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運送業2024年問題「やさぐれトラックドライバーの一本道迷路」

「やさぐれトラックドライバーの一本道迷路」橋本愛喜著・角川2023年6月発行

著者は大阪府出身、父の経営する金型研磨工場で女性トラックドライバーとして全国を走る。その後工場は廃業、現在はブルーカラー労働問題を中心にフリーライターとして活動する。

働き方改革で運送業の規制は5年間猶予された。2024年労働時間上限規制が実施される。いわゆる2024年問題である。その結果、運転手不足で35%の荷物が運べなくなると言う。

運送業は1990年規制緩和で業者数は45,000社から63,000社に急増した。業者間競争が激化、運賃値引き、過剰サービス、長時間労働が常態化した。その後の「失われた20年」経済低迷でダンピング競争は一層激しくなった。

運送業の中核は「企業間運送」である。トラックドライバーの9割以上を占める。身近な「宅配運送」は全体の7%程度、コンビニ商品、生鮮食品も企業間運送の大型トラックで運ばれる。トラックドライバーの実態は市民から見えない。

見えにくいトラックドライバーの仕事と日常を元トラックドライバーの著者が公表する。現在、トラックドライバーの平均年齢は50歳を超え、若者の参入は少ない。

トラックドライバーは長距離主体で一度出発すれば、1週間、家を空け、24時間路上生活となる。荷主至上主義で梱包用の段ボールに傷をつければ、中身は大丈夫でも引き取りを拒否される。更に荷物の積み下ろしから、陳列のサービスまで強要される。

交通事故を起こせば、実名報道され、スピードを出せば、煽り運転とSNSに投稿される。トラックには社名が記載され、二度と荷主から使ってもらえなくなる。

しかも荷主指定の時間通りに必ず到着しなければならない。早めに到着しても待機場所は用意されていない。故に路上駐車となる。トイレも休憩所もない。駐車違反罰金は自己負担。理不尽である。

行政の対応も理不尽である。高速道路深夜料金の割引が2024年改正で、深夜時間通行した実質距離のみ割引に改悪される。現在は1分でも深夜時間に高速に乗れば割引される。従ってインター出口で深夜0時過ぎるまで待機する「0時待ち」への対策である。

トラックドライバーの働き方改革、労働条件は「有識者会議」で決定される。トラックを運転したこともない学者、官僚、経営者の有識者である。有識者とは本来「現場を識る人」を言う。そのような人は一人もいない。従って理不尽な内容になる。

本書はトラックドライバーの過酷な労働の現実を知るのに最適な本である。労働法の規定、働き方改革の内容を学ぶより、運送業の実態、ドライバーの現実を知るのが先だろう。

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