったのかもしれません。
話を戻します。
一台の自転車に女性を含めて5人が乗車していました。
他4人はおそらくその女性の子ども。
内訳を説明すると、
まず後ろに付けた子ども椅子に2人座っていた。
ビックリした。
もうだいぶ無理してるやん、と思った。
体を隙間なくピッタリとくっつけてなんとか一つの椅子に体を捩じ込んで座っていた。
そんな状態なのに前に座っている子が首だけを振り向かせて後ろの子と談笑していた。
振り返る時の後頭部のスピンで、後ろの子の鼻先が火傷するんちゃうかと思うぐらい密着して乗っていた
おそらくシンデレラフィットとはこのことなんだろう。
そして女性(以下お母さん)の抱っこ紐に包まれた小さな赤ちゃんが1人。
よかった。普通だ。
誤解が産まれそうな言葉遣いで申し訳ないが、僕でも知ってる子どもの運び方で安心した。
一瞬だけ「自転車に乗る時に前側に抱えるって珍しいな」と思ったがその後すぐに出てきた「あぁ違う違う、もう背後が完全なデッドスペースになってるから前に回すしかないのか」という考えにかき消された。
そしてハンドルの手前側に付けられた子ども椅子に0人。
そう0人。その子ども椅子には誰も座っていない。
なぜなら前カゴにはもちろん、その子ども椅子にも買い物の荷物がパンパンに積み込まれている。
だから誰も座れない、0人。
では最後の1人は自転車にどのように乗車していたか。
これ当てられる人いないと思うな〜。
正解は、
その前側の子ども椅子と抱えられた赤ちゃんとのわずかな隙間に入って自転車本体の細いボディに爪先立ちで乗っていた。
でした〜。
さながらカイジの鉄骨渡り。
走り出す時も曲がる時も一切バランスを崩さず立ち続けていた。
そしてお母さんも5人も乗っていることを感じさせない流れるようなハンドル捌き。
もう野良のアレグリアやん。
サーカスそのものがチャリこいでた。
ほんでみんな茶髪。
お母さんは頭頂部が黒くなっている見事なプリン。
子ども達は赤ちゃん以外濃淡様々な茶。
「茶って200色あんねん」と言わんばかりのグラデーション。
みんな女の子で後部子ども椅子の後ろ側だけが男の子。
伸びる襟足。
遊ぶ毛先。
口の悪そうな顔。
ヤンキー家族丸出しであった。
あずき坊主は暗い学生時代を送っていたのでああいう輩が心底嫌いだった。
何も言わずにケツを蹴られた事なんて何度もある。
だからそのアレグリア自転車を見た時に
「やっぱりヤンキーはアホやから計画性もなくポンポン子作りしてるんやな、なんしとんねん。」
と心の中でバカにした。
でもその後すぐにこう思った。
「いや…そんなことよりもお母さんパワフル過ぎやない?」
そう。
たった1人で4人を運ぶ考えられないぐらいのタフネスお母さん。
それぞれ1歳差ぐらいしかないような小さい子どもを4人も連れてどうやって買い物してきたの?
留守番できないとは言え全員を一台に乗せて移動するってどれだけの集中力がいるの?
あなたの体力ゲージってどうなってるの?
緑のバーが画面外に突き抜けてない?
「母は強し」という言葉を聞いたことがある。
あずき坊主も自分の母に対して思ったことがある。
母子家庭ながら女手一つで僕含めた3兄弟を育てるというのはとんでもない労力だっただろう。
母は強い、何度も思ったことがある。
でもちょっとレベル違くない?
自分の母親のことは"トップアスリートと同じメンタル"みたいな強さだと思っていたけど、
アレグリアお母さんはリアルに体力がすごくて強いやん。まるでヒグマやん。
もうこのお母さんを「ヤンキーみたいだから」といったくだらない理由でバカにする気持ちが一切無くなっていた。
ただひたすらに尊敬の思いで信号待ちをしているチャリグリア(チャリのアレグリア)を見ていた。
自分の小ささを痛感するばかり。
そういや襟足の男の子もよく見れば聡明な顔立ちをしていらっしゃった。
鉄骨渡りの女の子の眼差しは若き日の孫正義を彷彿とさせた。
抱えられた赤子はなんかもう光ってた。
母とは本当にすごい。
子育ては本っっっ当に大変だと聞きます。
生後1年はまともに眠れなかったり、幼稚園や学校の各種手続き、周囲からの「良き母」を期待されるプレッシャー、様々な人間関係の軋轢。
数え上げたらキリが無いです。
近年は金銭的な意味では無い「育てられる自信が無い」という理由で子どもを持たない選択をする夫婦が増えているとも聞きます。
僕も自信が無いです。
自分が立派な一人前の大人ではないのに、1人の人間を育て上げるなんて想像もつかないです。
そんな中、彼女は違った。
今まさに僕の目の前で、たった1人で4人の人間を育て生きている。
大地を踏み締め、力強くハンドルを握り、両の眼でしっかりと明日を見据えている。
この少子化の時代にたった1人で立ち向かう戦国武将のような出で立ち。
涙がボロボロ溢れていた。
真の強者とは彼女のことを言うのだろう。
僕はその場でうずくまって彼女らの幸せを祈ることしか出来なかった。
きっと子ども達は健やかに育つだろう。
人を慈しみ、他者を思いやり、それでいてたくましい大人になるだろう。
だって彼女の子どもなのだから。
ようやく泣き止んだ僕は彼女が通ったタイヤ痕にそっと口づけをした。
世界の見え方が180度変わった僕は今までに無い晴れやかな気持ちになっていた。
今すぐこの気持ちを伝えたくて近くの交番に入った。
そしてそこにいた警察官にこう言った。
「なんか5人乗りしてる自転車がいて危ないんで捕まえてください」
僕はさらに晴れやかな気持ちになった。
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