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夕焼け小焼け(創作)

埃っぽい道路に車は軋み、のろのろと動いている。
夕方近いとはいえまだまだきつい照り返しが目に刺さる。
部活からの帰り道、祥子はわずかに涼しい歩道の木陰を選んで歩いた。

足白いなぁ。私の足はこんなに白かったっけ?
うつむいて歩きながら思う。
剣道の防具って、なんでこんなに重たいんだ。
なんか泣けてくる。

ふと顔を上げると前方に停まったバスから真亜子が降りて来た。
音符模様のトートバッグを肩に掛けている。
「タンバリンが入ってるんだ。わかりやすい奴!」
今日も恵理と練習だったのか。
祥子は憂鬱な気持ちになった。

真亜子に気づかれないように通り過ぎようとして、呼び止められた。
「祥子。いま帰り?」
「うん」。顔も見ないでそっけなく通り過ぎようとしたが、真亜子がじっと見送る視線を感じたとたんに
「わあああああああああん!!!」
振り返って重たい防具袋をごとごと鳴らしながら、真亜子に突進した。


誰もいないバス停のベンチに二人は座っていた。
「何かあったの?どうしたの?」
真亜子の問いかけに、祥子はごしごしと涙を拭いて
「先輩に振られた!」とぶっきらぼうに言った。
「振られた?え、コクったの?」真亜子の声がはずむ。
「うん。秒で振られた」

「彼女いるんだそうで。まあそうだよね、フリーなわけないよね」
祥子は少し落ち着いてしゃべりだした。
「いいんだいいんだ玉砕覚悟だったし。もういい。もしかしたらとんでもなく性格悪いかも知れんし。だってあの眼付き、ぞっとするよ。それとあの皮肉な笑い方。あれがいいんだけどさ。あーあ、明日からつらいわ。袴から先輩の足首見えるとどきどきするのがつらい!」
祥子がまくしたてるのを真亜子はニヤニヤしながら聞いている。
「なんかおかしい!?」祥子が詰め寄ると真亜子はニヤニヤをつづけながら
「いやごめん。祥子、可愛いなって思って」
「はぁ?なに胡麻化してんの?おもしろがってるんじゃないの!」

祥子はこの時とばかりに、日ごろのモヤモヤを真亜子にぶちまけた。
クラスであまりイメージのよくない恵理と仲良くして、バンドまで組んで、家で一緒に練習して。心配してんだよ。恵理は学校休みがちだし。真亜子まで同じようになるんじゃないかって。
「ん?大丈夫だよ。私は私だよ。変わってないでしょ?」
ニコニコと言われると、祥子は言葉に詰まる。
たしかに、真亜子は今も真亜子のままだ。しかし。
よし、核心を言おう!
「真亜子は恵理の方が好き?私のこと嫌いになったの?」

真亜子はきょとんとして祥子を見つめた。
「祥子。ごめんね、そんなこと思わせて。心配してくれてありがとうね。
でも、恵理はいい人だよ。少し人に臆病かもしれなくてそれがちょっときつい感じに出てくるんだと思うけど。こんど恵理の歌を聞いてみてね。
それに私は祥子のことは子どもの頃からずっと大好きなんだから。
恵理のことも祥子のことも、同じくらいに大好きだからね」

はああ。祥子は大きくため息をついた。
真亜子のこのゆるやかさ。こだわりのなさ。小さい頃から変わらないなぁ。
「わかったよ。恵理はきっとあんたのそういうとこに安心して居心地がいいんだろうね。私もそうだから。
真亜子ごめんね。私が一番真亜子を信じていると思っていたのに、よけいな心配しちゃったよ」

夕日が山の端にかかり、涼しい風が吹いてきた。
2人は久しぶりに連れだって家路をたどった。
「ね、コンビニで何か買わない?」
中学のころ、よく2人でコンビニに寄っていたのを祥子は懐かしく思い出し、少しはしゃいで言った。
「いいね。でも今日はあんまりお金持ってきてないけど」
と真亜子は言って、ごそごそ財布を取り出してみる。
「よし、仲直り記念におごってあげるよ!」
祥子は勢いづいて言ったものの、やはり財布の中はお寂しい限りだ。
「あ、あれにしよう、パプコ!あれなら2個イチで分けっこできる」
2人は明るい光を放ち始めた店内にさざめきながら入って行った。



おわり




祥子のお話



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