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大切な命

学校火災の現場で消火避難誘導をした経験は以前書いた。

あの日、校長は校長室にいた。
非常時に校内放送は校長室のみ発信になる。情報が交錯するからだ。
校長は機能しなかった。
校長室に飛び込んだ教員が非常放送をした。
教頭(当時は副校長という役職はなかった)は消火器を持って現場に駆け付けた。
この文章の教頭のモデルは実在する。

校長は火災現場に来なかった。校長室から出なかった。だからほとんどの職員は「校長は不在だった」と思っている。

全生徒が火災現場から一番遠い体育館に避難した。
そこにも校長は来なかった。校長からの指示は生徒指導部主任が行った。
「すでに放課後だった三年生と、現場隣の棟の二年生は帰宅。現場から遠い棟の一年生は午後も授業を続ける」

一年生が怒った。自分らもショックを受けている。煙も吸った。平常心で授業が聞けるか。
校長室に抗議に行った集団もいた。
校長は出てこなかった。生徒指導部主任が「校長先生はいないから」と追い返した。

そんな状況なので翌日全校集会で、火災について説明することになった。

管理部ストーブ管理担当は私だった。

まず校長が言った。説明の中で「新聞沙汰にならなくて本校の名に傷がつかなくてよかった」という発言があった。
体育館の最後部の男子生徒が「結局、世間体かよ」と言ったそうだ。後から聞いた。

火災を出したクラスの担任から火災の説明。
ストーブがちゃんと消えていないうちに給油を始めてしまったのが原因。
自分は教室の反対側で他の生徒と話していた。
上着を脱いで炎をたたいて消そうとしたが、それで消える状況ではなく、避難に切り替えた。

最後に自分が壇上に立った。
ストーブの使用法について厳重に注意しろと命じられていた。

注意?
生徒らが求めているのは違うんじゃないか?
何が起きたのか。
私は私の言いたいことを言う。

「ボン!」という爆発音で私が駆け付けたとき、
ストーブから約3メートルの炎が天井まであがり、
ストーブの周りには直径1メートルの石油の水たまりができていて
その石油だまりは満タンの灯油タンクに続いていた。
天井の蛍光灯がパリン、パリン、と割れていき、
廊下と教室の間の窓ガラスがピシッとひび割れた。
爆発の可能性が高く、消火より避難を優先した。
電気系統からのさらなる延焼を防ぐために業務員さんが電源を落として
全員の避難を確認して防火シャッターを閉じた。
直後に第二の爆発が起きた。
先生方と業務員さんが消火器を持って防火シャッターの中に入り、
消火することができた。
消火活動した先生方の人数は不明。煙でお互いの顔も人数もわからなかったとの話だ。
消えてみると、石油のポリタンクがぺしゃんこになっていたそうだ。

わかるか?死者負傷者が出なくて本当に良かった。

私はこの学校のストーブ管理代表としてここに立っている。
ストーブの使用は細心の注意を払え。
放課後勝手にストーブを使うな。
必ず許可をとれ。
何かあったらすぐ逃げろ、職員室に知らせろ。
無断でストーブを使っていて昨日のようなことが起きたとき、

「あんたたち、自分らで消そうとするでしょう?
そんなことして、
かわいいあんたらが死んじゃったらどうするの?!」

以上だ。

火災は私にとって今でもトラウマだ。
その後色々あったからな。

火事を出した学年の卒業式、式のあとの「卒業生の会」で、
火災クラスのストーブ係が全卒業生の注視の中で担任に向かい

「先生!火事おこしてすみませんでした!」

と言った。みんな笑った。

誰も犠牲者が出なかったからだ。

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