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ブルペンは治外法権

夏休みの練習は厳しいものがあった。お盆以外休みのない日程に、酷暑。それまで毎年母の実家でのんべんだらりと夏休みを過ごしていた私にとっては初めての経験であった。それに加えて監督の恐怖感が半端なかった。たるんだプレーが出ると即全員が集められて説教である。説教ならまだマシで、怒りにまかせてバッティングマシンを蹴っ飛ばし、練習なんか辞めて帰れ!と言われるのがお約束である。まずは言われるままマシンを片付けて、帰る準備をするのだが、最後にキャプテンが謝罪にいって結局練習が再開する流れになる。そうなるとまたマシンを出さなければいけない。こういう裏方の仕事は下級生の仕事だからとても大変だった。どうせやるんだから監督が帰れと言われてもマシンを片付けなければいいのに、と何度思ったことか。
なので、こんな状況のところへ飛び込んできたブルペンキャッチャーの仕事は嬉しかった。なぜなら投手の練習は治外法権が与えられていたようなものだったからだ。エースが投球練習をしているときに監督が部員を集めて怒鳴り散らしても、エースは涼しい顔をして投球練習を続けるのである。どうせいつものことだと意にも介さない。こういう度胸がエースの風格であり、監督も私たちがそのまま練習を続けていても、なんの文句も言わなかったのである。だから私は一人だけ得な役割を与えられている気がして嬉しかった。
そして夏休みの終わりに3年生を送り出すためのいわばOB戦が行われることになった。この試合で私の運命を変える事件がおきるのである。

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