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1bitの会話

 2024年3月31日 午後21時、アーマード・コア ヴァーディクトデイ(以下ACVD)のオンラインサービスが終了した。

 私は"終戦"の一時間半ほど前からログインし、その最期を映像に残すべくYouTubeにて配信を始めた。
 同じようなことを考えた傭兵は大勢いたようで、この日の配信者数は(それまでの普段と比べれば)相当に多かった。

 右下の方にいる、この記事と同じく味気ないサムネが私のチャンネルである。ここに映る他の配信者も、配信中に敵味方で何人かマッチングした。


 ACVDにおけるオンライン対戦「勢力戦」は、最大で4機vs4機(+各チームにオペレータ1名)で行われる。だが私は、この4機を上手く考えて戦略を練ることができるほど編成に関して熟練している訳ではない。
 なので野良の「傭兵」として登録し、他のチームに雇われて出撃するのが日常であった。それはサービス最終日でも変わらず、雇われやすそうな機体を選んで登録。幸い最終日ということで動いているプレイヤーも多く、さして待たずに雇ってもらえた。

 勢力戦では、同じチーム内ならテキストチャットを使った対戦中の意思疎通ができる。あらかじめ設定で組んだ固定チャットから選ぶか、その場で入力して送信することである程度の情報をやり取りする。
 今日の対戦ゲームではDiscordなどでボイスチャットしながら連携を取るのが普通だが、そういう環境が無くとも最低限のコミュニケーションは可能となっている訳だ。

 だが傭兵で雇われた場合はその限りではない。ゲーム内チャットは傭兵-雇用主では互いに届かないシステムのため、対戦中の連携に制約がかかる。
 顔見知り相手なら傭兵であってもDiscordを繋いだりするようだが、見知らぬ雇用主とマッチングすることの方が断然多い。必然、傭兵として雇われたプレイヤーはコミュニケーション手段が限られる。


 そんな傭兵であっても対戦中に使える、その限られたコミュニケーション手段のひとつが(デフォルト操作なら)十字キー左で放つことのできる「ブザー」、通称「ピコン」である。

 文字通り「ピコン」と音が鳴るだけ。だがそれなりの経験を積んだ傭兵と雇用主は、ピコンの打ち方と戦況からあらゆる意図を汲み取ってコミュニケーションを可能とする。
 参考までに自分が知る"語彙"を挙げてみると、

  • よろしくお願いします

  • ありがとうございました

  • 突撃します (≒ついてきてください)

  • 狙撃砲スナイパーキャノンを捨てました (≒砲台の破壊が終わったので移動できます or 敵が近いので砲台の破壊を諦めます)

  • 助けてください (≒自分にとって不利な敵に襲われています)

  • 集まってください (≒自分の方に敵がいます、etc)

…くらいは使った記憶がある。


 もちろん敵味方の機体やその特性・使用武器を把握したり、そのとき見えている光景からあり得る状況などを想像することが前提の解釈である。それに突撃やヘルプ要請といった状況ではピコンを連打したりもするため、実際には別に1bitだけでやり取りしているという訳ではない。

 だが、たった一つのただの効果音であっても、傭兵たちにとっては間違いなく「言葉」であり「会話」なのである。どんな言葉よりもこの音の方が、傭兵たちの生き様を雄弁に語ってくれるのだ。


 別にオンラインサービスが終了したからといって、このゲーム自体が消滅する訳ではない。ハードコアモードやUNACのような要素もあればRTAのような楽しみ方もあるだろうし、ネットワーク越しのフリー対戦はサーバーに影響されないのでまだ生きている。
 これからも細々とコミュニティは続いていくだろうし、声をかければちょっとした対戦会くらいならできる人数は集まるだろう。

 なにより、今はもうルビコン3という新たな戦場があるのだ。ACVDの全てをAC6が引き継いでくれる訳ではないが、ACの新作が世に送り出されたことは素直に喜んでいいだろう。
 ダークソウルシリーズだってリマスターが出たのだから、ACシリーズにだってその可能性はあるかもしれない。もう「ACの新作」ミームとして擦られ続けたアーマード・コアではないのだ。
 ACVDは良くも悪くもシリーズ内で唯一無二のゲーム性を持っている。リメイクや移植といった未来の可能性に期待しつつ、たまにPS3を起動して昔を懐かしむくらいがもしかしたらちょうどいいのかもしれない。


 ACVDのストーリー冒頭で、作中の登場キャラ「ファットマン」が語る言葉がある。曰く『明日は雨らしい、辞めるのは晴れた日って決めてる』。
 この日2024年3月31日は全国的に晴れであり、偶然の一致がX(Twitter)でも話題にされていた。

 傭兵たちが見た実際の空は、あるいは想像した空がどんなものだったのかは知らない。

 だが戦場の空は多分きっと、雲一つないダークブルーの空だったんじゃないかと思う。私はなんとなくそんな気がするのだ。



公開 : 2024-04-01
最終更新 : 2024-04-01

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