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レントゲン検査で心配な被曝量について

 0歳からの頭のかたちクリニックで月曜外来を担当している阪本と申します。

 普段私は脳神経外科外来を行なっていますが、患者さんの症状や状態、疑われる疾患に合わせて頭部MRI検査、頭部CT検査、頭部レントゲン検査、血管造影検査、核医学検査などを実施しています。
 “骨を見る”ことに関してはX線を用いた検査が有用で、特にCTやレントゲンが挙げられます。レントゲンは健康診断でも実施される検査ですので、これをお読みの方も受けたことがあると思いますし、場合によってはCT検査を受けた方もいるかもしれません。
 X線とは放射線の一種であり、それを利用したレントゲンやCTは被曝する検査として有名ですので、特に赤ちゃんに対してとなるとご心配される方も多いと思いますし、実際に外来でもご質問をいただくことが多々あります。
今回、レントゲン検査について簡単にまとめてみました。

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 レントゲン検査とは、X線を対象臓器に照射し、骨や空気、水分、脂肪などをX線が通過するときの差を濃淡の影として撮影した、モノクロ写真のことを言います。
 撮影時間が非常に短く、すぐに確認ができるため、一般外来のみならず緊急を要す臨床現場でも欠かすことのできない重要なツールです。
一方で、1方向からしか撮影ができないため、重なり合う臓器や立体的な臓器では十分に検査ができず、場合によっては複数方向からの撮影が必要となります。一般的に頭部は3方向から撮影することが多い臓器です。

 放射線を利用したCTやレントゲンなどの検査は、被ばくへの配慮も欠かすことはできません。一般的に検査の有用性が被ばくのデメリットを上回るときにのみ実施される検査と考えられています。
では、被ばく量とはどのように判断するでしょうか。

 放射線の単位には、ベクレル・グレイ・シーベルトと大きく3種類存在します。

  • ベクレルとは放射性物質が放射線を出す能力を表す単位

  • グレイとは放射線のエネルギーがどれだけ物質に吸収されたかを表す単位

  • シーベルトとは放射線を受けたときの人体への影響を表す単位

 なかなかこの説明では分かりにくいので、よく雨に例えられます。ベクレルが一定時間に空から降る雨の量(降水量)、グレイが人体に当たった雨水の量、シーベルトが人体に当たったことで体に及ぶ影響量、と説明されると少しわかりやすくなるかもしれません。

 実のところ人間は、地球上で自然界から放射線を受けながら過ごしています。大地の土や岩石から、空気中の物質から、宇宙や食事(カリウムなど)から、絶えず被ばくしながら生活をしているわけです。日本において1人が1年間に受ける自然被被ばく線量は1.5-2.5ミリシーベルトと言われ、その半分は食事からの被ばくとも言われています。

出典:文部科学省HP

 文部科学省のHPに、非常にわかりやすいイラストが載っていたので引用してみました。これを見ると、地球上でも地域によって年間被ばく線量に大きな差があるようです。一般的に胸部レントゲン検査が平均0.06ミリシーベルト、胃のバリウム検査が平均0.6ミリシーベルト、東京-NY往復が平均0.2ミリシーベルト。我々放射線業務に従事する医療者の年間被ばく線量上限は50ミリシーベルトで、5年間で100ミリシーベルト以下にするよう指示されています。この設定以下であれば、安全な被ばく量と考えられています。

 余談ですが、国際宇宙ステーションISSに滞在する宇宙飛行士は、1日0.5-1ミリシーベルト被ばくするとされ、約半年で100〜200ミリシーベルトに達するとされています。月や火星ではさらに高い被爆リスクがあるとされていますが、近年ではバイデン大統領がNASAの有人月面着陸(アルテミス計画)に対し支援の意向を示すなど、宇宙開発が力強く推進されています。NASAは宇宙飛行士の宇宙放射線による被ばく線量上限を、引退までの期間中で600ミリシーベルトに引き上げようとする運動も見られます。もちろんその数値が放射線被ばくによる健康被害を起こしにくい数値として設定されているようです。宇宙旅行や別の惑星への移住を夢見る時代から、今や実現に向かう時代に変わりつつありますが、解決しなければいけない問題がまだまだありそうです。

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 当院で撮影する頭部レントゲンの一回線量は0.056ミリシーベルト、必要な方向から計3枚撮影して0.168ミリシーベルトとなります。おおよそ東京-NYの往復と同じくらいの線量であるとされており、自然被ばくの10分の1程度になります。

 放射線被ばくによって悪性腫瘍による死亡率が増加傾向に転じると証明されている数値は年間100ミリシーベルト以上とされています。
 基本的な考え方として、年間被ばく量が少なければ少ないほど体への影響が低いことは確かですが、レントゲン検査は被ばく量を過度に心配しなくても良い量であるとご認識いただけるとありがたいです。

 もちろん、安全だからみんな受けて良いということではなく、必要に応じた案内を当院では心がけています。
少しでも親御さんの不安解消の一助となる情報になれば本望です。

東京クリニック 医師 阪本浩一朗


阪本医師の経歴