""""新社会人に伝えたい事""""の正体

 「新入社員諸君!」「飲み会には出ろ」「メモを取れ」…春先のインターネットには箇条書きの長文が乱れ飛ぶ、既に伝統を形成しつつある、インターネット季語とも言うべきネット市民権を得た恒例行事だ。かくいう私も昔はよく書いていたし、それを10年続ける内に内容も大きく様変わりしてきた。実際にハッシュタグで検索しながら、当時を思い出して具体的に書くと下記みたいな感じだろうか。

 ~2年目:飲み会に出ろ。メモを取れ。デカい声であいさつしろ。
 ~5年目:素直であれ。怒られから学べ。すぐ上司に相談しろ。
 ~7年目:運だよ。よく寝ろ。勉強しろ。
 今    :あんま気にしないでいいよ

 なるほど、それぞれの年次の視座があると思うし、全体として言ってる事はまぁ正しい様な、正しくない様な気がしている。基本的には過去の自分を肯定しつつバイアスのかかった事を言っており、たまたまハマった人にとっては使えなくはないけれども、万人に対して有効かと言われると疑問な感じのフレーズが並ぶ。10年を超えて、今思うのはあんまり気にし過ぎることもないかなということだ。

 と、言うのも、これらは別に嘘を言ってるワケではないが、書かれている一行二行は、実際には百行千行一万行の膨大な体験の上面をなぞっただけのものであって、それを本当に理解するには結局の所同じ体験をして失敗や成功をするしかない。人は一行を読んでその背後に潜む一万行を体得することは結局できないので、十年間やって色々と含蓄があればこの一行を読んで思う所があったとして、新卒でそれ読んでその意図を汲んで正しく何か活用できるかと言われれば結局は難しい気がする。

 まぁ、内容を何も考えずに飲み会出てメモ取ってデカい声であいさつする様にしておけば、プラスかマイナスかと問われれば一応損はしないので、何も考えずに実践できそうであればちょっと取り入れてみても悪くは無いのかもしれない。ただ「疲れたら休んで良いんだよ」系の奴とか、内容が危ういのも結構あるので、結局はよく考えなければ使い物にならない。標題に書かれている新卒への影響度というのはそのくらいだ。

 この""""新社会人に伝えたい事""""が本当にターゲットとしているのは、むしろそれを書いている同世代間のコミュニケーションなのではないかと思う。「わかる」「そうだよな」「新卒はよく読んでおけよ」。同じコンテクストを共有するおっさん達がお互いを称賛し合い、RTし合う。本質はどちらかと言えばそちらにあり、これは若者置いてけぼりでおっさん達が過去の成功体験をエッセンスにして賞賛し合う、そういう場であるというのが一番実態に近い気がする。

 それはそれで別に良いと思うし、誰かに迷惑をかけてるわけでもないし、何よりこれが流れてくると「春だなぁ」と思うのでぼくはそんな嫌いでもないです。


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