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#白熊ぽん:ポケットの手袋(川柳→SS)

「焼きいも屋さんは高くて小さいのよ」
そう言って君はドンキの焼きいもを買い、半分を僕に渡した。
あの時は僕らは友人だった。近所が近いだけで親しくなった幼なじみ。高校が同じなのは偶然にすぎない。

けれど、君のお母さんが亡くなって、放課後泣いている君を抱き寄せたときから、僕たちは恋人になった。

大学が同じだったのは偶然じゃない。ふたりで勉強したっけね。

恋人になって最初のクリスマス。君はマフラーを編んでプレゼントしてくれた。僕のマフラーがグレーで君のマフラーがオフホワイト。
次の年はセーター。その次が「小さいものを編む方が難しいんだから!」と手袋。そして次の年が毛糸の帽子。僕のはシンプルなデザインなのに、君の帽子は猫耳だった。「かわいいでしょ?」と言われて頷いたのは帽子じゃなくて君がかわいかったんだ。

家までの道を遠回りで帰るのは、少しでも長く君といたいから。
公園を突っ切る近道を帰るのは、雪だるまを見て君と立ち止まるから。

四つの冬をふたりで歩き、ずっと一緒だと思っていた。
そう、君が死ぬまでは。

お母さんと同じ病気。
「あなたを遺して逝くのがつらい」
君の目から涙がこぼれる。
「忘れていいから、幸せになって」

忘れられるだろうか。ポケットの中にオフホワイトの手袋。その手袋をグレーの手袋で握り締め、忘れられないだろうな、と思う。

ポケットの中はいつまでも君の場所。


昨日は画像生成しましたが、ショートショートにもなるなぁと思って。
元の句は三句です。

猫耳の帽子編みあげ越せた年
焼き芋よあの娘(こ)の弱み知ってるか
手袋をはめたどうしでつないだ手

ひろ生さん

企画はこちら

【白熊杯スピンオフ企画】白熊ぽん〜二次創作のお誘い。【1/20から】|rira |白熊杯 @rira_kyara #note

ありがとうございました!

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