『地域福祉の今を学ぶ:理論・実践・スキル』妻鹿ふみ子編著. 2010

全体的にいろいろ詰め込んだ分「薄さ」を感じる本。

◆目次

はじめに

第Ⅰ部 理論編――今日の地域福祉を支える思想と理論
第1章 福祉を支える「連帯」という思想を問い直す
    ――個人化、不安定化する地域社会の状況を読み解きながら
第2章 地域福祉の実践者としての市民を育てる
    ――シチズンシップ教育
第3章 地域福祉とNPO・社会的企業を考える
    ――地域福祉の新たなアクター
第4章 地域福祉の核となる中間支援組織とは
    ――そのあり方と課題
第5章 コミュニティソーシャルワークの基本を理解する
    ――地域福祉実践の手法として

第Ⅱ部 実践編――福祉実践活動の諸相
[地域福祉の場とカタチ]
第1章 小地域の福祉を住民がつくる
第2章 住民参加による地域福祉計画を策定する
《コラム》地区社協におけるボランティア活動
第3章 世代間交流で支えあいをつくる
第4章 中山間地域の福祉のあり方を模索する
第5章 福祉施設を拠点にした都市部の地域福祉を展開する
[地域福祉の多様なアクター]
第6章 福祉NPOが主体となって地域の福祉に取り組む
第7章 民生委員がコミュニティソーシャルワークを実践する
《コラム》外国人が支える地域のケア
第8章 アクティブシニアが多彩なボランティア活動に取り組む
第9章 大学生が地域の福祉活動に参加する
《コラム》ジェンダーと地域福祉
[多様な人びとの地域のくらしを支援する]
第10章 障害者の就労を支援する
第11章 子育て支援のネットワークをつくる
第12章 当事者のセルフヘルプ活動を支援する
第13章 認知症高齢者の地域の居場所を考える
《コラム》日常生活の自立をどう支援するか「権利擁護と成年後見」
第14章 外国人住民の生活を支援する

第Ⅲ部 スキル編――実践に使える技
第1章 市民の参加をデザインする
    ――多様なかかわりを生み出すスキル
第2章 組織内のボランティアをもっと活用する
    ――ボランティアの思いとやる気をマネジメント
第3章 コーチング力で地域の関係を紡ぐ
    ――人と人、人と組織をもっと良い関係に
第4章 ファシリテーションで合意形成する
    ――会議と事業展開をもっと楽しくスムーズにする手法
第5章 社会起業家になって地域の課題を解決する
    ――志をカタチにする方法としての起業
第6章 助成金活用の技を磨く
    ――知っていますか、助成金のこと
第7章 ボランティア活動のリスクをマネジメントする
    ――保険だけではないリスク・マネジメント

あとがき/読者のための参考図書/索引


◆内容

はじめに:編者 妻鹿ふみ子

地域福祉とは、単に「地域で行われる福祉」ではなく、今や理念として社会福祉を貫く1本の太い幹となっている。社会福祉基礎構造改革の流れを受け、2000年に社会福祉事業法が改正されて生まれた社会福祉法に、法律上初めて「地域福祉」という言葉が用いられて以降、「地域福祉が主流化した」ないしは「福祉が地域化した」ということを多くの人が認識するようになったことが、そのことを物語っている。また同時に、社会福祉法第4条に、地域福祉の推進がうたわれ、その推進の主体が事業者だけでなく、地域住民やボランティア等であることも明確に示された。いまや地域福祉は住民(市民と言い換えても良いだろう)の参加なくしては推進され得ないものとなったのである。さらに、住民の参加に関しては、2008年にまとめられた厚生労働省の研究会報告書(『地域における「新しい支え合い」を求めて――住民と行政の協働による新しい福祉』)において、「新しい支え合い」の構築に不可欠なものとして、より明確に地域福祉再編の主要な要素として重要視されるようになった。

・・・

このような社会保障の後退と相前後して参加や支え合いへの期待が高まっているのである。参加・支え合い期待論は、以下に示すように、二つの側面から提起されている。

その第1は、「地域福祉のあり方研究会」の報告書に見られるような地域レベルでの住民の支え合いへの期待という側面である。この期待論の背景には、伝統的に地域福祉推進のシステムとして機能してきた地縁組織(自治会や小地域の社会福祉協議会など)を中核にしたネットワークにこれまでどおり依存できるのではないかという前提が少なからずあると思われる。しかし、構成メンバーの高齢化や新規住民の非加入などにより地縁組織自体の力が弱まり、役割を果たせていない地域が少なくないことを考えると、地域福祉を成立させる要素との1つとして住民・市民の「支え合い」を当然可能なものとしてとらえていくことは、期待とは裏腹にかなり困難になってきている。

第2は、市民活動が社会の中で一定の認知を得るようになったことを背景にした、市民が自発的に参加する新しい支え合いの仕組みへの期待である。ヨーロッパでは、職業労働と市民活動とを社会の中で再編成して、多くの市民が有給・無給を問わず、多様な形(日本でいうところのNPO=アソシエーションや協同組合など)で社会・地域の課題に「参加」することが模索されている。そして、無給労働による収入の不足を補うものとして、最近日本でも多くの人がその可能性について話題にするようになったベーシックインカムのアイディア(所得や家族の有無などの条件をつけずに政府が国民に一定の手当てを支給するという制度)が提起されている。

前者は地縁組織を核とした支え合いへの期待であり、後者は自発的なアソシエーション(NPO)に市民が参加することへの期待であると言い換えることができよう。このような期待に応えて地域組織の住民、アソシエーションの市民が支え合いを再編し、地域において力を発揮すれば、今はまだひ弱な存在でしかないNPOセクター(市民セクター)の強化につながるかもしれない。しかし、参加や支え合いへのこのような期待に応える力を果たして住民・市民は今持っているのだろうか。地域には、支え合いを支える仕組みがどの程度築かれているのだろうか。私達は地域福祉への参加をめぐって、常にこのような問いかけをしていく必要があるが、本書はそのような問いかけへの1つの答えでもある。

実際には地域には、参加や支え合いへの期待を知り、その過度とも言える期待に応えてすぐれた実践を行っている事例が数多く存在する。参加や支え合いの事例には、自発性に根差したユニークな活動を展開しながら地域福祉を再編、あるいは新たに構築するパワーが充ちている。

もとより、多様な人びとによる、多様な実践のあり方に正解はなく、1つの課題に対してもいく通りもの解があって当然である。本書で示した地域福祉の取り組みは、各地で展開されている多くの優れた実践の中のほんのわずかの事例でしかない。しかしながら、抽象的でつかみどころのない「地域福祉」という概念は、本書で示された事例を読み進めることで、生き生きとした実践イメージに変わっていくことだろう。

とは言え、実践には基盤となる理論も必要である。大きく3つの柱から成る本書の最初の柱はその理論を扱うものである。地域福祉の実践を理解するための理論をそれぞれの分野の最新動向にくわしい研究者が論じている。地域福祉を展開するにあたって今考えておくべき価値を論じることから始め、続けて地域福祉の主要アクター(実践主体)である市民、NPO(それに昨今注目が集まっている社会的企業)の概念整理とともに、どのようにこれらアクターと協働すればよいのか、その基本的な考え方と研究動向が示されている。理論編の最期には、地域福祉を展開する手法としてのコミュニティソーシャルワークの基本的な理念の提示と概念整理がなされる。

2つ目の柱は実践編である。実践編を読み解くためのキー概念を理論編で得た上で、実践編で示されている多様な人びとによる多様な場における多様な実践の事例を読み、そのおもしろさを味わってほしい。実践編は3つのパートに分かれている。第1のパートでは、地域福祉の場を切り口に、地域住民がさまざまな形でかかわっている事例が示される。第2のパートでは、地域福祉の主要なアクター(実践主体)を切り口に、そのアクターならではの実践事例が、そして最後の第3のパートでは、何らかの福祉課題を抱える人びとをどう地域に包摂していくか、という実践事例が示される。3つのパート、いずれの事例もその地域や実践の場に主体的にかかわっている執筆者によって描かれており、地域の実践の「今」が実感できるものになっている。

本書の3つ目の柱はスキル編である。これは、類書にはない本書のユニークな部分である。参加や協働を成功に導くためには理論や知識だけでなく、実際に使えるスキル(実践の技)も必要であるが、そのスキルを解説したものはあまり見当たらない。本書では、ボランティアマネジメント、ファシリテーションなどのスキルを取り出して地域福祉の実践への応用の仕方を示し、このようなスキルが参加や支え合いという実践を展開していく際の潤滑油となることを明らかにしている。優れた実践の背後には、実はこのようなスキルが隠されているのである。すきるの上達を第一目標にしてしまっては本末転倒だが、ちょっとしたスキルを活用することで問題解決の突破口が開けることもある。執筆者はそれぞれのスキルをつあって実践すること、あるいは教えることのプロばかりである。現場の人びとへの研修やワークショップでしか語られてこなかった実践の技が本書ではていねいに解説されており、読者が実践に使ってみることも可能である。

本書はバランスの良い「地域福祉論」ではないかもしれない。しかし、住民・市民が主役であることが主流になっている「地域福祉実践の今」の多様性は示せたのではないかと思っている。福祉を学ぶ学生や、実際に地域で実践に携わっている方々に、地域福祉のおもしろさや奥深さが伝われば編者としては妨害の喜びである。



第Ⅰ部 理論編――今日の地域福祉を支える思想と理論

第3章 地域福祉とNPO・社会的企業を考える
    ――地域福祉の新たなアクター政成

第1節 NPO法の衝撃


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