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【書評】夏なので町田洋作品ついて語りたい

最近、町田洋作品にハマっている。
Discordのマンガコミュニティでオススメされるまで、名前すら知らなかったが『夜とコンクリート』を読んでから、世界観に魅了されてしまった。
ちなみに現在発売されてる単行本は

  1. 惑星9の休日

  2. 夜とコンクリート

  3. 日食ステレオサウンド

  4. 砂の都

の4冊である。
集めやすいので少しでも興味を持ったら読んで欲しい。
(砂の都はまだ買ってない)

1冊読んで「良いな」と思えば、他も買って損はない。
自分は毎月1冊集めるつもりだったが、1週間で3冊買った。

1.魅力について

まずは特徴的な画風。
真鍋博(星新一の挿絵)のような、フリーハンドで描かれた直線とパースのない絵が特徴的。
余白が多いせいか、スカスカした印象も受けるのだが、話の雰囲気には合っている。

惑星9の休日

惑星の描き方や建物の感じは、星新一の挿絵そのもの。
内容もSF要素が多いので、この人に『午後の恐竜』をコミカライズして欲しいと思う。
絶対ハマるはずだ。

次にストーリー。
不思議な世界で淡々と進む話が多い。
異世界の日常と言った感じで、異なる文化圏のパラレルワールドを見ている気持ちになれる。
夏を舞台にした話が多いのも特徴で、読後感が爽やかなのが良い。
個人的には村上春樹の短編に似た雰囲気を感じる話が多かった。
強烈なインパクトはないが、何度か読み返したくなるタイプの話と言えば良いのだろうか。

2.好きな短編紹介

魅力を総括的に説明するのは苦手なので、オススメの話と好きなポイントを解説していく。
ネタバレも含むので、読了した人に読んで欲しい。
ただ、ミステリーと違ってオチを知っても楽しめる話が多い。

1.惑星9の休日

全編描き下しのデビュー作。
デビュー作なのに作風が完成されているのがスゴイ。
収録された8つの短編は、どれも印象的。

中でも表題作の『惑星9の休日』はタイトルに相応しい清涼感がある。

惑星9の休日

好きな人に会うために、消耗した電池と交換するシーン。
ちょっとした描写なのだが、少女の一途な感情が話に起伏を生んでいる。
そして、これがラストの会話に効いてくる。
まぁ「尊い」の一言しか浮かばない。

2.それはどこかへ行った

『惑星9の休日』に収録。
冴えない研究者と未亡人の恋。
フレッシュな主人公と、冷めた感じのヒロインの関係が良い。
冷めた関係が徐々に氷解していく展開はベタだけど熱くなる。

それはどこかへ行った

この作品、途中で彫刻のアートが出てくるのだが、キース・ヘリングそのもので笑ってしまった。

それはどこかへ行った

そして、この彫刻作品がラストに活きてくる。
見開き1ページを読んだとき、見事にしてやられたと思った。
不意に見せるヒロインの笑顔もズルい。

3.日食ステレオサウンド

電子書籍限定で165円。紙の本は発売されていない。
作者が生活できるのか心配になる値段。
短編なのに話の短さを感じさせないところに腕の良さを感じる。

絵描きの青年と、人間嫌いの作家の話。
この話も舞台は夏。
登場人物は数人程度で48頁しかない短編なのだが、満足感は高い。

個人的には、屋上で日食を観ながら過去を思い出すシーンが気に入っている。
悪魔と契約する前は普通に生活できていたことを回想する老人。
過去と現代が一瞬に重なる場面にグッと来る。
あとは、鰐が消えるシーン。

日食ステレオサウンド

徐々にカメラを引いていくところが映画的で美しい。
窓枠の影から人の影だけ消えるところも演出として良い。

4.夏休みの町

『夜とコンクリート』に収録。
大学生のひと夏の思い出。
大学生3人組と別世界から来た老人が登場人物。

夏休みの町

入道雲と墜落した戦闘機の一枚絵が最高にエモい。
フランスの戦闘機という設定なので、多分『星の王子さま』のサンテグジュペリを意識していると思う。
『紅の豚』っぽい雰囲気もある。

夏休みの町

無為に過ごす大学生の夏休みの描写は懐かしくて涙が出てくる。
確かに大学は無駄に休みが多かった。(私文)
そういった雰囲気を切り抜くのがとても上手い。
短いが、3人の関係性が伝わってくるシーンも多く、ラストに余韻を与える下地となっている。

夏休みの町

最後の数頁はとても良い。
社会に出て数年が経った人間が読めば深みは倍増するはずだ。
自分も夏休みの町へ行きたくなった。(願望)

5.青いサイダー

『夜とコンクリート』に収録。
少女が中年男と出会うことによって価値観が変わる話。
中年男は日中働きもせず、団地の屋上に座っており、完全な不審者(笑)
少女は学校に馴染めず、自分の中にシマさんというイマジナリーフレンドを持っている。

青いサイダー
青いサイダー

2人は似た部分があり、会話の中で互いの孤独を埋め合う所が良い。
屋上では親子のような友人のような会話が続く。
この関係性は、映画『レオン』のレオンとマチルダに似ているかもしれない。
大人になりきれない大人と、大人の世界が知りたい子どもの物語は刺さるものがある。

青いサイダー

そうだ 大人になれば どこへでも行ける
私は恐れずに大人になろう

青いサイダー

大人になれば自由に色々なところへ行けることを忘れていた。
大人になると子供が自由に見えるけど、学校や家族といった制約は多い。
自分はとうに大人と呼ばれる年齢になったが、恐れずに大人になりたいと思った。
この話は読み返すたびに良さが分かってくる。
是非とも夏が終わる前に読んで欲しい。


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