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最高の男

正月早々、私と私の同僚にご挨拶に来て下さる方がいる。もう何年もになる。社会も政治もふにゃふにゃで、えらい人が責任逃ればっかりしている最近の世の中で、昭和のいいところだけをぎゅっと集めたみたいな、とにかく最高のおじさんだ。15分ぐらい喋ってさっと帰っていく。お年賀の熨斗のかかった、小さな菓子折りを置いて。

工業高校卒の叩き上げで、あんな大企業のえらい人には普通なれないと思うので、彼の能力たるや推して知るべしだろう。(いまだに)バブル時代のまじめなサラリーマン、みたいなテイストのださめのスーツをちゃんと着ているけど、背は高くて迫力があり、昔(おそらくはかなり)やんちゃだった頃の片鱗がたまに表情に出るところが大好きだ。義理と人情の人だが、暑苦しいところや押し付けがましいところはひとつもない(義理と人情を前面に出す人は、だいたい義理と人情のギブ&テイクをこちらに強要してくる)。

「コロナでどうしてはりましたか、お仕事だいじょうぶでしたか。うちもオリンピック関連はいろいろなくなりましたけど、一緒に仕事させてもらってるところが困ってないかどうか見に行ったり、仕事してもらったり、休めへん現場には差し入れ行ったり、また新しい仕事をつくったりで、おかげさまで忙しくさせてもろてますわ。社員はみんな在宅ですけど私ひとり出社して普通に仕事させてもろてます。風邪てひきませんねぇ。あ、アクリル板でもなんでも相談してくださいよ。ちいさいことやからってそんな遠慮せんと。出張費なんかとりません、呼んでもろたらいつでも来させてもらいますし。東大阪の工場さんもみな挨拶回りしてきましたよ。ほなもう飛行機で東京帰りますわ。仕事は作るもんですからね、ほんまにいつでも呼んでくださいよ。」

自分と周りの仲間、ご縁のある人たちが一緒に儲かって、みんながいい仕事ができるように。なんてすがすがしく、はっきりしているんだろうと思う。大きい会社の仕事は、小さい会社や取引先の面倒も見てあげてるってことなんだな、それが器の大きさなんだなと思った。これぞ男気というやつだ。

彼とご縁ができたのは、同僚のおかげだ。同僚のパートナーが、15年ほど前に彼と大きな仕事をすることがあった。妙に気があって、仕事が終わってからも長くお付き合いが続いたらしい。しかし、運命は残酷なのだけれど、その同僚のパートナーは何年か前の年末、若くして急にあの世に行ってしまった。

その後私は、亡くなったその人の仕事の続きのようなものをひょんなかたちで手がけることになり、彼に連絡した。彼はすぐに飛んできてくれて、まるでその人が生きているみたいに、大企業にしては大した儲けにもならないのに、心のこもった仕事をしてくれた。現場が始まるとすぐにジャケットを脱いで力仕事を一緒に始めちゃうところなんか、最高だった。それ以来、彼は年始に同僚と私を訪ねて来てくれる。

「年末は悲しい思い出が多いから、明るく年始に来ようと決めてるんですわ」

何かまたご一緒させてもらいたい。よっしゃおもろいことやりましょう、まかしといてください、そんな言葉がまた聞きたい。そして、それにこたえる仕事がしたい。

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