見出し画像

飛び出しちゃった話

長男は生まれたときから、何人ものお医者さんに関わっていただいた。

生後5か月の検診のときに、「〇〇園の診察を受けてみてください」と、発達に遅れが出ている旨を告げてくれたN先生。

その〇〇園で、「典型的な脳性麻痺です。」「就学までにずり這いが出来るかも知れませんが、お母さん、あんまり期待しないで。がんばりすぎないで」と言ってくれた先生。

背高のっぽで、ハトのような物腰?で、診察のあとに高い高いをしてくれた先生。脳波を見ると「抜群に悪いわけじゃないね」。喜ぶところか悲しむところか?と思ったものだ。

ヒゲ面で、いつもウインドブレーカーのようなのを羽織っていて、入院すると朝も昼も夜も、病棟内をうろうろしていた先生。
先生は自分の病気を知りつつ限界まで仕事をし、自分で点滴を打って救急車に乗り込んだという。それから数か月後に天国へ行ってしまった。一番お世話になった先生。

今の主治医は高齢で、親しみやすい人だ。月1回のカニューレ(気管切開部に差し込んである、痰吸引のための器具)交換のときは、「憂鬱だなー、やだなー」と切ながる。カニューレを抜く時の長男の苦しげな咳きこみや、激しい痰の吹き出しが辛いらしい。

ほんとうに多くの先生にお世話になってきた。どの先生も命の恩人だ。


前述のN先生。5ヶ月検診のときに、オムツひとつになった長男の頭囲やら視線やら、仔細に診て、さて今度はオムツを開けて股関節など診るうちに、あっ、おちんちんから噴水!

見事な放物線のその先で、N先生は、まるでお不動様の白糸の滝を受け止めるように、両手で、その放水をキャッチ!(いや、あふれますけどね…)

そのあとどう処置したかすっかり忘れたが、駆け出しの母親であった私は、「なんて優しい、あったかい先生だろう!」と感動したのを憶えている。

長男が3か月ほど入院した時も、N先生は時間外でも病室に立ち寄って、様子を聞いて行ってくれた。同室の子たちはみな、長期入院の子ばかりで、つき添いのお母さんたちから先生は「アンパンマン」とあだ名されていた。

丸顔、丸い鼻、つやつやのほっぺ。確かに、アンパンマン先生だった。ニコニコと笑っている印象しかない。


最初の「おしっこキャッチ!」から33年たって、長男の通っている園に、アンパンマンのN先生が赴任されたのだ!先生、もうとうに60歳は過ぎているはず(だって私が60歳だもんね)。

在宅保護者会の役員をしていた頃だったので、歓迎会の時にご挨拶に行った。多分、長男のことは憶えてはいないと思うけど、おしっこキャッチのことも言うと、持前のニコニコ顔で恥ずかしそうに「そうなんですかぁ。よろしくお願いします」とおっしゃった。近くでご挨拶して、先生、白髪が増えたなぁと思った。(私も人の事は言えない)

病棟に詰めていることが多いので外来では会わないが、ショートステイ利用時に診察してもらうこともある。
うれしいご縁だなあと思う。


おだんごさんの「もれてますよ」を読んだ。

いろんな「もれてますよ」に、朝から爆笑しながら読んだ。
おだんごさんの味のある文章がさらに笑いを誘う。

おじいさんが飴玉を吹き出したら、奥さんがキャッチして、自分の口に放り込んだ場面で、N先生の「キャッチ!」を思い出した。

もうあれから33年。

もれ出したのではなかったけど、まあその、飛び出しちゃった話を思い出して、書いてみました。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?