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「村八分」は同調圧力、いじめのひとつ

「村八分」礫川全次著・河出書房新社2022年10月発行

著者は1949年生まれのノンフィクションライター、在野史家。「サンカと三角寛」等の著書がある。

最近、ある女性国際政治学者が「元総理国葬のお弔いにも出ないのは村八分の論理」と発言して話題となった。

村八分とは10の交際のうち、葬礼と火事を除く交際を断つことを言う。10の交際とは、冠婚葬の三つ、建築、火事、病気、水害、出産、旅行、追善の10個の交際を言う。

2021年5月、大分地裁中津支部で「村八分」を巡る裁判の判決があった。原告Aさんは定年後、故郷・宇佐市の集落に戻り、不当な村八分を受けたと訴えた。裁判所は歴代自治区長3人に110万円の損害賠償を命じた。

原因は山間地域農地の耕作者に交付金を支払う制度があった。Aさんは、帰郷前は第三者に農地を賃貸していた。帰郷後、自ら耕作者となったため、第三者への交付金の支払停止を求めた。

地元有力者は「新参者が生意気なことを言うな!」と拒絶、村八分扱いを受けた。根源には「集落内部の問題、村の恥を表に出すな!」のムラの論理があった。

2007年、オリンパス株式会社の従業員が上司のコンプライアンス違反を指摘した結果、上司の不当な人事異動で、社内の人間関係から孤立させられる事件が起きた。これも会社の恥を出すな!の論理である。

「村八分」は決して過去の問題ではなく、現代でもあらゆる組織、団体で起きる。その原因が江戸時代の歴史的な問題にあるのでもない。

著者は、明治以降の日本の近代化の過程で、日本の権力構造変化と深く関わる重大な問題だ言う。
作家・きだみのるは、昔の村八分は戸数10戸前後の村部落共同体で発生した特殊な現象と主張した。

しかし明治の町村制で村部落共同体は消滅した。明治大審院は、「村八分」は法規に違反、犯罪を構成するとして、脅迫罪、恐喝罪で処罰した。

著者は、「村八分」は古い時代の単なる遺産でもなく、近代特有の現象であると主張する。「村八分」を単に「私的制裁」と見なすことにも疑問がある。それは「公権力から黙認された私的制裁」だからである。いわば「半・公的な制裁」と言うべきと言う。

最近問題となる「いじめ問題」も「村八分」と深い関係がある。「いじめ」も「公権力から黙認された私的制裁」である。

オランダ人ジャーナリスト・ウオルフレンの著書「日本・権力構造の謎」で、周囲に自分を合わせることは日本社会で高く評価され、秩序の乱れを防止する仕組みとして「同調システム」が日本の権力構造の深部に潜んでいる述べた。

コロナ危機でも同調圧力が問題となった。マスクすら公権力に依存する日本の社会システムの特殊性が「村八分」を生み、「いじめ」を発生させていることに気が付くべきだろう。


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