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DSDsの話.3-性別とは性染色体なのか-

はじめに

DSDs当事者としてのお話もいくつか記事を書けたらいいな、と思っています。本記事は全文無料にて公開しておりますが、何かしら参考になりましたらご支援頂けると助かります。

性別決定の基本とは

 自身の身体性別を否定する根拠として、性染色体に何らかの異常があることを願うトランスジェンダーの方は実在しているらしい。最近そのような趣旨のツイートを実際に見かけたため、この記事を書くに至っている。そもそもDSDsとは特殊性別などではなく、男女に起こる身体疾患の総称である。そのため多くの方が何らかの身体症状に苦しんでおり、時に服薬が必要であり、一部の疾患では命に関わる事態にも直面する。DSDsの告知を苦にした自死の危険性も性被害に匹敵する程には高いものだが、ここでは精神状態ではなく身体状態が命に関わる、という話をしている。ターナー症候群にも糖尿病など多くの合併症が存在しており、苦しんでいる方も多い。もちろんそれらの不都合な面を引き受けてなお、性染色体を根拠に自身の身体性別を否定したい方もおられるのだろう。だが、そのような方はDSDsについて何か誤解をしている。そもそも、性染色体そのものを身体の性別として捉えることは実態に即しているのだろうか。
 先に結論を述べるのであれば、性別とは胎児期における男性化プロセス全体のことであり、あるいはその結果として現れるさまざまな身体構造の違いのことであると考えている。性染色体といういかにも性別に特化していそうな名前が付されているが、X染色体については生存に欠かせない遺伝子も数多く存在しており、性別決定専門の染色体というわけではない。例えば、身長の伸びや免疫に関する遺伝子も入っている。その中の一つとして、長腕部の遺伝子が卵巣の形成についても担っているに過ぎないのだ。X染色体は女性の証というわけではなく、これは男性にも存在することからも明らかであろう。一方でY染色体は精巣決定遺伝子以外はジャンク情報ばかり、とも言われているが身長に関する遺伝子はX染色体と同じく含まれており、Y染色体とて性腺を精巣に決定する役割を主に担っているだけに過ぎない。性腺の種類が身体の性別決定について重要な要素の一つであることに間違いはないのだが、それだけで決まるというわけでもない。性腺が精巣になったところで、必ずしも男性の身体になるとは限らないのだ。男性の身体になるには①精巣が作られ②その精巣からアンドロゲンが産生され③そのアンドロゲンに対して身体が反応する、という3つのプロセスを経なければならず、単に精巣があるだけでは、あるいはその精巣でアンドロゲンを産生しているだけでは、男性の身体にはならない。体内では使われなかったテストステロンについて、エストロゲンへの変換も行われている産生されたアンドロゲンを身体が利用できて初めて、男性の身体を得るに至るのである。そしてヒトにおいてはこの男性化プロセスを経なかった、あるいは上手く機能しなかった個体について、その全てが女性として出生することになる。これがDSDsであっても中性、無性、両性の身体が存在しない理由であり、身体性別グラデーションが不適当な理由である。かくしてヒトは、必ず男女どちらかで生まれるのである。

性染色体異常は性別異常なのか

 性染色体に異常があることで身体の性別を否定できる、という考え方は、身体が病気であって欲しいと願うことが患者に対して失礼であるか否かという話以前に、全く実態に即していない。ターナー症候群である私のようにXが1本少なかろうと、あるいはAIS女性のようにY染色体を持っていようと、DSDs女性の身体性別を否定する根拠とはならないのだ。Y染色体を持っていても、生まれつきアンドロゲンに反応しないなどの理由で身体が女性なのであれば、その方は女性である。例えその方がトランスジェンダーであろうとも、失礼を承知で身体性別に言及するのであれば単なる女性でしかない。AISを持つFtMの方であっても、46XYという核型を理由に身体自体が女性であることを否定できる、あるいは男性としての部分を持つ証拠にできる、というわけではないのだ。アンドロゲンに不応な身体をどのようにして男性へと性別移行させるかはさておき、性染色体がXYだから私の身体は生まれつき女じゃないんだ、という話にはならず、ましてやそれがトランスジェンダーとなった原因であろうはずもない。AISを持つ女性とてトランスしなければ男性になれるわけではなく、AISの場合では男性ホルモンが効かないことが女性である理由なのだから、男性ホルモン注射も効果を発揮することは難しいだろう。このことはAISが男性である証左として機能するどころか、男性へのトランスを致命的に困難なものにすることさえ予想される。46XYという核型も当然、男性ホルモンに反応しない体質のため女性に生まれた、という身体性別の事実を否定する根拠にはなり得ない、というのが実情と言えよう。
 また、性染色体異常を持つDSDs女性の核型には45X0の他に47XXXもあり、こちらは気付かれないケースが多い。47XXXについては何がスーパーというわけでもないのだが、スーパー女性と呼ばれていたりもする。このように47XXXに過剰な女性性を投影し、45X0や46XYに中性、あるいは男性性を投影することは偏見に他ならないのである。この一文についてはDSDs女性についてのみ話をしているのであり、46XYについてトランスジェンダー女性をめぐる論争には一切何も触れていないことは注記しておきたい。

外性器の形成に必要なもの

 最後に外性器の形成について述べておく。男性の外性器を形成するにはテストステロンを進化させたジヒドロテストステロンが必要になる。男性外性器の形成はテストステロンが担うものではない、ということは男性に起こる別の疾患を理解するために重要な情報であった。私はX0だが性腺は卵巣である。したがって男性外性器の形成に十分な量のジヒドロテストステロンなど持ち合わせているはずがないため、当然女性外性器が形成されている。 XY女性についても前述した精巣の形成、アンドロゲンの産生、受容の何処かが上手くいかないことで身体が女性となるため、当然外性器も女性のものとなる。性染色体に異常があれば、女性であっても男性外性器を持つのでは?という考えは両性具有イメージによるものであり、DSDsに対する明らかな偏見であることは伝えておかねばならないだろう。

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