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盲導犬エルとの日常〜2ヶ月


盲導犬のエルが我が家に来てもうすぐ3カ月になる。残しておきたい家での様子をいくつか書いておきたい。盲導犬はハーネスを外すと「お仕事モード」から「リラックスモード」になる。家では「入っていい場所」を自由に歩き回ることも多い。ただ、リラックスモードと言ってもペットではないので、盲導犬として外でやってはだめなことは、家でもやらないようにルールを決めて家族みんなで教えている。

まず、私とエルの関係が変わってきたと実感したエピソードから。うちに来た当初は、私が怖がっているのが伝わっていたようで、恐る恐る撫でても

「どうぞ触ってくださいな」

とおとなしくしていた。頭から尻尾まで大きさを確かめるように撫でたり、横向きで寝ているときはお腹を触ったりと、エルを撫でる時間が増えていった。あれだけ動物が怖かったのに、一緒に過ごすうちに心からエルをかわいいと思えるようになってきた。エルがどんな動きをするのか予想できるようになったのも怖さを取り除けた理由の一つかもしれない。今では私もすっかり慣れて、背中に抱きつけるまでになった。濡れた鼻が当たっても、以前なら大声を出して飛びのいていたのに、全く気にならなくなった。その頃から、エルも私に近づいてくれることが増えてきた。私もエルを受け入れ、エルも私を受け入れてくれて嬉しい。

ある日のこと。夫と仕事から帰ってきたエルに

「エルちゃーん!おかえりぃ!」

声をかけ、来るぞ来るぞと思いながら、手を出してフワフワで暖かい感触が触れるのを待っていた。テクテク歩いてきて、さぁ触ろうと思ったら…。スーッと私の横を通り過ぎて娘に向かって行ってしまった。あれ…ママは…。私の片思いだったのかな。

こんなエピソードもあった。ケージの中に娘が小さいときに使っていた毛布を敷いている。大きさもぴったりで、残しておいてよかった。定期的に洗濯しているのだが、ネットに入れる前に娘にコロコロで毛を取ってもらっている。その日もリビングにエルがいるタイミングで毛布をケージから出した。娘にコロコロを頼むと…。

「これ、お〜れの!」

エルが毛布に乗ってきた。

「エル、今からこれ洗濯するからね」

声をかけると「よっこらしょ」とゆっくり毛布の上に横になってしまった。それからはエルと夫が出かけているときに毛布の洗濯をしている。

フワフワといえば、こんなこともあった。リビングの隣の和室で夫が羽毛布団をかけて横になっていた。エルが夫の寝ている部屋に入ったかと思ったら羽毛布団の上に乗ってしまったのだ。

「エル、ここは乗ったらあかんよ」

すぐに声をかけたのだが、しっかり布団の上に立っていた。羽毛布団には毛布のようなフワフワのカバーをかけていた。エルをおろそうと思った瞬間

「なんやこれ!フワフワやぞ。俺の毛布みたいや」

と言わんばかりに、どーんと寝てしまったのだ。

「えー!ちょっと、エル」

声をかけても

「フワフワや!最高やなこれ」

全然動いてくれない。夫に

「エルが布団の上で寝てる。動かして」

声をかけると、夫は布団から這い出して

「エル、ここは布団やから乗るのはだめ」

と言葉で伝えながら、エルに立つように促していた。それ以降、夫が横になっているときは和室のふすまを閉めている。エルの様子を見ていると、リビングでゆっくり寝ていることもあれば、ぼんやり立って外を見ていることもある。かと思えば忙しそうにクンクン床の臭いを嗅いでいたりする。私が
「エルちゃん、どうしたん、犬みたいなことして」
声をかけても

「今ちょっと忙しいねん」

と全く相手にしてくれないこともある。いろんな様子を見せてくれて、
我が家にすっかりなじんでくれている。エルと一緒に暮らすようになって、もう一人子供がいるような気持ちになっている。やってはいけないことを言葉で伝え教えると同時に、入ってはだめな場所などは扉を閉めたりと工夫して対策する。娘が赤ちゃんだった頃も同じことをしていたなと懐かしく思い出している。

盲導犬としてももちろんちゃんと仕事をしている。盲導犬になって半月ほどで、夫と大阪まで日帰りし、11月には初めての出張で大阪のホテルに二泊していた。夫がハーネスを持ってくると尻尾を振って

「早く行きましょ!」

と自分からハーネスに頭を入れている。たくさん「グッド」と言われて楽しそうに出発していく二人は頼もしい。家族でも少しずつ出かけたり外食できればと思う。
もうすっかり我が家の長男としてなじんでいるエルなのだった。

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