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嘆きのフカヒレ

眠い目をこすり、朝から銀座に行った。電車に揺られて。サロンを予約していたからだ。美には代えがたい。眠くてもめんどくても行くんだ。

そう言い聞かせて、サロンについたら誰もいない。恐る恐るメールを見返すと、予約が完了していなかった。このミスは2回目だ。このサロンの予約システムに不具合があるんじゃなかろうかと、クレーマーめいた思考に陥りかけたが、おそらくは自分の不具合なのだろう。

行き場のない思いをぶつける場所もなく、薄ら雨の銀座を歩く。一時期ガラッガラだったGINZA SIXは訪日外国人で賑わっていた。しかし私は特に買う物がない。今から100万円あげるから使い切れと言われれば欲しいが、言われてない私にとって、別に欲しいものはない。言ってくれる人もいない。

地下に、フカヒレの店「蔭山樓」があった。

2009年創業。東京・自由が丘に本店を構える蔭山健一シェフが手掛けるフカヒレレストランになります。

ウェブサイトより

銀座店はフカヒレに特化した新業態とのことで、少しでも銀座に来た意味を見出すために飛び込んだ。空いていた席が埋まっていき、列ができた。11時半は最高だ。名物っぽいやつを頼んだ。フカヒレっていうか、煮込んだ醤油味の鳥がめっちゃ主張してきたし、隣の中国系のカップルが、地元の母と大音量でビデオ通話しだしてびっくりしたが、銀座に来た意味が誕生した。なぜ大音量でイヤホンなしでビデオ通話をするのか。どうせ言葉がわからないだろう国だからか。自国でもそうなのか。そんな疑問はフカヒレを前にすると消えなくもない。

おとなになると、どうして欲しい物がなくなっていくのか。昔欲しかったものを買えるようになると、さほど必要がないことに気付いてしまう。

欲しいものが欲しい。月1000円のお小遣いで爆裂テンションが上げられたあの頃に戻りたい。行けるときにいきたいところに行き、やりたいことはやりたいうちにやり、食べ放題と飲み放題と歌い放題は若いうちに後悔するくらいやっておくべきだなと思う。一人でケーキバイキングに行くほどの猛者だったけど、今はケーキ3個くらいしか食べられる自信がない。それでも十分食べすぎている。まだ食べ過ぎれることは摩訶不思議なことだが、そこにあまり幸せもない。

後悔がないように今を生き、予約確認をしたあとに家を出よう。


もう108回は同じことを考えたが、改めて強く思った、そんな銀座フカヒレランチだった。

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