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リトアニアのビルシュトナスに行ったワケ・6

琥珀サウナから、マッサージを経て体がふわふわになった次はサナトリウム併設のビュッフェディナーで甘やかし癒された。お腹がいっぱいになった頃、ビルシュトナスインフォメーションセンターのルータさんがロビーに迎えにきてくれていた。予定表をもらっていたのに、次から次へとどんどんやることが追いかけてくるので、ほとんど見ていなかった。とにかく案内されるがまま、引きずられるかのようについて行く。
次はなにがあるのか。ルータさんの車でホテル近くの大きな広場の駐車場向かった。

気球に乗るのだ。

Audenis Balloonsのスタッフの方が3人、1台は気球を乗せた車と牽引車、そしてもう1台の追跡車があった。
この日私以外に気球に乗るのは、リトアニアからアメリカに移住した一家5人だった。つまり乗客は6人そして気球の操縦士が1人。

気球と牽引車

操縦士から安全について説明をしっかりしてもらい、気球のスタート地点まで川の近くの広場までさらに移動した。

畳まれた気球の球皮を広げる

気球の球皮を広げ出すと近くにいた野次馬が興味津々になって集まってきた。広げる時には球皮に傷をつけないように、スタッフの4人が丁寧に広げる。我々乗客は手伝えるのはこの後、球皮に空気を入れる作業の時に広げやすいように手伝う。

大きな扇風機のようなもので空気を入れる
バーナーから出る火でさらに膨らませる

さて、ほとんど飛び立てる大きさに球皮が大きくなったら、にわかに慌ただしくなってきた。我々乗客が乗り入れるのだが、バスケットの中は操縦席と大人乗客が3人が立てる程度のスペースが2つあり、それぞれ分かれている。
そこに全員が急いで乗り込み、バーナーでさらに球皮の中を温めてパンパンに膨らませると、ゆっくり地上から浮き上がる。

動画はこちら↓

ビルシュトナス近くに流れるネリユス川

だんだんと浮いてくると、飛行機などとは違うゆったりとした速度で横移動を始めた。次の街であるカウナスがうっすらと見える。↓動画ご覧あれ

その日によって飛ぶ方角が変わる。もう一台の車と無線で連絡合い、地上からスタッフが追随するといった具合で飛行する。この日はカウナスの方向だと教えてくれた。
この日は8月中旬だったが、畑はライ麦が収穫され、緑は少ない。聴くと春が最も大地が美しいとのこと。春とは日本の感覚のそれとは違い、リトアニアの5月のことと思われる。リトアニアの春は一瞬だ。夏は6月から8月までなのだから。
ありがちな話かもしれないが、飛行機や新幹線のような速度がある乗り物とまるで見る景色が違う。ゆっくり風に任せ時には風を使い方向を変えて、しかしながらある程度はその日の風の向くままに委ねることは、人間の力ではコントロールできないものを感じることができる。どこにどのように着地するのかも誰もわからない、これまでに体感することはなかったことだ。

地平線に落ちていく夕日

日没に差し掛かるとオレンジ色に変わる夕日が燦々と我々の顔を照らし、太陽の存在を主張しているかのようだった。真っすぐなリトアニアの地平線は太陽をゆっくりと吸収していくかのようだった。そして、次の太陽は東から平らなこの大地を照らすのだ。今私たちが照らされている夕日と違う色で。

地面が少しずつ近くなってきたことと、車で先回りしている援護車が見えた。「そろそろ着陸だから、屈んでくれ」とすると私が乗っていた側から先にライ麦畑の真ん中にバスケットの縁を擦りながら速度を落とした。
操縦士さんが、「これまでにないくらい穏やかな着陸だったよ」と教えてくれた。

着陸した気球のバスケット

下段にいた我々が先に出て、それから上段にいた人が這い出た。なるほど、だからバスケットは2つに分かれていたんだなと理解できた。
着陸した場所は畑の真ん中。ライ麦は刈り取られ何もなかったが、他人の土地なのではないかと私は若干不安になった。しかし、誰も心配すらせず、他人の畑に車を乗り付けて気球を片付けるのだった。

気球が到着した場所

夕暮れ直近の空の色は写真で見ても美しい。畑の真ん中に堂々と着陸できるのはリトアニアならではではないだろうか。
旅は飛行も着陸も全て風まかせ。緻密な計算だけでは達成できないスリルある経験もまた人生で必要なものかもしれない。

次回の7は、2日目のビルシュトナス。
街のシンボルで息切れしそうになったり、ビルシュトナスの市政府にいくなど濃厚な2日目もお楽しみに。

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