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奇妙な晩餐会

「珍しい食材が手に入ったのだけど、食べに来ない?」
ライターの鈴木は、ある日メッセージを受け取った。
差出人は以前知り合った富裕層の女性だ。
お金と暇を持て余した人種なので、唐突にこういったメールを送ってくる。
そして、大抵はロクなことがない。

嫌な予感がしたが招かれることにした。
「面白そうなことにはなるべく顔を突っ込め」
職場の先輩の教えに従ったのだ。
そして、鈴木は給料前で金欠だった。
零細の出版社というのは恐ろしく給料が低いのである。
そして、奨学金と軽自動車のローンが彼の生活を蝕んでいた。

「いらっしゃい」
豪華なテーブルに招かれると、スプーンとナイフがセットされていた。
準備は万端のようだ。

まずは深皿に入ったスープが運ばれてきた。
中華風のとろみが付いたスープだ。
キクラゲやフカヒレといった高級食材が見える。
一体いくらするのか頭の中で考えてしまう。
高いのは確かだ。

「ホントは順番に出したいんだけど、まとめて並べちゃうね」
お腹が空いているので鈴木は内心喜んだ。
ゆっくり運ばれてくるコース料理は空腹時には煩わしい。

次は鉄板に載ったステーキが運ばれてきた。
鉄皿がジュージューと音を立てている。
サイズは300gはあるだろう。
ファミレスだったら一番値段の張るサイズだ。
こうして机にはスープと厚切りのステーキが並んだ。

「いただきます」
まずはスープに手をつけた。
見た目の通り、中華風のフカヒレスープだ。
口に入れても特に違和感は感じない。
塩気と海鮮のバランスが良くて美味しい。

次はステーキへ手を伸ばした。
見た目からして牛や豚の肉ではない、赤みの強い肉だ。
一口食べて確信した。
「これは熊肉ですね」
鈴木は以前、ジビエ料理の店に上司に連れて行かれた事があった。
見た目や味の癖にも覚えがあった。
しかし、珍しい食材と言っても庶民の手に入らないものではない。

「正解だけど、90点かな」
首を横に振りながら、満足そうに笑みを浮かべた。
「こっちのフカヒレの元になったのはアオザメ」
「こっちのステーキはヒグマ」
彼女は2つの料理に指を差して呟いた。

鈴木は2つの生物の共通点を考えた。
嫌な予感がしたが、一般に流通している食材には変わりない。
「もしかして人を襲う……?」

「そう、両方とも人間を食べた個体なの」


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