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雨と満月と、そして前夜。

明日のことはわからない。

それは文字情報としてはわかっているつもりだけれど、今から9年前の今日、あんな”明日”が来るとは思っていなかった。僕は、来たるべき”明日”の研修会の資料をキーノートで作っていた。少し肌寒いキッチンのテーブルで、コーヒーを飲みながら。ただ、それだけの前夜だった。

今日僕は、リールにラインを巻いて、中学生の息子二人とお昼ごはんを食べた。9年前、幼稚園児だった彼らは、幼稚園に迎えに行った祖母に抱きかかえられて地震が過ぎ去るのを待った。夕方、忘れ物を取りに来た友人とコーヒーを飲んでしばらく話した。彼女は震災後、子どもたちの遊び場をつくる仕事をした。

なんとなく、そっと、時間を過ごした。世界に、何も起きないようにそっと。なんでもない一日の愛おしさを知った日。なんでもない一日を、そっと過ごす事ができるかけがえのなさを。

大切な人に、大切だよと伝えよう。そばにいる人を、抱きしめよう。遠くにいる人に、メッセージを贈ろう。往ってしまった人を、想おう。世界のどこかにいる、見知らぬ人の幸せを願おう。

雨を楽しみ、雲に隠された満月を浴びよう。
今日は、特別な日だから。

サポート、お願いはしませんが、喜んでお受けします。文章を書くことは私にとっての”托鉢”修行といえるかもしれません。