馬楽の時間 170

 子供の頃から馬に乗っていた。鞍は無い。小学6年生の時の火事で焼けてしまった。確か本に書きましたね。焼け残った鐙金で南京袋の鞍を作った。
 いつも裸馬だった。裸馬で駈歩までやる。
 勿論馬術なんか知らない。馬術と言う単語さえ知らない。
 バランスで乗るんだと言われなくても、バランスをとらなきゃ落ちてしまう。鐙がないから、どうしたって足で腹を巻いて縋り付く。
 大学に行き初めて馬術を知った。足で腹を巻いちゃいけないらしい。と言われても、子供の頃からの我流はそう簡単に直せない。鞍が付いているので、腹を巻くと、膝や太ももの内側が擦り剝ける。はんぱじゃない。
 血だらけ。おまけに、つま先を前に向けろと言う。我流では、つま先はほぼ直角に外向き。これが直せない。直さなきゃ常時拍車が入る。
 乗馬練習中になんかに直せない。そこで、日常生活で直すことにした。
 歩くときは常につま先を内向き。ぎこちない。肩にまで力が入る。椅子に座っても、親指をくっつける。自然、膝も内に寄る。お行儀よく座っているように見える。実は脂汗を流していた。寝る時も、親指をくっつける。意識が切れると、バンっと開く。それで目が覚めるほど。
 少し内に向くようになったら、歩く時、つま先を左右前、左右外、左右内、右だけ外、左だけ外、左右みぎ、左右ひだりと、常に意識した。
 お蔭で足(後に脚)の隅々に神経が行き届くようになった。
 この成功体験は大きい。何でも初めからは出来ない。でも諦めなくなった。絶対正しいと思ったら、絶対やる。出来るまでやる。やり続ける。
 この挑戦がたまらなく面白い。


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