見出し画像

死ねなかった少女

あるところに、常に情緒が不安定な少女がいました。彼女は普段は普通の人のようにふるまうことができるけれども、あるスイッチが入ると、攻撃的になったり、希死念慮が止まらなくなり、自らを傷付けてしまうのでした。
腕を切る時の快感、大量に薬を飲んで、視界がフラフラとし、まるで一時的な死を経験するように長く静かな睡眠ーー気絶とでもいったほうが良いのかーーを取ること。本当に死ぬことはしないが、死なないための延命措置として、このような自傷行為を行う。たまらなく、気持ちがいい。
又、攻撃的になったときには、少女はどこまでも、際限なく相手を貶めようとしてしまいます。どれだけ好きな・世界で一番好きで・その人のために生きているといっても過言ではないほど依存している人に対しても、その人が一番大事にしているものまで、全てを奪おうとしてしまうのです。
この少女のスイッチは、どこにあるのか、少女ですらわかっていません。しかし、最近の少女は、夜になると、急に死にたくなります。寂しいのか、夜が怖いのか、とにかく不安になるのです。
夜になると動悸がして、苦しくて、仕方なくなる。なにもかも、やっていることが向いていなく感じる。
最近の少女は、熱烈に大好きだったアイドルにも興味を示せなくなってきました。おなかも空きません。とりあえず、1日に1回は食事をとるのみです。少女はこの1か月で5キロ痩せました。
少女の精神状態はきっとあまりよくないのでしょう。
そんなある日、遂に少女は死を選びました。どうしても、どうしても、どうしても、死にたかったのです。大好きだった相手がこの世で一番憎く感じ、この世に存在する意味が分からなくなったからです。少女にとっての美しい世界とは、大好きな相手に必要とされる世界です。それが壊れた時、少女の全てが壊れるのです。
一生懸命薬を袋から出しました。あったこともない人に、遺影にしてほしい写真まで公開しました。家族は悲しむと思いました。そんな自分が情けなく、さらに死にたくなるのでした。
大量の薬を飲み、意識が戻ってしまったとき、彼女は警察官と救急隊に囲まれていました。「死ねた?」彼女はそう聞きましたが、残念ながら生きていました。死ねなかったことに絶望し、更に情けなくなるのです。
少女は今、死ぬことは諦めました。あの程度の薬では死ねないからです。
では、今後、少女はどうしていくのでしょうか。少女はわかりません。
今も少女は死から遠ざかるために一日に何度も薬を飲むのです。眠れない夜を必死にごまかすのです。
少女の幸せは何でしょう、少女は判断ができません。
医者には、今いる環境から離れろと言われました。しかし、少女はその判断をすることができませんでした。
これからも、夜が来るたびに少女は不安になるのでしょうか。
少女は、夜に救われたい。夜に包まれて、安心したい。そう願うのでした。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?