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カウナスの「芍薬園」

植物園に行くことが好きな私は、旅に出かけると時間があれば、植物園に向かう。
リトアニアのカウナスという国内第二の都市に植物園があることに気づいた。カウナスはリトアニアの首都ヴィリニュスに比べて人が少なくて街がのんびりしているところが好きで、取材と取材の間にカウナスをうろうろしていることが多かった。
この日は何も予定がなかったので、カウナスの中心地からバスで30分程度離れた植物園(VDU Botanical Garden)に行くことにした。
6月下旬に差し掛かる頃だったのだが、その日は日本の真夏と同等負けないかんかん照りのとても暑い日だった。最寄りのバス停とスマートフォンが指し示した場所で無事降り、そこから植物園に歩いて10分程度の道のりを遅い足取りで進んだ。

植物園の入口付近

植物園に着くとすでにこの暑さに負けずに来た勝利者が入場券を購入していた。植物園に入るとすぐに芍薬が一面に咲き乱れている場所が広がっていた。種類はよくわからなかったが、白、ピンク、濃いピンクなど。花びらは支えきれるかというほどの大きなものから、シンプルなタイプのものまで、リトアニア中の芍薬の種類を集めたのではないかという見事な芍薬の畑だった。(花壇というより、芍薬と芍薬の間を歩けたので畑としておく)

芍薬の海原のようなエリアから少し奥に歩みを進めると次はバラ園である。6月にもなると日本ではバラの2番花が咲くタイミングであるが、バラはおそらく1番花の残党が残っている状態で、遅めに咲いたバラがポツポツと美しく咲いていた。その中で蜂たちが懸命に蜜を採ろうと、彼らなりに仕事をしていた。

バラコーナー

蜂たちの仕事の邪魔にならぬように、バラ園のさらに先へ入っていくと今度は小さめの白い芍薬が芝生のエリアを縁取るように満開になっていた。
直射日光か強すぎて、リトアニアとは思えない程の暑さに涼を求め、芝生のエリアにいくつかある木陰のベンチに腰をかけると、芍薬のものと思われる甘い香りが漂っていた。

「植物園に入ってから芍薬しか見てないんじゃないか?」木陰でクールダウンして少し冷静になった私は気づいた。気づいてしまったのだ!

白い芍薬

芍薬は日本の我が家の庭にもあるのだが、5月ほんの3日くらいが見頃で、その一瞬だけ、非常に美しいのである。その前でもその後でもない。その前は団子のような蕾が付き、その後は花びらがシワシワになったり、花びらが茶色くなって焼けたように変化して衰えていく。冬は土の下の球根が芍薬のエネルギーを蓄え、養分を得ながらようやく長い冬が終わり夏に近い春になった時に一気に養分を発散する。その一瞬のためだけに芍薬は地面の下にいるのだ。

芍薬しか見ることができなかった、あの時期だけの「芍薬園」はもしかすると貴重な体験だったのかもしれない。
「芍薬しか見られなかった」とも言えるのだが、「芍薬だけを一生分見まくった」と、ありがたがることの方が旅は数倍楽しい。


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