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オレオレ詐欺〜焦点の置き方〜

お笑いコンビ、和牛の「オレオレ詐欺」という漫才を知っていますか?

今回はこの漫才を見ていて、お笑いド素人の私が、「すご~い」と思った点を、長文で書いていきます。
(以下、敬称は省略させていただきます)

オレオレ詐欺

M-1グランプリ2018 最終決戦で披露された漫才。

水田「あの、実は今心配事がありましてね」
川西「心配事?」

「もし自分の親がオレオレ詐欺にひっかかったらどうしようかなって。だから今度僕、実家に電話してね、自分からは名前は言わずに

「もしもし、おかん、俺やねんけど、今金に困ってんねん」

って言って、ほんまに金持ってくるかやってみようかなって思ってんねん」
「やめたれよ。持って来るやろ、本人やから」

これは1998年頃より現在に至るまで高齢者を中心に大きな被害を出している「オレオレ詐欺」(2004年に警察庁より「振り込め詐欺」と命名された)を題材とした漫才である。

「……」
「……」

「でもこれで持ってきたら、声が似てたら騙される可能性があるってことやん」

このようにして「嘘ついて心配かけてまでやるようなことでは」ない漫才が進行していく。

「トゥルルルルル トゥルルルルル」

「俺」こと信二が「おかん」へ電話をかける。

「……。もしもし水田ですぅ」

おかん、電話を取る。
マイクを挟んで電話を持ち話す、「俺」と「おかん」

「もしもしおかん、俺やねんけど」
「しんじぃ?」
「うん、そう信二」
「あんた元気にしてる?」
「ごめん、ちょっと聞いてくれる?」
「どうしたん?」
「俺ちょっと今、交通事故起こしてもうてさ」
「…え?」

示談金の200万円が今日中に必要になると語る「俺」
「おかん」は息子のため、指定された「駅前の喫茶店」へ現金を持ち急ぐ。

ここで余談です。
現在金融機関窓口にて高額の現金での払い戻しを行う際、お金の使い道などを聞かれることが多いことと思います。(特に高齢者の方)
これはひとえに、振り込め詐欺の未然防止が目的です。
「自分のお金を動かしたいだけなのに、なんで根掘り葉掘り聞かれなければならないのか」
そう思われる方も多いと思いますが、お話できる範囲で結構なので、協力してあげてくださいね。
ついでに、振り込め詐欺の未然防止のほか、法令にて義務付けられている取引時確認のために聞かれることがあります。
お金のことはセンシティブ。とはいえ、法律に基づく行為も多いので、嫌がらずに協力しましょうね^^

駅前の喫茶店に着いたおかんを待っていたのは信二のみ。
信二はここで事故はなかったこと、お金は持ってきてはいけないことを告げる。

「…ああ、そう…?事故なかったん…?よかった、それやったらよかった…」

「これは何?」
「これがオレオレ詐欺やねん」

「え、ほな待って、さっき私に”オレオレ”って電話かけてきたんは誰?」

「俺」
「そうやんなあ。ほな違うなあ」
「でも自分からは名前言わんかったやろ俺。じゃあ、ほんまに信二かどうか分らんやん」
「でも信二やん」
「たまたまな」

この漫才の恐ろしいところは、「俺=信二」が「俺」と言って「実のおかん」に電話をかけて、必要でもない現金を持ってこさせるということである。
しかしこれ、実は高齢者に対して振り込め詐欺の訓練として警察が実施している手法にとてもよく似ているのだ。

それは警察官が高齢者の自宅へ電話し、架空の儲け話をもちかけるというもの。
もちろん、最終的には警察官であることや、訓練であることを告げ、振り込め詐欺の手口を実体験させることによって、未然防止につなげようというものなのである。

恐ろしい…警察と同じことを漫才でやっている…!!!

信二に注意喚起をされたおかんのもとに、再度、「俺」から電話がかかってくる。
右手に電話を持ち、おかんに電話をかける信二。
洋服をたたむ手を止めて、左手で電話に出るおかん。

「もしもし、水田です」
「もしもしおかん、俺やねんけど」
「しんじぃ?」

……あれ?おかん?
この間、信二が注意喚起したのに、「気をつける私も」と言ったのに、自分から名乗っていない信二の名前を口に出してる…!

昨日酔っぱらってケンカをして、相手を入院させることになってしまった信二。
「ケンカってあんた、何してんの!」とたしなめつつも、会話の中で「聞き覚えあるなあ。前のやつやろあんた」と、再度息子からオレオレ詐欺をかけられていることに気付くおかん。
しかし息子の泣きに「泣いてる息子を見捨てる母親どこにおる?!」とまた駅前の喫茶店に向かうおかん。
しかしそこにはやはり信二しかおらず「なんで持ってくんねん」と言われる始末。

「楽しいか、自分の親だまして!」
「楽しいからやってんちゃうねん。防災訓練みたいなもんやねん、これ」
「防災訓練は防災訓練が今日ありますって教えてくれるわ!!」

あ~~~~~!!!!!
巧!妙!!

そう!
防災訓練は防災訓練が今日ありますって教えてくれるの!
でも!オレオレ詐欺は今日ありますって教えてくれないの!

そして畳みかけるようにニセの電話に出ておかんを試す信二。
嘘とも知らず焦るおかんに冷静なまなざしの信二。
おかん振り返って嘘とわかり一言

「やってんなあ!」
「気を付けや」

どこまで、お前は…!!

そしてここでおかんの反撃が始まる。
生放送中に抜けてきたと去る信二に対し「胸が痛い」と苦しみだすおかん。
至って冷静に救急車を呼ぶ信二。

「母親が急に心臓が痛いと苦しみだして。……年齢の方は」

信二がおかんを見ると、そこにはほくそ笑むおかんが。

「騙されたなあ。騙されやすい遺伝子受け継いでるなあ」
「救急車よんでもうてるから」
「貸しぃ」

おかん、信二の携帯を右手で受け取り「すいません、さっきまで痛かったんですけど」

するとすかさず信二が一言。

「それもともと電話つながってないねん」

Σ(◎Д◎)

電話を挟み、にらみ合う信二とおかん。

「おかんが心配やからやってんねんで」
「伝わるかあ!」

以上、和牛の漫才「オレオレ詐欺」でした。

いやぁ。
すごい。

「実の息子が親にオレオレ詐欺をひっかけて注意喚起をする」という逆説的且つ高度なボケをかまされたような気分になる漫才でした。
でも、一歩引くと笑えないボケで、初見はリアルに考えてしまい、「笑っていいんだろうか…」と真剣になってしまう私がいました。

しかしこの漫才で私が一番すげえーーー!と思ったのはネタのとらえ方ではなくて、実は、「電話」の位置を巧みに変えていることです。

信二がおかんに電話をかけた時点では、両者はマイクを挟んで両端に電話を持っています。
そうすることにより、観客の注目はマイクを中心に両者に置かれます。
電話を持つ手が観客の注目を遮らないのです。

しかし終盤、信二が救急車を呼ぶ場面。
舞台上ではマイクを挟み、左に電話をかける信二、右に距離をあけて心臓を痛がるおかんがいます。
観客はこの両者を大きくとらえています。弛緩の状態です。

しかし信二がおかんに電話を渡す場面に注目してください。
おかんはどちらの手で電話を受け取ったでしょうか。

右手です。

今まで左手で電話を持っていたおかんが、ここでは右手で電話を受け取ります。
電話を受け取ったことにより、両者の距離は非常に近くなり、観客の注目も電話へ向かいます。

両者を大きく見ていた弛緩状態の観客の視線が、一台の電話を中心に圧縮されます。

あくまで漫才はサンパチマイクを中心に繰り広げられます。
しかし和牛の漫才はステージ上を大きく使う演劇的要素のあるものが多く、この漫才も主に川西さんがマイクから離れるパフォーマンスが随所に見られるものでした。
しかし最後、観客の注目は一台の電話により、マイクへと収束させられるのです。

その瞬間の「それもともと電話つながってないねん」と、両者のにらみ合い。

緊張と弛緩、観客の注目を広域にするか、一点に集中させるか。

話術や展開のみではなく、「オレオレ詐欺」の肝である電話を用いて観客の注目を誘導する、巧みな漫才でした。

しかし、「親が心配だから」と伝わりにくい方法で注意を促すなんて、愛情をこじらせたボケをかましてくるんですね……( ゚д゚)ハッ!これってもしや!
「心にさされ!非情な愛のボケ」?!……まさか、3年越しにキャッチコピーの伏線回収をするなんて…!



おわり(・∀・)bachico87

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