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リトアニアのビルシュトナスに行ったワケ・1

実はこの記事は今年2023年の夏の旅が終わった時点で、一番書きたいと思っていた内容だったのだ。だが、なぜか12月になるまで私は書けなかった、いや書いていなかったのか。理由は2つある。
あまりにも多くのことがありすぎたから自分の頭の中で十分に理解した後に整理できてから書きたかった。もうひとつは、若かりし頃のラブレターを書くに似た行為のように、どのように自身の感情を片思いの彼(彼女)に伝えるべきかを考えあぐねている間に時間が過ぎてしまっていた。実際にラブレターを書いたことはないけども。

この話はいくつかに分かれて報告をしたいので何回になるかわからないけども続編があるので、最後まではジリジリと楽しんでほしい。

さて、タイトルにある「リトアニア」?「ビルシュトナス」?どこよそれ。

そんな気持ちになった方に「リトアニア」は、wikiのリンクを貼っておきます。「ビルシュトナス」についてはご存じない方も多いですので、リトアニアの中での位置を説明しよう。リトアニアの首都ビルニュス、そして第二の都市カウナスはビルニュスからバスで1時間半程度行った場所にあります。そのカウナスよりも南におよそ30km離れた場所にビルシュトナス(Birštonas)がある。下の地図のハートのマークがある場所がビルシュトナスだ。

出典:Google Maps

さて、リトアニアに行ったことがない方には馴染みのない場所であることは当たり前である。が、リトアニアへ何度か行ったことがあるにも関わらず、2022年には私の耳にビルシュトナスの地名がこれまで挙がることはなかった。
リトアニアへ調査する旅に行く前に、在日リトアニア大使館のスタッフの方に「リトアニアを知るべくおすすめの場所を紹介してほしい」と聴いてみたのだ。すると、「ビルシュトナスに行ってみてください」というではないか。
首都と第二の都市に挟まれた小さな場所に何があるというのだろう。リトアニアに行く日程を伝えると、在日リトアニア大使館が現地へ連絡してくれ、ビルシュトナス観光協会からメールが来た。
「8月15日から17日まであなたの日程はこれです」びっしりと時間単位で計画されている。私のために企画してくれたので、全ての行程を消化しようと心に決めたのだった。

実際の予定表

予定表には16日まで書いてあるのだが、実際には17日の朝まで予定は実行されたのだ。
唐突な感じが実にリトアニア的だ。
思えば、リトアニア人はバルト三国の中ではラテン系(これは私が個人的に思っていること)だった。いや、ラテン系というものがどういうものか怪しいところだが、基本的には明るく前向きで、とにかく「やる」と決めたら「前向きに」実行する人々だった。さっさと決めて計画通りに動きたい私にとっては、リトアニア人はバルト三国の中で一番仕事のしやすい国だった。
前に出会った人々の積極的な行動を忘れていたが、この予定表を見てリトアニアを思い出した。

首都ヴィリニュスからバスに乗って目的地であるビルシュトナスに向かう。ビルシュトナスツーリズムインフォメーションセンター( Birštonas Tourism Information Center)のルータさんが待ち合わせのバス停留所に颯爽とキックバイクで登場すると、これまた熱烈な歓迎をしてくれた。ほぼバス停という近さのイタリアンカフェ「Mažoji Italija」へ。リトアニアでイタリアンとは、興味深いと思いながらメニューを見ると、イタリアから直輸入したというこだわりのコーヒー豆や食材が店に並んでいる。

ルータさんがご馳走してくれたレモンタルトとアイスカフェラテ

なんでも、オーナー夫妻はイタリア好きが高じてイタリアンカフェをオープンしたそうで、イタリアンスイーツも全て本格的なものばかりだった。
「仕事のできる女」とその立ち居振る舞いからわかるルータさんが、太っ腹にもご馳走してくれたはっきりとした甘いレモンタルトは、ビルシュトナスに来た実感が湧かない私の脳にガツンと「しっかりしろ!」と訴えているかのようだった。

そして、彼女がおもむろに袋から取り出したのは夏のリトアニアのビタミン補給として君臨しているブルーベリーだ。日本のカフェなら「持ち込み」ご法度だが、ここビルシュトナスでは歓迎されているかもしれない。どこに置こうかと迷っている間にカフェのオーナーさんが懇意で出してくれたお皿に山盛り投入した。このブルーベリーが脳天直撃のレモンタルトの甘さを見事に中和した。新鮮なブルーベリーの爽やかな酸っぱさは私の救世主となったのだ。

新鮮なブルーベリー

流れるように自己紹介が終わり雑談になった頃、アコーディオン職人の工房を営む夫妻が車で迎えにきてくれ、「これ持っていきなよ!」とルータさんが持ってきてくれたブルーベリーを空のコーヒーカップの中に入れ、押し付けられた。アツくて半ば強引だが、そういうところも私は嫌いじゃない。「これはホテルに帰ってからゆっくり食べるとするか」と算段した。
ここでルータさんは私を夫妻に預け、キックスクーターに再び乗り風のごとく颯爽とどこかに消えていったのだった。

そうして、迎えにきてくれた彼らの紺色の年季が入った車のドアを開けると「さあ、これからビルシュトナスを知る時間が始まるのだ」と高揚感に包まれたのだった。

2へ続く

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