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かいたの

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わりとまじめにかいたのはこっちにいれましょ
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2014年5月の記事一覧

恋の病の本当の意味するところの短編

すぐに、人を好きになってしまう病気。

だから、俺は君のことが好きです。

でも、これだけは知っておいて。

人を好きになることは、同時に人を傷つけることでもあるんだ。俺はそれを知っているから、人を好きにならないことにしたんだ。だから。

だから、俺は君を好きじゃない。

君を好きになって、好きになってほしくて、そして君が俺を好きになってしまったら。それより悲しいことはないよ。その意味がわかるよう

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箱にしまって

マジックを買った。黒くて、太いやつ。

どこからか段ボールの箱を見つけてきて、それに目と口を描いた。ニコちゃんマーク風にしてみた。なかなか、いい出来。

段ボールに描かれた笑顔。薄っぺらい、味気の無い笑顔。小学生でもこれくらいはなんなく描ける。どうってことのない、むなしい笑顔になった段ボール。

私は彼に名前をつけた。
名前は「ウィル」
これから先の未来に、思わず笑顔になるような、いいことが待って

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我が名は万丈

一番楽しいのは、二人の距離が縮まっていくその過程。

一番うれしいのは、この人が自分の愛すべき人なのだと、確信できた自分に気がついたその瞬間。

一番悲しいのは、愛した人が涙を流しているとき。それが仮に嬉し涙であったとしても。

一番つらいのは、自分のことを、自分が愛したその人は理解できないのかもしれないということに、その事実に、なんとなく漠然と唐突に気がついてしまったとき。

一番苦しいのは、そ

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えらい

かなしいでも、くるしいでもない、とにかく名状し難いネガティブな感情が押し寄せてきてどうしようもなかった。

とりあえず、noteのなかを徘徊してみた。
その行為に深い意味や意図があったわけではなかったけれど、いろんなひとがいていろんなひとが今日もがんばってることはわかった。みんなえらい。

携帯の充電が77%だった。そうか出目としてはラッキーだな。携帯えらい。

目の前には、わたしのイニシャルをマ

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ダメ人間の免罪符

自らをダメ人間と称する人には、複数のパターンがあるように思う。

一つは、自分の行動に対する免罪符として、自分はダメ人間ですからとあえて先に言い訳しているパターン。
もう一つは、どこをどう考えても、そういうふうにしか考えられない状態というパターン。

私の場合はどちらの感覚も理解できるつもりなんだけども、だいたいの場合は前者が圧倒的に多いように思う。自分は後者だ! と自信満々にドヤ顔で言う方もいら

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晩御飯は

「私だ」
 唐突に受話器の向こう側から聞こえてきたのは、あまりにも耳に馴染んだ弟の声だった。
「おい、聞いているのか。私だ。返事をしろ」
「……」
「貴様、神を冒涜するのか」
「……」
「今すぐ返事をしろ。さもなくば貴様の身に天罰が下るぞ」
 このバカ弟はいったいなにがしたいのだろうか。
 鼻水垂らしながら私のスカートの裾につかまって、どこに行くにもくっついてきた弟。あの頃は本当に可愛かった。共働

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おべんと

正孝は、目の前にあるものの意味を考えると、なにか背筋に寒いものを感じた。難しい顔をして腕を組み、眉間に皺を寄せて考え込んでしまう。

テーブルの上に置かれた、お弁当。

なぜだ、なぜ弁当なんぞ作ったのか。
啓子が突然弁当をこさえた理由について、正孝には思い当たる節が無い。あるときは閻魔のような視線で自分を凝視し、無言のまま家事を押し付けるほどの女だ。これは何かあるに違いない、正孝はそう断じた。

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芯ちゃん

ぼくは、芯です。
そう、芯ですよ。

ぼくがいなかったら、ポリエチレンラップも、トイレットペーパーも、みんな形が崩れてしまうの。だから、ぼくはとっても大事なんだ。柔らかい彼らを、優しく、そして強く支えるのがぼくの仕事なんだ。

でもね、それってちょっと切ないよね。
だってぼくは人間に使ってもらうことができないんだ。ぼくの周りに巻き付いていなきゃ、ラップだってトイレットペーパーだって使えないんだよ。

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瞬間冷凍

写真を上手に撮れる人、すごいと思う。

これは完全に個人的な感覚でしかないんだけど、写真を撮るという作業は時間と空間を切り取る作業だと思ってる。

それは、撮影者にとってはまさに瞬間冷凍。

あとで写真を見返したとき、撮影したそのときのことをほとんど鮮明に思い出せるのではないだろうか。

そのときの季節。

そのときの温度。

そのときに聞いた音。

そのときに嗅いだ匂い。

そのときに食べたもの

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父と娘の

カーテンがふわりと舞って、涼しげな風が静かに吹き込んできた。
私は窓をずっと開けっぱなしにしていたことに気がついて、読んでいた本を机に伏せると椅子から立ち上がった。

窓際に立つと、再び風。

明日は雨が降るのかな。夏の涼やかな風は何度かカーテンをくるくると躍らせた。

私は窓を閉めると、リビングのある一階へ向かった。

階段を降りる途中、手すりを無意識に掴んでいる自分に気がつく。若い娘が手すりな

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愛してるって伝えることの難しさ

愛してるって、伝えてますか。

私は伝えてません。

理由はふたつあります。

ひとつは、なんとなくその言葉を繰り返すことで、言葉のありがたみや重みが、少しずつ薄っぺらいものになっていってしまうような気がするから。繰り返すだけの言葉になってしまって、愛の価値まで失われてしまうような気がするから。

もうひとつの理由は、恥ずかしいからです。

恥ずかしいよね。愛してるって、伝えるの。

でもね、愛し

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モンブラン

どこか頭がぼーっとしている。まだ、熱が下がりきっていないみたい。

風邪で学校を休むなんて何年ぶりだろう。なんとかは風邪ひかないなんていうけれど、どうやら私はギリギリセーフだったらしい。

一昨日、学校からの帰り道。ナツと一緒に歩いていた私は、急に目眩がしてその場にへたりこんだ。
それを見たナツはやたらと慌てふためき、一緒に居るのが恥ずかしいほどに動揺した。通りすがる人たちの視線は、倒れた病人より

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