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美人画について覚書

ゼロから有は生まれない。
では、新しいもの、オリジナルを作り出すには、どうすれば良いのか。

浮世絵の中でも、吉原の花魁をはじめとする遊女や巷で美しいと評判の女性を描く美人画は、役者絵と並んで長い歴史を持つ。
実在の女性をモデルに、「笠森お仙」だの「おふじ」だの様々な名前の女性が描かれているも、多くの場合、皆同じような顔をしている。


違いは、着物の色や柄、着こなし方くらいだ。
浮世絵の美人画というものは、ヨーロッパの肖像画と異なり、本人の現実の顔立ち、個性を捉えることには、重きをおいていない。描かれているのは、当時の「理想的な美」である、ということを念頭に置いておきたい。

絵師たちは、新たな理想美の「型」を自ら作り、あるいはすでにある「型」を選択して、女性を描く。

この新しい「型」を作り、トレンドを生み出すのはなかなか難しい。
それを成し遂げた代表格が、鈴木春信、鳥居清政、そして喜多川歌麿の三人になる。

鈴木春信は、18世紀に活躍した。
現在、浮世絵と聞いて連想される多色刷りのカラー版画(錦絵)の誕生に大きな役割を果たした。
彼の作品の中でも、特に有名なのが、水茶屋「鍵屋」の茶汲み女で、明和三美人の一人としてうたわれた「笠森お仙」を描いた作品群である。

小さな顔に、スレンダーな体つき。袖や裾からは、折れそうに華奢な手足がのぞく。その姿は雛人形のようである。
お仙自身も、これらの絵で人気となり、彼女を題材にした歌舞伎や狂言が作られた他、鍵屋では数々の「お仙グッズ」まで売られていた。
一種の社会現象である。
同時代の絵師たちも、春信のスタイルを真似た美人画を描いた。
ヒット作が出れば、似た作品が大量に生産されるのは、現在でもよくある話だ。
「似ているけど、少し違うもの」が欲しい。
消費者側の心理は、この一言に集約できよう。
しかし、同じようなものばかりでは飽きる。
時間が経つと、今あるものを一気に塗り替えてしまうようなもの、新しい「流行」が待たれるようになる。

そして、出てくるのが、鳥居清長。

華奢で吹く風に倒れそうな春信の女性に対し、彼の描く女性は、八頭身で、どっしりした存在感がある。「天明のヴィーナス」と呼ばれるのも頷ける。
ここに描かれた品川でのお座敷遊びなど、現実的な背景に、堂々たる女性を複数人並べた作品は、インパクトがあるし、「風俗画」としての性格も持っているとされる。
現代なら、ファッション雑誌の見開きページとも言えようか。

清長は、その後、鳥居派の本領である役者絵の仕事が増え、美人画からは手を引いていく。が、彼のスタイルに多くの追随者が生まれたことは言うまでもない。

そして、彼の後に現れ、新たなトレンドを作り出すのが歌麿である。

彼の行った「革新」について、具体的な話は、9日夜のTwitterスペース『美術こぼれ話』で。



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