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かいたの

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わりとまじめにかいたのはこっちにいれましょ
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たとえばのはなし

たとえば私は、一度も異性にふられたことはありません。

ふったことはあります。みんな、泣いていました。

人を傷つけたことで、私は人を傷つけることの痛みを知りましたが、結局そんなものは、傷つけられた側の痛みに比べるとどうってことないわけですから、今はもうただただ、申し訳ない気持ちが心のうちにあるだけです。

たとえば私を、好いてくれる異性はいまだにいるようです。

それでも私が人を好きになることは

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絵の具のようなものかと思った

ある日、唐突に好きな色を見つけた。

自分の持つ色と、混ぜたらきっときれいな色になると思った。

最初は、パレットの両端に。間には色とりどりの絵の具があって、混ざったり、離れたりしていて、自分は自分の色のまま、向こう端まで、あのきれいな色のあるところまで、いけるのかしらと不安になったりもした。

すこしずつだけど、近づいて、できる限り他の色に染まらないまま、ふたつの色が近づいて、季節も変わって世界

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どうでもよくないどうでもよいこと

私にとって、女性が髪を切ったとか洋服を新しく買ったとか、どうでもよいのである。でも多くの女性にとってそうではないらしい。

私にとって、多少部屋が汚いとか、ご飯がいつもレンチンだとか、どうでもよいのである。だって私は家事をやってもらってる側なんだから。

私にとって、年越しにそばが出てこなくて残り物のカレーが食卓に上がっていたって、そんなことはどうでもよいのである。それはあなたが作ってくれたものな

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すきま

愛と愛の隙間に落っこちても心配しなくていい。

愛に押しつぶされて圧死してしまうようなことはないから大丈夫。

むしろ問題になり得るのは、そこから出たくなくなってしまうことなんじゃないかしら。

一生懸命

若い時分に、俺はきっとこの音楽とこのアニメとこの絵を一生愛していくんだろうなって思ったもの。ただのひとつも、憶えてはいない。

何度も何度も見返して、それでも毎回変わらない感動を与えてくれる映画はあるけど、それが十年後二十年後の私にも、今と同じ感動を与えてくれるかどうかはわからない。

でもそんなこと、気にする必要なんてないんだって唐突に思った。

そのときそのときで、一番好きなもの、一番愛すべき

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結論のない話

少し長い話になる。

気になる人だけ、読んでもらえたらいい。

私は誰よりも家内を愛することができ、また誰よりも家内のことを理解している。それでも私たちは一年後には離婚しているかもしれないし、少なくとも別居しているかもしれないと思っていて、その理由を友人に説明する場面に出くわしたのだが、それがとても難しかった。

私にとって生きる意味は何かと問われれば、全ては家内のためであった。

私が一生懸命仕

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理由がいりますか

今、このとき。

私の目の前にいる女性は、なんということもない普通の日本人で、それらしい特技や実績を持つでもなく、極めて美しいわけでもなく、普通に歳を取り、今日は月の物のせいなのか極めて機嫌も悪く、最終的には居間でそのままタオルケットにくるまって寝息を立てている。

世の中には、輝かしい実績を持つ女性、社会で活躍する女性、世に認められるわけでなくてもその人の属するコミュニティのなかでは十分に魅力を

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世界の時間がゆっくり感じられたなら、きっと今、あなたは満たされてる。

世界との付き合い方

世界とどう付き合っていくのかはむずかしい。
難しすぎて、いつもうまくいかない。

最近思うのは、私はどうやら世界に対して無害でいたいのではないかしらということ。

宮沢賢治という人が私にとってはすごく大きな存在なのだけれども、その中でも雨ニモマケズには思い入れが深い。ここでその内容には触れないけれども、幼少のころに初めて目にしたときには何も感じなかった。社会に出て、異性を知り、自分の子供ができて、

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年下の男の子

義昭は、まだ帰ってこない。メールもないし、もちろん電話も無い。

今夜は、特別な夜。
ふたりにとっての思い出の日からちょうど一年目の夜。

とはいっても、義昭の方では今日のことを特別意識していないかもしれない。私のほうは鮮明に憶えているけれど、普通はそれほど気にしないような、記念日とも呼べないような、些細な思い出。

今日は、義昭が初めてうちに来た日。そして、私が初めて手料理を披露した日だ。
一年

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ろうそくさん

自分自身をすり減らして、他人に奉仕したことがありますか。ぼくは、毎日そうやって過ごしています。
自分自身の寿命を、残された時間を、リアルに感じたことはありますか。ぼくは、削られていく寿命を目の当たりにしながら毎日を過ごしています。

誰かのために役に立つこと。それはとても崇高なことだとぼくは信じています。信じていなければ、とてもやっていけません。誰かのために働いても、ぼく自身は、別に何の得もしない

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カーテンの向こう側

いかにも入院患者の食事といった風体の質素で味気ない朝食を終えて、徐々に温まっていく日差しを受けてうつらうつらし始める頃。
決まってカーテンの向こう側がにぎやかになる。

看護婦さんに聞いた話では、隣のベッドにいる患者さんは40代の女性で、もうかれこれ半年ほど入院しているらしい。
なんでも、長期的な投薬療法が必要な病気で、なかなか退院できずにいるとのこと。

携帯電話を見ながら自転車に乗り、派手にす

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掌の雪

絵里は、ベッドの上で様々な機械に繋がれ死んだように眠っている母親を見て、どうして、と私に尋ねた。

お母さんはね、お熱があるんだ。風邪をひいちゃったんだよ。

雲が低く垂れ込める寒い日だった。病院へ向かう車中で、絵里は上機嫌だった。普段は仕事ばかりで、絵里と私が一緒に出かけられることなんてそうそうない。絵里にとっては楽しい遠足気分だったのだろう。窓の外を流れていく雑多な景色に、いちいち反応しては大

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娘と母のとある日曜日

何人かのスーツを着た男女。互いに何度か会釈をし、それぞれ別々の方向へ歩き始める。

片方は、三人のグループだった。初老の男性と、青年。そして青年の母親と思われる女性の三人である。もう片方は女性がふたり。こちらは若い女性とその母親だった。
ふたつのグループは正反対の方向へと歩いていく。自然と、すぐにある程度の距離ができた。きっと今振り返ったとしても、相手の表情を見て取ることはできまい。既に、それなり

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