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つみびとこぞりて初見を殺す 前編【雑記】

みんな死にゲーが大好き

 動画配信のジャンルでは今や鉄板とも言えるゲーム実況。麻雀TLでもアイドル中年あっさじーん氏が稀代のバカゲー壺男を実況配信し、「このゲームはノーレート」の切れ味鋭いパンチラインを残して話題にのぼった。悪態をついてチンパンぶりを披露するいい歳したおっさんの醜態に、みなが手を打って喜んだのだ。

 では今(2019年8月初旬)、旬の実況ゲーム種目は何だろうか。まず挙がるのはスーパーマリオメーカー2で間違いない。6月28日のリリースから一か月と少しが経ってコースもますます充実。いや増す勢いにHIKAKINだって東海オンエアだってマリオメーカーの虜である。

 何故ここまでの流行を見せているのかについて、僕に多角的な考証をする気はない。コース作成⇔プレイ実況でコラボもしやすければチャンネル視聴者との距離も縮まるし、有名YouTuberのコースにフリーライドするなんて手法もあって指数的に動画数が増大してるんだよ、くらいの事は判るがそこは僕が語りたいことではない。もっと根本的で語り尽くされた、なんでこのゲーム実況は動画として面白いんだろう、という話だ。

 そもそも死にゲーを観るのはとにかく楽しい。その愉しみ方は様々だ。迫りくる理不尽と初見殺しの嵐に晒される他人の無様とリアクションを見て単純に笑ってもいいし、パターンを覚えて急速に学習していく人間の成長の縮図を共に喜び、ワクワクしてもいい。コース作成者の意図しない挙動をして突破する裏ワザ的な攻略の発見に快哉を叫ぶのもいいだろう。その根底には試行錯誤に対する根源的な希求があるのではないだろうか?トライ&エラーとパターン学習に人は昏い喜びを覚える。僕たちが木の実を齧る猿だった時代からの、これは1つの性なのだろうと僕は思う。

 漫画家の榎本俊二は、代表著作である『ムーたち』で人類がフグの調理法を確立するまでの壮大な死に覚えの過程をユーモラスな筆致で描いている。

 フグの毒は無味無臭、おまけに無色だ。この完全な初見殺しを榎本の描く原始人たちは人命のトライ&エラーを用いて見事に攻略する。この素朴な発想と描写は、当時初めて榎本漫画を手に取った僕の腑に落ちた。最後の最後に身と内臓を分けるところまでいって、それでもなお内臓を選んで死んでしまう「惜しさ」に、僕はクスリと笑った。正解に辿り着いてフグの身にありついた男と、背後の死屍累々との対比するこの1コマこそが死にゲーの本質であろうし、この「惜しさ」こそが死にゲーの面白みの全てだろう。

クソゲーにまつわる何やかんや

 かくして死にゲーの初見殺しはゲーム実況の世界で市民権を得ている、ように見える。しかし、当の任天堂は前作から一貫して批判的な態度を取っている。

 「これはいけない、クソコースだ」と天下のゲームメーカーから直々の御意見があるからには、何かクリエイティブな活動をするにあたって「これはお約束だよ」と気に掛けておかなければ即座にクソゲー認定されうるということを僕たちに優しくご教授なさっているに違いない。そのお約束とはまとめるならばこうだ。

①気を張りっぱなしでずっとしんどいのはアカン。大事なのは緊張と緩和なんや!緩急つけてかんとな。なんでもメリハリやで。

②前触れのない初見殺しは絶対アカン!不意打ちみたいになったら気ぃ悪いやろが!おもてなしの気持ちもたんかい!!滝川クリステルおめでとう!!小泉進次郎、おめーだけはゆるさねぇ!!!

 ごもっともと言えばごもっともだ。星の数ほどのクソゲーを排出、いや輩出し、その屍の頂に立つ任天堂ならではの含蓄深い御言葉であろう。とてもあの伝説のクソゲー「たけしの挑戦状」を作ったメーカーとは思えない。

 で、更にもちろんこの優等生的なご意見は多くのダメ出しを受けた。まあ言いたいことはだいたい想像がつくかと思うが、以下にまとめサイトを引用する。

この記事への反応>

悪いけどこれ公式が一番やっちゃいけないことだよ

この手のゲームってクソコース作って楽しむのがメインじゃないんか

実際鬼畜だ何だのやっても楽しくもなんともないからしょうがないね

自分たちがチンパン相手に商売してるってことを全く理解してないのな
てーか今までその可能性に思い至りすらしなかったんなら任天堂自体がチンパンやわ

 「『作ってあそぼ』なんだから意見すなや。実際ウケてるんだし好きにやらせんかい」という話である。低レベルで身も蓋もないが、これもまたもっともな意見だ。両社の主張はこれ以上発展する余地もないくらい浅瀬で拮抗している。

 で、ここまで長々と前置いてみなさんそろそろお忘れの頃かもしれないが当noteは「アタマ」についてを専門に取り扱っている。なぜこの導入部なのかは、推して知るべしだ。僕の知る限り、そしてみなさんご存じの通り、アタマは純度の高い死に覚えゲーである。そして昔から僕は懸念していたのだ。もしかするとアタマはクソゲーなんじゃないだろうか?と。アタマはクソゲーか否か。この話に結論を出す前に先ず、麻雀ゲームの歴史に残るクソゲーを紹介しよう。

ヤクマン センニン ガ イッパイ

 みなさんは、「役満仙人」をご存じだろうか?ゲームボーイから連綿と続く任天堂の麻雀ゲームシリーズ「役満」の、第一作のゲームボーイ版にだけ登場する究極のボスキャラだ。その不敵な闘牌は以下のプレイ動画から窺うことができる。

 ざっくり言うと「配牌で必ず役満が狙える手が入り」「役満以外狙ってこない」。このムーブを取られ続けるとプレイヤーはとにかく相手の動向に逐一右往左往し、酷い時には配牌2種から国士に向かって役満を潰しに行くハメになる。そしていつか役満のクリーンヒットを喰らい、あなたは死ぬ。「クソゲー」と小さく呟くと、あなたはプレイボーイをベッドに放り投げて宿題に取り掛かる。

 この説明を聞いて「ん?」と思ったあなたは優秀なアタマヘッズである。そう、これはそのままアタマにおけるハダカムーブの説明なのだ。何も知らずにアタマの卓についてしまえば、これはもう役満仙人とサンマを打たされているのと何ら変わりない。圧倒的な速度・打点・祝儀の暴力にニュービーは打ちのめされ、「クソゲー」と小さく呟くと、預かりをバックして店を後にする。

 というわけで、任天堂が示した「わかりやすいクソゲーの基準」に、麻雀ゲームとして更に一項がここに追加された。

③役満ばっかりでる。しかも一方的に喰らう。

 ではここから。アタマは本当にクソゲーなのか?その点について論証していきたい。

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