橋本杏子 ピンク映画界最大のアイドルスター!
皆さんお元気ですか?
派遣労働者として働き出して数か月。頑張っても失敗つづきで怒られてばかり。白髪も目立ちだす年なのに職場で泣いてしまったtanosiikagakuです。
地元に友だちも恋人もいないし、法的に許されるなら愛猫のナナちゃんと結婚したいくらいです(ナナちゃんが承諾してくれないかもしれないけど…)。
早朝から働いて疲労困憊して帰宅しても、何もやる気になれない。シネフィルだからせめて映画を観たいけど、まっとうな芸術もエンターテインメントも受け入れる元気はない。
そんな時にもピンク映画の「汚れと気楽さ」は、私に静かに寄り添ってくれます。今回も心の支えになってくれている女優と作品にささやかなオマージュを捧げたいと思います。
あどけなさと妖艶さが同居した本格派ピンク女優
蝋燭の灯る幻想的な部屋の中で見つめ合うセーラー服の少女と男性教師。
頬を赤く染める少女を女にするべく巧みにリードしながら挿入する教師…しかし少女が絶頂に達しようとしたその時、教師は突如絶叫し泡を吹いて倒れる。なんと少女の殺人的な膣圧にペニスがつぶされてしまったのだ!!
自分の招いた惨事に驚愕する少女。
「バカモノ!」その夜、父親はちゃぶ台をひっくり返し、少女のスカートを脱がせた。そこには黒光りするグロテスクな器械が!
「これを外して男に抱かれたのだな!…名器三段締め養成ギプスを外したお前の性器がどんなに恐ろしいものであるか、相手は予想だにできなかったはずだ」
「ヒドイ父上!どうしてこんな仕打ちを?」
娘の問いには答えず、彼女の股間に林檎を押し付ける父。
抵抗しながらも、見事股間で林檎を切り刻む娘。
「もはやこれは凶器なのだ。私たち親子は復讐を果たすまでは人並みの生活は捨てなければいけないのだ。愛だの恋だのふやけたことを言っている暇があったら、卵つぶしや、バナナ切りの特訓を続けるんだ!」
涙をぐっとこらえながら父親の説教を聞く少女の表情が切ない…。
こんな色んな意味で壮絶なDV描写から始まるのが渡邉元嗣監督『スケパン刑事 かわいい名器』(初公開時のタイトル『ねらわれた学園 制服を襲う』。ちなみにシナリオ題は「戦いの鐘は黄昏に鳴る」という)。
この後この不憫な少女・麻宮未来は父親の使命で都内の三流高校「愛染学園」に転校。そこで暗躍する陰謀を粉砕すべく、鍛え上げた名器と電動バイブのついたケンダマを武器に戦いに身を投じていきます。
わかる人には一目瞭然なように、本作は「スケバン刑事Ⅱ 少女鉄仮面伝説」のパロディ作品です。
有名作品をネタにしたパロディポルノ自体は大して珍しくはありませんが、本作の場合カメラワーク、役者のテンション、音楽や効果音までを徹底的に引用するという超絶技巧を実現している点で、凡百のパロディを凌駕する「ホンモノ」の熱気が溢れています。
「映画」においてあえて「TV」的意匠のスペクタクルを突き詰めてみせた結果、まごうことなく「映画」になってしまったような痛快さが本作にはあり、ほぼ同時期に『変態家族 兄貴の嫁さん』で全編小津映画の引用を実現した周防正行と同じ批評的な地平に渡邉元嗣は立っていた、と言えなくもないでしょう。
とはいえ、本作は主役の橋本杏子の圧倒的な魅力がなければ成立していない作品でもあります。
生まれたときから鉄仮面を被せられて育てられた「スケバン刑事Ⅱ 少女鉄仮面伝説」の南野陽子の境遇と互角の不幸を背負ったひたすら不憫な少女として登場する彼女が、度重なる危機に体ごとぶつかっていくうちに積極的に自分の運命を受け入れて成長していく姿は、笑いと共にある種の爽快感を生み出します。
そう、これはコメディであり、ポルノでありながら王道の青春映画でもあるのです。
敵に名器でとどめを刺した直後の彼女の切なそうな表情や、最後に見せるとびっきりの笑顔に惚れない人はたぶんいません。
今後暴力以外の用途で自慢の名器を生かせる、ステキな人生を送ってくれることを願わずにはいられません。
橋本杏子は当時20歳。あどけなさと妖艶さが同居した美貌と巧みな演技力を買われ、80年代半ばから90年代初めを中心に膨大な量のピンク映画やAVに出演しています。
その軌跡の全てを追うことは現在では難しいですが、FANZAのピンク映画chでは『スケパン刑事 かわいい名器』を含む56本の出演作を観ることが出来ます。
まず橋本杏子入門編としてお勧めしたいのは、『乙女の挑発パンティー』や『エイズをぶっ飛ばせ 桃色プッツン娘』『お元気クリニック・立って貰います』『トリプルエクスタシー けいれん』など、『スケパン刑事 かわいい名器』と同じ渡邉元嗣監督とコンビを組んだ作品。渡邉作品は『スケパン刑事 かわいい名器』以外も快作・怪作ぞろいで、怨霊と闘う探偵役や新宿の歩行者天国の真ん中でチャンバラをする女剣士役など、独特の奇想に彩られた世界で楽しそうに演じる橋本杏子のアイドルスターとしての魅力を堪能できます。
演技派女優としての彼女の実力がわかる逸品としては、精神病院で催眠療法を受ける主婦を熱演した、40年代のフィルムノワールを思わせる実験的作品『赤い暴行』(前回取り上げた曽根中生監督作品とは無関係の深町章監督作)、平凡な結婚を望み、男に尽くす女性の孤独を繊細に演じた『本番ONANIE指戯』なども推したいですが、やはり金子修介監督の傑作ロマンポルノ『ラスト・キャバレー』は外せません。
営業不振と都市開発のために閉店間近のキャバレーに、当時終焉を迎えつつあった日活ロマンポルノの姿を重ね合わせたこのノスタルジックな作品で、橋本杏子が演じたのは閉店二週間前に店で働き始める新人ホステス。
彼女は本番も辞さない「ヌキ」に特化した独自の大盤振る舞いのサービスを始めることで大評判を呼び、店につかの間往年の輝きを取り戻させます。
何食わぬ顔でエロティックな行為を実行していく彼女の姿は、下品どころか気高い輝きすら帯びていきます。
金子修介監督は、日活ロマンポルノへの挽歌を奏でる一方で、当時ピンク映画界で飛ぶ鳥を落とす勢いだった彼女の中に新しい世代への希望を見出していたのかもしれません。
他に注目作品として、全編女性しか登場しないファンタジックなカルト作品『レズビアンハーレム』、のちに彼女と結婚することになる笠井雅裕の監督デビュー作『いんらん姉妹』、アカデミー賞監督滝田洋二郎による超変態ホラー『ザ・マニア 快感生体実験』も挙げておきたいと思います。
橋本杏子が活躍した時代、ピンク映画は産業としては下り坂に差し掛かっていたかもしれませんが、意欲的な作り手によるユニークな作品が多く、その中心には間違いなく彼女の存在がありました。
今や観ることのなかなか叶わない作品も含めて、そこにはまだ見ぬお宝が眠っているはずです。
ピンク映画に馴れ親しんでいない人は、まずは彼女を足掛かりにしてこの広大なフィールドに足を踏み入れてみてはいかがでしょうか?
作品情報
『スケパン刑事 かわいい名器』
監督: 渡邊元嗣
公開年:1986年
FANZA視聴ページ:下記リンクより視聴可能
『乙女の挑発パンティー』
監督: 渡邊元嗣
公開年:1986年
FANZA視聴ページ:下記リンクより視聴可能
『エイズをぶっ飛ばせ 桃色プッツン娘』
監督: 渡邊元嗣
公開年:1987年
FANZA視聴ページ:下記リンクより視聴可能
『お元気クリニック・立って貰います』
監督: 渡邊元嗣
公開年:1988年
FANZA視聴ページ:下記リンクより視聴可能
『トリプルエクスタシー けいれん』
監督: 渡邊元嗣
公開年:1988年
FANZA視聴ページ:下記リンクより視聴可能
『赤い暴行』
監督: 深町章
公開年:1987年
FANZA視聴ページ:下記リンクより視聴可能
『本番ONANIE指戯』
監督:米田彰
公開年:1988年
FANZA視聴ページ:下記リンクより視聴可能
『ラスト・キャバレー』
監督:金子修介
公開年:1988年
FANZA視聴ページ:下記リンクより視聴可能
『レズビアンハーレム』
監督:細山智明
公開年:1987年
FANZA視聴ページ:下記リンクより視聴可能
『いんらん姉妹』
監督: 笠井雅裕
公開年:1988年
FANZA視聴ページ:下記リンクより視聴可能
『ザ・マニア 快感生体実験』
監督: 滝田洋二郎
公開年:1986年
FANZA視聴ページ:下記リンクより視聴可能
今月のPick Up!
評価の基準ですが、以下のようなものです。
🌟🌟🌟🌟🌟…最高!いますぐ抱いて!
🌟🌟🌟🌟…スキ!つきあって!
🌟🌟🌟…いいお友だちでいましょう。
🌟🌟…まあお願いされたら考えなくもないけど。
🌟…はあ、一度鏡見てからもの言いな。
『平成SMファイル』
🌟🌟
ノリは完璧に深夜のテレビ番組。やたらヘラヘラ笑う安手の水着ギャル三人組を相手に、SMクラブの女王様や緊縛マニア、SM雑誌編集者などがSMの奥義についてレクチャーしていく教養ビデオ。
特に想像を超えるものが映っているわけではないが、今は失われてしまった平成カルチャーの軽薄な雰囲気は奇妙な郷愁を誘う。
日本にSMが広まった歴史を大仰なナレーションと人形などをつかって紹介するパートが妙に凝っていて見応えあり。
監督の古谷雷太は、のちに瀬々敬久『HYSTERIC』や楳図かずお『マザー』の制作を担当しているようだ。
FANZA視聴ページ:
『女パチンカーの性行動』
🌟🌟🌟
CR機の導入などを機に女性客が急増した90年代後半のパチンコ事情が知れる貴重な(疑似?)ドキュメンタリー作品。
パチンコ雑誌編集者やパチンコ専門ナンパ師、パチンコにハマって借金を作った主婦などがモザイク越しにパチンコと女の関係について滔々と自説をしゃべる胡散臭さが味わい深い。あの喧しい空間で、日夜ここまでゲスな女と男のドラマが展開されていたとは!
「パチンコとセックスにハマった女たちは、その下半身を武器に、今日も各地で大フィーバーしているのであろうか」という締めの言葉が素晴らしすぎる。脚本はベテラン女性脚本家の五代暁子。
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『生撮りプライバシー 本気汁の撮影ごっこ』
🌟🌟🌟
平野勝之作品でお馴染みの特殊AV男優杉山正弘が、性文化評論家 杉山信義としてたどたどしくレポートする素人たちのセックス撮影の世界。
目元にモザイクが入っているものの、出張セックスカメラマンとして登場するのは明らかに渡邉元嗣作品常連俳優のジミー土田である。
どこまでがフィクションでどこまでがリアルなのか。8割方嘘っぽいが、一片の真実くらいはあるのかもしれないと思わせる良質のモキュメンタリー作品。色々御託を並べながらも、「セックスを撮影する人は単なる変態」と最終的にばっさり切り捨てるのにはびっくり。
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『義妹不倫 里帰りの夜に』
🌟🌟
亭主の茨城の実家に里帰りした、とりたてて魅力のない若妻が、これまたとんでもなく朴訥とした中年の義兄と迎える禁断の関係。
風光明媚とも印象的だとも言いかねる単なるド田舎を背景に、言葉少なく淡々と青姦をキメる二人。
官能的な高まりもロマンティックな情感も呼び寄せないが、妙なリアリティが漲る映像には、日常の延長線上にある「普通の」近親相姦とはこういうものなのかもしれない、と妙に納得させられる。
でもそれだけ。
ヒロインの心の声を代弁する名女優 里見瑤子のナレーションだけは艶やかである。
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『OLセクハラ調教 男の本能 女の本性』
🌟🌟🌟🌟
これはいい!部長代理に弱みを握られ、どんどんエスカレートしていくセクハラ行為にじっと耐え忍んでいるうちに、次第に女性の心に芽生えていく被虐の快楽。
篠原さゆりの巧みな表情と肢体の演技は、この官能小説風のファンタジーに確かな実存感を与えている。
その複雑な心身の変容を微に入り細を穿って描写する女性ナレーションとの相乗効果もまた、絶大なエロさを醸し出している。
2000年の作品だが、これは目と耳で体感する新たな文学的映画の可能性を提示した重要作だったのかもしれない…。
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