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クレデンザ1926×78rpmの邂逅 #01~クレメンス・クラウス『フィガロの結婚』序曲&ニノン・ヴァラン『君よ知るや南の国』

78rpmはともだち

これまで、1948年にLPレコードが発売されるまでの音楽鑑賞ソフト(音盤)であった78rpm(日本ではSP-Standard Play-盤と呼ばれている)を「78rpmはともだち」とタイトルして綴ってきた。
「ともだち」に込めた意味は「現代においても、気軽(安価)に78rpmを手に入れ、友達感覚で“普段使い”として楽しみましょう」ということだった。そしてその手段として、現代のアナログ・プレーヤー(78回転対応)に78rpm用カートリッジ(レコード針)を装着し、電気的に再生した【ターンテーブル動画】を制作、YouTubeにアップして「note」と連動してきた。

そんな方法で20世紀前半に活躍した素晴らしいクラシック演奏家の音盤をご紹介してきたが、ここにきて、やはり手元にある78rpmを本来の再生方法、それもなるべくよい音で楽しみ、それを多くの方とシェアしたい、という気持ちが徐々に高まってきた。
少しオーバーに言えば、78rpmを最高の環境で再生することは、これからの自分が取り組むべき、そしてシェアしていくべきことのように思えてきた。

そして、結果的に私は蓄音機を購入した。

1926年製ヴィクトローラ・クレデンザ蓄音機

しかも、1925年に電気録音(現代と同じくマイクロフォンで集音し、電気的信号を盤に刻む方式)が誕生して、その78rpmを再生するために開発されたアメリカ・ヴィクター・トーキング・マシン社製のヴィクトローラ・クレデンザ蓄音機(VITROLA CREDENZA PHONOGRAPH )を購入してしまった。
1926年製の初期型で、大きさはH:115cm×W:80cm×D:56cm。マホガニー製の、知らない人が見たらクローゼットかキャビネットと見紛うシロモノ。

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当然、それなりの出費を強いられた。

そこで約30年間連れ添って愛用してきたタンノイ社のスピーカー「ウエストミンスター・ロイヤル」を売却し、代わりのモニター・オーディオ社のコスパ抜群の小型モニタースピーカー「スタジオ」を購入。
その残金と多少の出費をして、やっと手に入れたクレデンザである。

秩父の農村地帯から

購入したのは、ほぼ群馬県の埼玉・秩父ののどかな農村地帯で蓄音機や大型オルゴールの買い入れ、修理、販売を行っているとあるファクトリー。そこへ足を延ばし、実際に狙いを定めていたこのクレデンザで持参した78rpmをかけて、その音を確かめて購入した。
東京には昔から蓄音機販売を手掛ける有名ショップがあるが、そこで同じ1926年製のコンディションの良いクレデンザを買おうと思ったら、恐らく私の出費の1.5倍はするであろう。
金額もそうだが、このファクトリーの店主の人柄、蓄音機にかける思いにも共感した。それはここでの購入を決意した理由のひとつでもある。

クレデンザ、鎮座

そして、5日ほど前に我が家にクレデンザはやってきた。
自分で言うのもおかしいが、我が家のリビングにその雄姿はしっくりとくる。

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蓄音機の音の良し悪しの分かれ目は、その大きさを除けば「サウンドボックス」「リエントラントホーン」によるところが大きいだろう。

「サウンドボックス」は針を装着する部分で、ここで針が拾った波形が音に変えられる。素材にはいろいろあるが、この初期型クレデンザに搭載されたサウンドボックスは真鍮製

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中期型と言われる1927年以降のクレデンザに搭載されているのは亜鉛ダイキャスト製
私は秩父で、このクレデンザに真鍮製と亜鉛製を付け替えて聴き較べをしてみた。
その音は、その場に居合わせた音楽や音響には決して詳しくない家人にも分かるほどの大きな違いがあった。一言で言えば真鍮製は音がまろやかで、亜鉛製は刺激的(高音)だった。好みの問題なので優劣をつけるのは意味がないが、クラシックを中心に聴くのなら、真鍮製がしっくりくると思った。逆にジャズだったら亜鉛製か・・・?
サウンドボックスだけ単品で購入して付け替えることができるので、余裕がでたらそれも一案かと・・・。

「リエントラントホーン」とは蓄音機内部の「音の通り道」。クレデンザのそれは木製で全長で1.8mあり、それがキャビネット内部で折り曲げられている。そこを通じて電気を介さずして音が流れ出すわけだ。
手放したウエストミンスター・ロイヤルのバックロードホーンが約3mあるのと同じで、この長さが音を熟成させるために必要なわけだ。

再生針は鉄針、竹針とある。竹針はダイナミック・レンジでは鉄針に劣るが、音が柔らかく、音量も抑えめなのでここまでは竹針使用率が高い。竹針は78rpm1面を聴き終えたら、その都度「竹針カッター」で先端を切り落とし、新しい切断面を作ってやる。手間はかかるが多くとも2,3面で交換(廃棄)する鉄針に較べたら、結果的にはコスパがよいとも言える。ただし、針も個人の好みによるところが大きいが・・・。

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【クレテンザ1926×78rpm ターンテーブル動画 2題】

さて、そんな次第で早速【クレテンザ1926×78rpm ターンテーブル動画】を2つ制作した。

オープニングは、「note」でも数回取り上げてきたクレメンス・クラウス(Clemens Krauss, 1893年3月31日 - 1954年5月16日)。私が78rpmに没頭するきっかけを作ったクラウスが、ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団を指揮したモーツァルトの歌劇『フィガロの結婚』序曲。クラウスは1930年代のザルツブルク音楽祭で、この傑作オペラを何度も指揮している。もちろん、オケはウィーン・フィル。
クラウスの快活でありながら、しなやかな音の運び、気品を感じさせる音楽性を凝縮したような音盤。

そしてもう1点は、ドビュッシーにも寵愛されたフランスのソプラノ、ニノン・ヴァラン(Ninon Vallin, 1886年9月8日 - 1961年11月22日)の78rpm。
パリ・オペラ座やパリ・オペラ=コミックを中心に活躍し、録音も多いデイーヴァだが、今回はフランス・オペラの傑作、トマの歌劇『ミニョン』からソプラノのアリアとして、単独でもよく歌われる名曲『君よ知るや南の国』
これはほとんど“禁断の果実”。新鮮さと熟成の絶妙なバランスだ。

今後も「クレテンザ1926×78rpmの邂逅」を追っていく。

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