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生活の建築知識.45

おはようございます。

近年では和室がだいぶ少なくなってきました。
個人的な意見ですが、私は和室がとても好きです。
かと言って、古めの集合住宅などにある畳の部屋が良いというわけではなく、しっかり作り込まれた和室のことです。
もっと言えば書院がある和室のことです。
今では設計されることも少ないですが、しっかり造り込まれた和室は意匠と技の結晶と言えるほど、造るのは容易ではなく、多くの知識と技術が必要になります。
もしかしたら和室は堅苦しいというイメージをお持ちの方もいるかもしれませんが、各所に出てくる意匠的な装飾は遊び心に溢れており、形式は確かにありますが、自分好みに組み合わせる事が出来る部屋でもあります。
今回は書院付きの和室がどのような構成となっており、どこに違いが出てくるのかなどを説明していきます。

まず最初に書院について説明をしていきます。
書院とは、和室の床間横に設けられた出窓のような設えのことです。
正面向かって左にある場合を本勝手、右にある場合を逆勝手と言います。
そして書院が付いた和室を書院造りと呼び、書院造りの和室では、書院・床間、そしてその横にある床脇の3点をセットにする事が一般的な構成となります。
書院はもともと書物などをするスペースであり、その原型は鎌倉時代に誕生していたとされます。
しかし徐々にその実用性はなくなり、室町時代には装飾として取り入れられ書院造りと言われる武家住宅の形式となりました。

床間は床柱・床框(床の段差部分)・床板(床間の床部分)・落とし掛け(上部下がり壁の下部)・で構成され、背面には掛軸などを掛けられるように背面上部に無双と言われるフックのような金物設置されます。

床脇は下部に地袋戸棚、上部に天袋戸棚があり、中間に違棚を設けます。
上下の戸棚は戸襖がありますが、違棚は2枚の棚板を段違いに取り付け、オープンとなる棚になります。

その他和室の特徴として、長押・廻縁・畳があります。
畳の周囲には寄せという部材が設けられ、壁と柱の段差部分を埋めた上で畳を敷き込みます。
畳自体の長辺には縁(へり)が施され、多種の柄があり、中には皇族のみ使用できる縁も存在します。
出入り口には敷居・鴨居・襖があり、天井に関して竿縁天井が多いですが、格天井・目透かし天井・網代天井など複数の種類があり、装飾的に仕上げられます。
天井に種類があるように、上記で出てきた各所には材質や形状で様々な組み合わせが可能で、格式高い仕様から素材をそのまま活かしたような趣とでき、建主の嗜好が反映される空間となります。

ちなみに和室によく現れる長押は、古くは板戸・唐戸(現在の窓のようなもの)を取り付けるためや構造体として誕生しました。
奈良時代からすでに誕生していたようですが、鎌倉時代頃からは大きな木材確保が難しくなり、細かい部材でも造られるようにするため、貫と言う部材に代わっていきました。
構造体としての役割は減りましたが、その後は現在と同じく装飾として残り続けました。

話は戻りますが、書院造りの和室として有名なのは二条城と桂離宮です。
二条城は大広間と黒書院が有名ですが、どちらも時の権力者を象徴するかの如く豪華絢爛な空間となります。
一方桂離宮は、正確には数寄屋造とのハイブリッドですが、茶室の趣を取り入れた質素でありながら趣深い空間となっています。

これまで紹介した各箇所の部材をそれぞれ使い分けて構成するためには、かなりの素材に対する理解が必要です。
また、そこから格式などを把握した上で、好みに応じて遊びを取り入れるという、レベルの高い教養を必要とする建築造りとなります。

現代では形式に捉われず、自由な形で和室の要素を取り入れたりしますが、こだわりのある和室を設るほどの設計者・施工者も正直少なくなりました。
茶室もそうですが、書院のある和室を造ってほしいと要望があっても、私自身も勉強し直さなければいけないし、それを造れる職人を手配する必要があります。
昔と現代で、和室のみを見て知識や技術を比較することにあまり意味は感じませんが、実施する難易度が高くなっていることに関しては間違いありません。
すでに身近で和室を楽しむことが出来る環境にある方は、好き嫌いには関係なく貴重な体験が出来ていると思います。
また、そうでない方も日本の歴史的建造物を巡れば見ることは出来ますので、様々なものを見比べてもらえれば造形や雰囲気ががらりと違うことに気が付くと思います。

手間も金額もかかる上、設備を多く設けられないことから機能的にも優れているとは言えないかもしれませんが、日本建築の美意識は観光資源としても重宝されていることから評価されているのは明らかです。
住まいに取り込むことは簡単ではありませんが、美術品や歴史的建造物として楽しむことが出来るように細部に関して少しでもご興味を持ってもらえれば幸いです。

では、また。

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