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「みんな、食べながら聞いてくださいね」

あれは忘れもしない小四の五月。僕の誕生日会のためにクラスメイト七人が遊びに来たときのことです。

誕生日会に呼ばれたことはあったものの自分の誕生日会に人を呼ぶことは初めてで、その日は朝からウキウキが止まらず、はしゃいでおりました。しかしこのときはまったく気づいておりませんでした。僕が長男のため、母にとっても初めての我が子の誕生日会だったことを。

その日の放課後、みんなが家に来てくれて誕生日会が始まりました。みんなそれぞれビックリマンシールやキンケシ(キン肉マン消しゴム)などのダブリで僕が持っていないのをチョイスしてプレゼントしてくれたり、ドラゴンボールのエンディング曲「ロマンティックあげるよ」をバースデーソングに替え歌してくれたり、最高の時間が過ぎていきました。

そして終盤に差し掛かりケーキが登場し、この誕生日会がクライマックスを迎えようとしたときに悲劇が起きたのです。

僕のリクエスト通りの不二家のショートケーキを母が切り分け、みんなが食べ始めたときに突然母が立ち上がりエプロンのポケットから手紙を取り出しました。「みんな、食べながら聞いてくださいね」と母は少し緊張した面持ちで「浦安NOT埼玉ちゃんへ」と僕への手紙を読み始めたのです。

僕はみんなの前でちゃんづけで呼ばれたことが恥ずかしく一瞬で顔が赤くなるのがわかりましたが、事態はそれどころではありませんでした。

「生まれ来てくれてありがとう」

僕は生まれて初めて顔から火を噴くという経験しました。

「早産のために小さく生まれたときは、お父さんと神社にお願いに行きました」

ババァ......。

「どんどん成長する浦安NOT埼玉ちゃんが私の生きがいです」

ババァ......やめてくれ......。

「これからも友達を大切に元気に生きていってくださいね」

ババァ!黙れ!手紙読むな!

その後のことはあまり憶えておりませんが、僕が泣き叫びそのまま誕生日会はお開きとなりました。

後日、教室でみんなが笑って話していたところに僕が行くと、突然笑いが止まり「ああ、あの話してたんだな」と感じずにはいられないことが何度かあり、小四で反抗期を迎えた僕は、母が望んだ通りに少し早く大人になりました。

ババァ、俺の心のドアもノックしろよ!

           (ラジオネーム:浦安NOT埼玉 東京都・男性)


✔️ライムスター宇多丸による書き下ろしコメント

これ、お母さんもかわいそうなんですけどね。100%良かれと思って、浦安NOT埼玉さんへの愛情を、しっかり言葉にして伝えてくださったわけですから。本来なら間違いなく「イイ話」にカテゴライズされるべきエピソード、のはずなんですけども......。

せめて、浦安NOT埼玉さんと二人きりのときならまだ良かったんでしょうけどね。恥ずかしさをごまかすために「やめろよォ」程度の憎まれ口は叩くかもしれませんが、顔を真っ赤にしながらも最終的に、ボソッと「ありがとう」と言えるくらいまでは行けたかもしれない。

でもねぇ......友達の前では、良くないです!

小四っていうのがまた、危ない年頃なんですよね、きっと。家のなかではまだ、それこそお母さんに甘えたり、どこか幼児的なところを残していてもおかしくない年齢です。その一方で、学校や公園、塾や児童館など、子供にとっての公的な空間では、そろそろ大人ぶったいきがりや強がりが幅を利かせ始めている。要は「親の庇護下にいる感」が、急速にものすごーく恥ずかしいものになり始める季節でもある。少なくとも男の子社会は、その傾向が強くあると思うんですよね。それゆえ親側も、友達の前で、家庭での「まだまだ小さい子」的なイメージのまま我が子を扱ってしまい、とんだ赤っ恥をかかせることになってしまう。まさに今回の投稿のような惨事を招きやすい時期ではあるかもしれない。

いやしかし、それにしても......最初に言ったように、お母さんに悪気はない、むしろこれは自分への愛情あふれるプレゼントなのだということは、おそらく当時の浦安NOT埼玉さんにも、痛いほど伝わっていたはず。それだけに、その場での気まずさ、いたたまれなさは、さらにさらに倍増していたのではないでしょうか。心中お察しいたします!

その後のクラスでの微妙な力関係の変化も、さもありなん。小学校高学年から中学にもなると、ふとした拍子に「未だにお母さんっ子」感が透けて見えただけで、兵隊でいうと階級が下がる、みたいなことになりかねないですからね。

ちなみに僕は中学生のとき、落とした消しゴムを拾ってもらおうとして、友達にうっかり「お母さん」と呼びかけてしまい、階級が下がりました。

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生きとし生けるもの、みんなお母さんから生まれてきた。
しかし、 奴らはその事実を笠に着て我々のプライバシーにずかずかと踏み込んでくる。たのむ、たのむから……
「ババァ、ノックしろよ!」

母性という名の無神経、通称、「母(ハハ)シズム」を、いま、告発しよう。


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