【LGBTが誇れる社会になれてこそ一流国 家】

                                                                  東クリニック院長 東 哲徳
「私たちの旅は、ゲイの仲間たち、そしてレスビアンの仲間たちが他のあらゆる人と平等に扱われるようになって初めて完全なものとなるのです。というのは、もし人間が真に平等に創られているのなら、互いに誓い合う愛も、必ず平等でなければならないからです。」これは、オバマ前米国大統領が2期目の就任演説に述べた内容の一部です。国家元首がここまで踏み込んだスピーチを述べたことがあったでしょうか。答えは「ノー」です。日本の政治家がLGBTの人たちを本気になって彼らの環境に思いやりの手を差しのべたことがあったでしょうか。残念ながら極めて少ないといわねばなりません。
私の好きなラテン歌手にYOSHIRO広石(よしろう・ひろいし)さんという人がいます。日本国内よりも世界の国々、特に中南米では有名な歌手です。キューバでは、オマーラ・ポルトオンドさんという日本の歌手に例えれば、美空ひばりクラスの歌手と共演されたり、ステージ、ラジオ、テレビで一世を風靡されました。よしろうさんは私が医者になりたての頃に中野のシャンソニエで歌っており、たちまち彼の歌に酔いしれファンになりました。海外や日本でライブやコンサートを行っており、オマーラさんをゲストに迎えた東京での公演は、サルサやラテンのダンスと歌に酔いしびれた客席の多くの人が狂乱状態になっていました。最近、よしろうさんは自分のこれまでの生きざまを一冊の本に著しており、偶然見つけた友人が私に送ってきました。結構分厚い本ですが、私と共通する時代背景があり、私の知る多くのポピュラー、ラテン、シャンソン歌手の名前が多々書かれており、懐かしさと嬉しさと共に一気に読んでしまいました。よしろ
う広石さんの情熱に、苦しみに、そして愛にあふれた歌の数々の源泉はどこにあるのだろうかと思っていましたが、この著書で全ての疑問が解けました。よしろうさんは小学校時代から自己の性のアイデンティティに悩み続けていたのです。当時、いろんな本を読み、自分はこの世に存在してはいけないような言葉の数々に愕然として死をも考えたこともありました。このトラウマは生涯よしろうさんを悩ませることになりました。しかし、当時の文献はすべてが誤りであり、医学・心理学の専門家でさえも何の証明もないまま、マイノリティの人々の存在を否定し悪と決めつけていたのです。よしろうさんの歌の源泉はまさに性的マイノリティゆえの繊細さ、情熱、愛が他人に無い武器となって多くの人に歌の喜びと価値を与えるようになったのです。よしろうさんは今年80才を超えるお年になりました。しかし、その情熱は昔と何ら変わることはなく今後も歌の旅を続けることでしょう。彼はLGBTで相談に来られる親に対し「あなたの息子さんや娘さんは、そのように生まれてきたのです。しかもあなたが生んだのですよ。子どもの幸せを願うのであれば受け入れるべきではないでしょうか。息子さんは変われないのです。」
そしてLGBTで悩んでいる子どもにはこう言っています。「もしいじめなどで悩んでいるときは、暫く学校を休んでみるのもいいでしょう。または、あなたに合った自由な学校もあるでしょう。許されるのなら海外にももっと目を向けましょう。あなたの力が生かせる国がきっときっとあるはずです。」
現在、日本では多くのLGBT の人たちが種々の分野で大変活躍されています。日本のエネルギーとなっている人もいます。彼らの多くもよしろうさんと同様な辛い過去を経験しています。私はLGBTの人たちに同情は全く必要ないと思っています。同情する程の資格や器量は私には無いからです。理解と共感と受容こそが必要だと思います。真の共感は思いやりに通じてきます。オバマ前米国大統領の演説にあった内容に近くなれば、それこそ一流国家といえるでしょう。

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