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【AIRY】甲府中心部、山梨最初のアーティスト・イン・レジデンス

 note150回目の記事となる今回は、ふとした縁から代表とお知り合いになり、訪ねたアーティスト・イン・レジデンス(AIR)を紹介します。

はじめに

 甲府の中心部にある小学校の向かいに昭和時代の面影を残す白い3階建てのビルディングがあります。
 このビルディングに「AIRY(エアリー)」(アーティスト・イン・レジデンス山梨)はあります。主に海外のアーティストに滞在型で創作の機会と場所を提供する事業(プログラム)を行っています。また、民間による芸術、文化の発信拠点の機能も担っています。

AIRYへ誘う看板

アーティスト・イン・レジデンス

 アーティスト・イン・レジデンス(AIR)とは、アーティストが一定期間滞在して普段とは違う環境で創作活動を行うことです。また、そうした創作活動の支援事業のことも、アーティスト・イン・レジデンスといいます。近年、広く知られるとともに、増えてきました。全国的にアーティスト・イン・レジデンスの担い手には公的な機関が多いといいます。
 山梨で最初のアーティスト・イン・レジデンスは、このAIRYです。代表の坂本泉氏は海外での滞在経験のある美術家で山梨県内のアート事業にも数多く関わる人物です。また、映画文化にも造詣が深く「やまなし短編映画祭」の実行委員をされるなど活動範囲は多岐に渡ります。

壁画があります

 AIRY公式サイトがありますので、ぜひご覧ください。

 筆者は映画に関する縁で坂本氏と会う機会を得て、AIRYを訪問したいと思っていました。そして個展の開催に合わせてふらりとAIRYへ出掛けたのでした。個展はAIRYでインターンやスタッフを務め、近々ドイツへ渡る大方岳氏のもので、大方岳個展「天気雨を待つ/Waiting for a Sunshower」(2024.3.8~3.10)でした。

大方岳個展「天気雨を待つ」

 当初は個展を鑑賞するだけのつもりでした。しかし、筆者のnoteも知っておられた坂本氏のご厚意により、アーティスト・イン・レジデンスやこの建物とAIRYを始めたことなどお話しいただいたことで本稿にて紹介することにいたしました。

甲府の中心部

 AIRYがあるのは甲府駅まで徒歩で10分ほどの甲府市内の中心部です。この辺りは甲府城の外堀に位置する辺りで、古くからの城下町に当たります。一方通行の道路の向かいには舞鶴小学校(人口減少により春日小、穴切小、相生小を統合)があります。

左の白いビルがAIRY

 向かいの白いビルディングは1964年(昭和44年)開業の産婦人科の医院でした。1999年(平成11年)に閉院しています。その前の1986年(昭和61年)からすでに入院室だった2,3階を改装してアパートとして貸していたそうです。閉院後は診察室だった1階部分もアパートに改装して貸していました。
 一方、坂本氏は2005年(平成17年)から甲府市内で山梨で初のアーティスト・イン・レジデンスを始めていました。古民家などを利用していたようですが、2009年(平成21年)からは入居者が次第に減ったこの病院跡を改装して、AIRYにしたといいます。
 現在、1階部分は一般の方が入居しており、2階と3階がAIRYになっています。

医院と分かれば納得の外観

 坂本氏がAIRYを始めたきっかけは茨城県守谷市のアーカスプロジェクト(茨城県主催)のアーティスト・イン・レジデンスを知ったことだったといいます。ほかに秋吉台国際芸術村(山口県)のアーティスト・イン・レジデンスも有名とのことですが、いずれも公的な機関によるものです。
 一方で、山梨で初となるアーティスト・イン・レジデンスはAIRYで民間によるものでした。AIRYは、2020年(令和2年)までの15年間で35カ国165人のアーティストを迎えたといいます。

1階は診察室の名残り

Hospital(病院)からHospitality(寛容)

 AIRYへ入るには外階段から2階へ上がりますが、途中に並ぶアパートの名残りであろう郵便受けに「Hospital→Hospitality」とあります。これは、AIRYで最初の個展であった坂本氏の「HospitalからHospitality」のテーマであるとともににAIRYのコンセプトだといいます。Hospitalityは接遇とかおもてなしと訳されますが、ここでは「寛容」であるといいます。

「Hospital→Hospitality」
滞在アーティストさんが残していった作品

 AIRYとしては、2階部分が創作とギャラリーのスペースで3階が3部屋の滞在空間になっています。1階は今もアパートで一般の方が住んでおられます。

AIRYの間取り 出典 : 『"WE breathe AIR" 10周年記念誌』
入口は外階段から

 知らないと少々分かりにくい外階段から2階へ進むと、壁にはいっぱいポスターやチラシが貼ってあって、まるで文化部の部室の廊下のようです。

都市ガスのメーターなどが残る廊下

 創作スタジオ兼ギャラリーは、奥で2部屋分の壁を取り払って1部屋にしたところです。個展のほか、演劇、ライブなども開催されます。

入口の扉が2つあります。
2階のスタジオ/ギャラリーにて、ピアノと似顔絵の坂本泉氏
大方岳個展「天気雨を待つ」

 3階はアーティストが滞在のためになっており3部屋あります。

居住区画の3階への階段
3階のベランダの壁も作品

歩み続ける

 AIRYの活動の10年、15年の歩みごとの記念誌には、これまで滞在したアーティストたちの姿と作品が記録されています。つい2月には元日の能登地震で被災した輪島の工芸家が滞在していたそうです。

10周年(2015年)、15周年(2020年)記念誌

 2020年新型コロナウイルスの感染拡大は、外国人の入国が制限されることになりアーティスト・オブ・レジデンスも帰路に立たされました。そんな中で、「かいぶつくんプロジェクト」という甲府の街中を歩いて落書きをする参加型巡回アート企画が行われています。その中心的立場だったのが個展の大方岳氏でした。

「かいぶつくん」プロジェクトの記録誌

 また、2018年になりますが、甲府にも廃業した銭湯が何件もあります。そうしたところでアートイベント場にする活動も行われました。銭湯も人が集う場所としての価値の高さを感じるということでしょう。
 2022年には空き家や街中の廃業したぶどう園を使ったアート展なども行っていました。
 筆者的にもたいへん興味のひかれる場所がいくつも登場しています。

銭湯アートのポップを発見

おわりに

 ARIYについて紹介いたしました。滞在したアーティストなど活動の詳細はAIRYのホームページをご覧ください。
 それにしても、個人でこれだけの活動を始める行動力と熱量には驚きました。
 ふと、甲斐は長らく幕府の直轄領であったため士族の力は弱く、官ではなく民が始めるという気風が強かった。という小林一三の話を思い出しました。甲州財閥と呼ばれた経済人はみな民間です。芸術でも山梨で最初の美術館は昭和49年に個人が始めたものでした。
 坂本氏は甲府で育ったと伺っています。現在山梨にあるアーティスト・イン・レジデンスは3件、いずれも個人や一般の法人です。民間主導の山梨の気風は、現代の芸術にもあるのではないかと思うものです。

ぜひまた訪れたい

参考文献
AIRY編『"WE breathe AIR" AIRY 10th Anniversary Catalogue 10周年記念誌』AIRY、2015
AIRY編『WE are Landscape 私たちが風景です AIRY 15th Anniversary Catalogue 10周年記念誌』AIRY、2020

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