見出し画像

リトアニアのビルシュトナスに行ったワケ・2

1の前回からの続きになります。最初からご覧になりたい方は↓からとうぞ。

ビルシュトナスがどれくらいの街の規模なのかもわからず、車に乗せられると、ゆっくりと車窓は街の中心地から外れて郊外へと向かう幹線道路に出た。その道もそれほどの車の量でもないが、少しだけ街の中心よりは飛ばしている車が多いと感じる。バルト三国でよく見る真っ平らな土地に広がる緑をしばらく眺めていると、舗装もあまりされていない砂利道に入って進んだ。車が最徐行をした先は道がない。そこがこの夫妻の工房なのだ。

真新しい平屋の小さな工房は、何か新しいことを始めたいと、一念発起して1年半前から初めた夫妻のビジネスの拠点なのだ。夫のアウリマスさん、妻のアウシュタさんの二人三脚でアコーディオンを作っている。

アウリマスさんと工房

リトアニアの夏は涼しいと思いきや、暑い日もかなり続くので表には室外機が鎮座している。温暖化は日本と同じように年々夏を過ごすのにはどこでも厳しい。
工房に入るとふわっと木を切った時の香りがする。学校で工作をしたときの香りに似ている。「ここでアコーディオンを作ってるんだよ」アウリマスさんは楽しそうにアコーディオンで演奏してくれた。
「僕たちが作っているのアコーディオンは、ダイアトニック方式なんだ」アコーディオンの知識皆無の私はアコーディオンに「方式」があることなど知らなかった。そんな私にも分かりやすく説明してくれた。
「そうだ、そういえば私が知っているアコーディオンはもっと小さなボタンが無数にある」アウリマスさんが手にするアコーディオンのボタン数とこれまで見てきたのアコーディオンのイメージを思い浮かべた。
伺うに、アウリマスさんは13年前に当時MP3と交換でもらったアコーディオンを触ったことがこの楽器との出会いで、そのうち段々とその魅力にハマっていったと語った。彼のアコーディオンの調子が芳しくなかったため、修理をしていき、他人のアコーディオンを修理することになり・・・むしろ作ってしまうようになったというのが工房を開くに至った経過だそう。

ダイアトニックのボタンは近いボタンの移動で演奏が可能になるというもので、演奏しやすいのがポイント。工房を開いてからこれまでに12台を制作したと教えてくれた。
「リトアニアでは唯一僕たちがアコーディオンを作っているんだよ」誇らしげに語るアウリマスさん。彼らはイタリアの工房やパーツのメーカーに訪問するなど研究し、帰国してリトアニアで工房を開いたのだった。

アウリマスさんが制作したアコーディオン

部品ひとつひとつを手で作り、治具を使ってほんの少しのずれも許されない工程を経て音階を確実なものにする。

振動板
アコーディオンの布もアウシュタさんのこだわりで丁寧に貼っている。

およそ、アコーディオン1台完成にはに2ヶ月かかるそうだ。木の風合いを生かしたマットなアウリマスさんたちのアコーディオンの外観は派手な存在感を主張するというよりも、木の質感の温かみ、そして主役である演奏家に馴染むものだと感じられた。
アウリマスさんのアコーディオンで演奏する音色は以下の動画↓

二人の工房は現在リトアニア国内から多く受注があり、2025年までの注文に応えるため多忙な毎日を過ごしている。
現在、二人でアコーディオンの作り方を教える教室も開いており、アコーディオンの普及活動を精力的に行っているそう。

緑豊かな庭で演奏中のアウリマスさん

アウリマスさんの工房の隣には二人の両親家族がそれぞれ住んでおり、子供や親戚の子供たちが滞在していた。庭に生えているラズベリー、ブラックベリーを採っては車で通る人たちに売ってお小遣い稼ぎをしているそう。幼い子供たちが売っていると買わざるを得ないというのが作戦だそう。幼さを売りにするのは賢い。

少女たちに勧められたら断れない小さなお店
販売中のベリー

街の中心まで送ってもらうときに、売れなかったベリーを持たせてくれた。すでにブルーベリーが紙コップ一杯分あるというのに!
「ひとりで食べきれないよ!!」と悲鳴を上げながらまた押し付けられたのだった。
もう一度言うが、このリトアニアのアツさは嫌いじゃない。

そして3へ続く↓

旅の珍道中そして、普通のバルト三国の人々の料理を教えてもらったレシピが掲載されている拙著『バルト三国のキッチンから』(産業編集センター)発売中です。お近くの書店、オンラインでご購入できます。



この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?