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文フリを終えて

 文学フリマ東京37が終わりました。当日わたしたちのブースにいらっしゃった方、いらっしゃったばかりでなく『BNNCLB3』を手に取ってくださった方、あるいはお買い上げいただいた方、誠に感謝申し上げます。特に既刊の感想や普段の創作についての感想をおっしゃってくださった方には、非常に勇気をもらいました。来年も出ようと思います。

 文フリとはあまり関係がないのですが、わたしたちバナナ倶楽部はこういう小説を書いていくべきなのではないかと思えるようなニュースがあったので、今回はそれについて書いた日記を上げようと思います。

 皆さんは〝無許可バナナ〟のニュース見ましたか?


11/14

 泊まりがけで出かけていた同居人が帰ってきたので、土産話などを聞いた。ひとしきり話したあと、あっという間に寝てしまった。同居人は寝つきがかなりいい。僕はというと日記を書きながら〝無許可バナナ〟に想いを馳せている。福岡県久留米市の道路の中央分離帯に植えられていた三本のバナナの木、通称〝無許可バナナ〟が今日伐採された。中央分離帯でバナナを勝手に栽培する行為は道路交通法違反に当たるという。近隣に住む男性が二年前に植え、毎日欠かさず水をやり続けて大きく育った三本のバナナは今日、バナナをここまで育ててきた男性自らの手で伐採された。男性はまだ青い実をひと口食べて、「口のなかの水分持っていかれる」といってすぐに吐き出してしまった。伐採されたうちの二本は同市内の八十代男性宅へ。「家族に自慢したい」と語る八十代男性。残る一本は、バナナを植えて伐採した男性から知人男性のもとへ。「誕生日プレゼントだといわれて受け取ったらバナナだった。バナナに罪はない」と語る知人男性。バナナが紡ぐ友情。心なしか筆が乗っているように思えるニュース記事を見て、これは「バナナ倶楽部」を名乗って文学フリマに出ている僕が書くべき物語だったのではないかと思った。でも〝無許可バナナ〟は物語ではなく現実に植えられ、既に伐採されてしまった。僕がちんたらしているうちにこんなことが起こってしまった! 書け、現実に追いつかれる前に!


11/15

 今日も〝無許可バナナ〟のことを考えていた。あらためてすごい話だと思った。景観をきれいにしたいという理由で車道の中央分離帯に三株のバナナを植え、その後毎日欠かさず水をやり続けていたという男性が、最後には市に伐採を命じられ、「切腹するような、涙がちょちょぎれる」といいながら三本ともきれいに伐採したあと、ためしに一本食べてみてすぐに吐き出し、「口の中の水分取られますね、乾ききったスポンジ食べてるみたい」とつぶやくまでの二年間。同居人は「映画すぎる」といっていたが、まさしく二時間くらいの映画になりそうで、その映画はまず男性が三株のバナナを手に入れたところから始まる。男性がどうして中央分離帯を選んだのか、その理由が語られることはなく、彼が毎朝家でじょうろに水を汲み、家から少し離れた車道の真ん中までそれを持っていく姿が丹念に描かれる。車道は車通りも多く、秋には台風がいくつも通過し、冬の寒さはバナナにとって厳しすぎる。しかし男性の不断の水やりによって三本のバナナは順調に育ち、二年目を迎え、いかにも南国の木らしい大きな葉をつける。
 男性は毎朝の水やりのあとどこかへ仕事をしに行っているようだが、それが描かれることはない。映画はあくまでバナナを中心に進む。バナナにとっても暑いのではないかと思うほどの夏を迎え、ついに青い実が上に向かってなりはじめる。しかしここで映画は急展開を迎える。ある朝、男性はじょうろの代わりにはさみを手にしている。「ごめんなあ」、涙を流しながらはさみを動かす男性に、しかしバナナたちが言葉を返すことはない。水やり同様に丁寧な伐採によって、中央分離帯にはすっきりとした見晴らしが戻る。道路脇に横たえられたバナナからまだ青い実を取り、ゆっくり剥いてかじる男性。しかしすぐに吐き出して、「口の中の水分取られますね、乾ききったスポンジ食べてるみたい」と、まるで横にカメラがあるようにつぶやく。暗転。
 そのまま終わるのかと思いきや、また画面が明るくなる。カメラは件の中央分離帯を映している。男性はもういない。バナナの木ももうない。ひっきりなしに車が通る。やがて車の速度が速くなる。映像は早送りされている。いくつもの夜が訪れ、朝が訪れる。夜と朝の訪れさえもやがてコマ送りになり、尋常ではない早送りのなかで、徐々に周囲の建物が荒廃していくのが見える。やがてなにもなくなった荒野、ずっと昔に中央分離帯だったその場所に三本の木が生えてくるところで映画は終わる。許可もなにもない世界に三本のバナナだけが生えている。──そうやって映画は終わる。きっと賛否両論分かれることだろう。賛否両論分かれるとき、僕はだいたい賛のほうなので、きっとその年のマイベストテンに入れてしまうことだろう。
 ところで同居人は今日会社から出るときにエレベーターの隙間にスマホを落としたらしい。その旨を社用携帯から連絡してきたので、さぞ落ち込んでいるだろうと急いで帰ったが、意外にけろっとしていた。その後エレベーターの運転を停止してスマホは救出されたそうで、もうバキバキに割れておそらく使い物にならなくなってしまっていたのだが、そのショックよりも、まだ上司が帰っていないのにエレベーターを止めてしまって申し訳なく思う気持ちが勝っていそうだった。でもそんなこともすぐに忘れて、〝無許可バナナ〟の記事を再読しながらめちゃくちゃ笑い、あげく涙ぐんでいたのでたくましいと思った。

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