見出し画像

Shota Imanaga

昨今のSNSの広まりようはすごく、「実は見てます」「こっそり参考にしています」などと選手の方から声をかけていただく機会もここ数年ずいぶん増えた。かなり好き勝手言ってしまっているので有難いことなのに嬉しいより心配が勝ってしまう。そんなことが増え、最近はこれでも一応多少ブレーキをかけながらポストしている(あれで?などの苦情はご勘弁)。
※そういうのはこっそりでなく堂々とフォローなりコンタクトなりしてくれれば内容とかもうちょいちゃんと書くのに、と思ったりもするが…
ただ唯一、未だに今永昇太のピッチングだけはリミッターなしで悪いと思ったことは悪いと書いている。一目見た時からこの選手は別格だと感じたからだ。勝手すぎる話だが、自然に他よりも遥かに高いレベルを求めてしまう。

てなわけで自分なりに2023年、そしてこれからに向けて今永昇太のピッチングをどう見ているかを話そうと思う。
前回同様、完全に主観のみで語っているのでそれでも構わないという方のみ先に進んでもらえれば。

☆WBC決勝で先発。"今永らしさ"全開のピッチング

WBC決勝で先発を任された今永。この日のピッチングは色んな意味で非常に今永らしかったと感じる。

この日の今永は球質のみを評価する指標「Stuff+」ではWBC出場全投手で最高の値を叩き出した。その数字通り、今永の綺麗で強い回転の4シームには初回からムーキー・ベッツ(ドジャース)やポール・ゴールドシュミット(カージナルス)らシーズンMVP受賞歴のある選手も差し込まれまくっていた。

と同時に、2回には失点のシーンもあった。
トレイ・ターナー(フィリーズ)へのインサイドのカッターが甘くなり、被弾を許した。2死1塁ではティム・アンダーソンに入りで2球連続カーブを選択してヒットを許し1,2塁のピンチに。
ベッツがその後打ち損じ事なきを得たが、この2回表は正直ヒヤヒヤものだった。

私は今永のピッチングに関して、
・4シームは素晴らしく日本でも最高レベル
・変化球の再現度や変化量、コマンドなどに隙が生まれやすく、小さいカッターやスライダー、チェンジアップが定期的に被弾する
・変化球構成が十分でないため必要以上にスイングカウントのカーブも増える
という私見を持っている。その通りすぎる決勝戦になったなと思いながら見ていた。
とはいえあれだけの大舞台で先発となれば緊張もないわけがなく、その中で決壊せずバトンを渡せたことは何より良かったと思う。

☆横浜でのラストイヤー。6月~7月に見せた"進化"

4月 2試合2勝0敗 防御率0.00  
5月    4試合1勝1敗 防御率5.04
6月 4試合2勝0敗 防御率1.41    
7月 3試合2勝0敗 防御率0.78  
8月 5試合0勝2敗 防御率5.27  
9,10月 4試合0勝1敗 防御率3.16  

©データで楽しむプロ野球 All Rights Reserved

今永の月別成績を見てみると、6月~7月の好成績が目立つ。
この時期の投球は今までの投球から進化を見せたものだった。

・左対策で新たに加わった「2シーム」

交流戦までで対左に4割近く打たれたのを受けて、交流戦中から新たに投げ始めたツーシーム。詳細を上記リンクの「With☆ベイスターズ」インタビュー内で語っている。Twitterに公式で動画がアップされているので見てもらいたい。
数字が表す通り、特に左には外の曲げ球系くらいしか選択肢がなく、外気味に目付けをされて被安打がかさんでいたがインサイドの2シームを投げ始め一気に改善。
本人も別に質自体はそんなでもないと語っていたが、2シームを投げることが大事というよりは左の内角にいけるようになったことに意味がある、という感じだろう。これは似て非なるものだ。

7月には更に横変化のスライダーとシャープなカッターの必要な変化量・強度を出した上での投げ分け、チェンジアップの落ち幅など変化球の球質全体が一気に改善され、右への曲げ球や左にチェンジアップなど選択肢も増やしつつ4シームの威力と相まって手の付けようがない投球を披露していた。
巨人戦で7回15奪三振と圧巻のピッチングを披露し、吠えまくっていたのも記憶に新しい。

この時期記録した8試合連続HQSは、2020年代では菅野智之(巨人)、山本由伸(ドジャース)ら世代を担う好投手に並ぶタイ記録。これ以上の記録となると、2010年代の田中将大(楽天・16試合)やダルビッシュ有(当時日本ハム・11試合)、前田健太(当時広島・9試合)などまで遡る。彼らはいずれも、海を渡ったメジャーリーガーだ。

☆緊急降板で幕を開けた8月。勝ち切れない秋

9試合連続のHQSを賭けて挑んだ8月1日の広島戦。今永は5回途中でふくらはぎの違和感を訴え途中降板してしまう。
ここで記録が途絶えるのだが、同時にここまで2か月近く保っていた変化球のバランスも再び悪くなるきっかけの日だったのでは、と推察する。

疲労も相まって4シームの走りも気持ち落ちてきて、変化球もまた再現度の面で難が出始める。横手投げをやったり見るからに苦肉の策というような動きもし始め、悪い時の「辛うじて4シームはそれなりに良いから困ったらゾーンに」みたいなピッチングに。これでは中継ぎ投手がムキになって6イニング投げているような内容になってしまう。
結果的に奪三振率は高く出し続けたが(いやそれもだいぶすごいのだが)、その分、いやそれ以上に被安打も多く、失点し流れを作れない投手のままシーズンを終えてしまった。

オールスター前 6勝1敗 防御率2.07 奪三振率9.83 WHIP0.85
オールスター後 1勝3敗 防御率3.84 奪三振率11.66 WHIP1.34

日本一を目指し戦うクライマックス・シリーズの初戦。
侍ジャパンの決勝戦を任された男の名前はなく、マウンドには16勝3敗でリーグ最高勝率のタイトルを獲得した東克樹が立った。

☆ポテンシャルは日本人随一。チームを勝たせる"本物のエース"へ

シカゴ・カブスへの移籍を決めた今永が「横浜で優勝できなかったのが心残り」的な発言をしているのを見た。自分も、正しい言い方かわからないが"今永が優勝させた横浜DeNA"を見たかった。

6月・7月の、左右どちらの打者が来ても内外の選択肢があり、低めは落とし切り、速球は伸びてきて、かつ緩急も使えるピッチングは明らかに今永史上でもキャリアハイのクオリティだった。
腕を下げてでも曲げにいったり超遅球を投げてみたりではなく、素晴らしい4シームと共にスラット、スイーパー、スプリットチェンジ(、ツーシーム)と決定力のある球種をバランスよく投げ込みチームを勝たせる真のエースピッチャーになってほしいと願う。
日本ではそこまで意識的に投げてはいなかったが、球質的に4シームを高めで使う割合も今後増えていくだろう。MLBでは散らすことよりも球質を最も活かせる投球スポットを強く意識した方がハマったりする。バウアーはMLB流の高め一辺倒で攻略されかけていたが、低めを練習し散らすことでNPBに適応しているので逆のアプローチになるかもしれない。


キャリアでもベストのピッチングを見せ、その高すぎるポテンシャルを見せつけながらもWBC決勝では被弾を食らい、短期決戦の1番手から外れてしまった2023年の今永昇太。

2024年。Shota Imanagaはどんな姿を見せてくれるだろうか。
心の底から期待している。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?